四.似た者同士③
出たよ。あの不思議な力だ。新庄さんの顔を見ると、驚いている様子だったので、二人の間に金銭トラブルがあったことを事前に把握していなかったようだ。
「ん⁉ 長崎君はお金持ちだったようですね。実家が裕福なのですか?」
「普通のサラリーマン家庭だよ」
「じゃあ、何故、彼はお金を持っていたのですか?」と言った後で、二代目は「おや?」と皆の顔を見回すと、「皆さんも彼がお金を持っていたことを知っていたのですね。それも、どうやってお金を手に入れていたのかについても」と言った。
サークルメンバーは一様に二代目から視線を逸らした。頼むから自分に聞かないでくれということだろう。
「まあ、その辺、追々分かってくるでしょう。松野君、あなたは長崎君からお金を借りていた。しかも、結構な額の借金があった。返済を迫られてトラブルになっていた。違いますか?」
「別に返せなんて言われていない!」と松野君が発言したものだから、彼が長崎君から借金をしていたことがバレてしまった。
「ほう~では何故、トラブルになっていたのですか?」
「それは・・・」と松野君が言葉に詰まる。
「臣従ですか?」
「しんじゅう?」
心中だと思った。
「絶対服従と言えば分かりますか?」
「うぐっ・・・」松野君が妙な悲鳴を上げた。図星のようだ。沈黙の後、松野君が叫ぶ。「金を借りているからと言って、人格を否定される覚えはない。そうだろう? 金を持っているからって、そんなに偉いのか!」
随分、嫌な思いをしていたようだ。
「友人同士でのお金の貸し借りは止めた方が良いですよ。関係が対等でなくなってしまうことがあります。お金を貸した側は施した気分になって、借りた側は返さなければならないという意識が働いてしまいますからね。貸した側が優位に立ってしまう」
「仕方ないだろう! 車で事故っちまって、金が必要だったんだ」と松野君は言う。
車が大好きな松野君は高校を卒業すると直ぐに免許を取った。大学生になると、アルバイトに精を出し、足りない分は親に泣きついて中古車を買った。「運転に自信があったものだから、つい油断してしまった」らしい。長崎君や五代院君も同乗していたと言う。
「子猫がいたんだ。道路の上にな。ヤバっと思ってハンドルを切ったら、隣を走っていた外車に当ててしまった」
良く聞く話だ。こういう事故は意外に多い。松野君、見た目とは裏腹に優しい性格のようだ。
「相手がその筋の人でなくて良かったよ。子猫が飛び出して来たと言ったら同情してくれた。それでも悪いのはこっちだ。修理費を弁償しなくてはならなくなった。困っていると、長崎が、金なら貸してやるから気にするなって言うもんだから、最初はありがたいって思ったよ。ところが、直ぐに態度がデカくなりやがった。あいつ、今後、人前では俺のこと部長って呼べと言い出した」
「ああ、あれ。ふざけて呼んでいるのかと思っていました」と若狭君のどちらかが言った。顔を見たが、何も書いていなかった。
「利子代わりだと言って、パシリをやらされたり、一時間もマッサージをやらされたり、俺の良いところを言い続けろっていうのもあった。二人切りだと、まるで奴隷だった」
そんなことまでやらされるなんて、一体、いくら借りていたのだろう。
「長崎君からいくら借りていたのですか?」
二代目も同じ疑問を持ったようだ。
「それは・・・」と松野君は口籠った後、「百二十万円です」と吐き捨てるように言った。
「百二十万円!」思わず声が出てしまった。学生同士の貸し借りにしては立派な借金だ。思わず声が出てしまったものだから、「君の感想はいいから」と二代目に釘を差されてしまった。
しかし、随分、高級な外車にぶつけてしまったものだ。
「長崎君から金を返せと迫られ、つかみ合いの喧嘩となって彼を殺してしまった。違いますか?」
「違う! 大体、長崎は自殺したんだろう⁉」
殺されたということは聞かされていないようだ。
「何故、そう思うのです?」
「だって、あいつ、天井から首を吊って死んでいたじゃないか!」
「ああ、彼の遺体を見たのですね?」
「見たも何も、遺体を発見したのは俺たちだ」
「俺たち?遺体を発見した時、あなた以外、いたのは誰ですか?」
「若狭兄弟だ」
横から若狭君の多分、龍臣君が「あの日は、僕たち食事当番だったので、早起きして下に降りたのです。そしたら、階段の下に五代院さんが転がっていて・・・驚いて、どうしようとなって、先ずは長崎さんを起しに行きました。部長ですから。でも、何度ドアを叩いても出て来てくれません。隣の松野さんがどうしたって部屋から出て来てくれて、それでドアを開けました」と補足した。
「鍵は掛かっていなかったのですね?」
「はい。鍵は掛かっていませんでした」
ボタン錠と呼ばれる部屋の中からドアノブの真ん中にあるボタンを押して鍵をかけるタイプの錠前だ。サークル仲間の集まりだし、鍵を無くすと鍵代として三千円を支払わねばならないそうで、部屋の鍵は配っていなかった。
「誰も鍵なんて掛けない」と松野君が言う。
心配なら部屋の中から鍵を掛けることが出来るが、男性陣は誰も鍵を掛けなかったようだ。




