二.神エイト⑤
二代目はレアメタルの話に興味を持たなかったようだ。「なるほど」と満足そうに頷くと、「食事の時はどうでしたか?何か変わったことはありませんでしたか?」と話題を変えた。残念、もう少し聞きたいところだった。
「食事?」一同、首を捻った。「特に変わったことは無かったと思います。何時も通り、にぎやかに食事をすませました」と筒井君。「テルがテーブルの周りを走り回って、ビールをぶちまけたことくらいだな」と松野君。「松野さん。あれ、タツですよ」と若狭兄弟の、恐らく輝臣君だ。
「変わったことですか・・・」と筒井君が考え込むと、新沼さんが「ほら、あれ。呪いの話」と小声で囁いた。
「呪いの話?」
「この屋敷には獄門丸の呪いっていうのがあるそうです。昔々――」と車の中で聞かされた五郎丸の呪いをまた聞かされた。
新庄さんから聞いたはずだが、二代目は熱心に耳を傾けている。一通り説明が終わると、新沼さんが補足して言った。「このお屋敷で高子さんの悪口を言うと、呪われるそうです。高子さんだけじゃなく、女性の悪口が禁句なんですって」
「そうそう。ここでは女が偉いんだぞ~」と北野さんが嬉しそうに言う。
彼女の明るい様子に「ウーマンリブですか?」と思わず、口を挟んでしまった。
「古いこと言うね~ウーマンリブって女性解放運動のことだよ」と二代目が指摘する。
ちょっと違うか。
「とにかく、このお屋敷で誰かを陥れたり、傷つけたりすることはダメなのだそうです。五郎丸の呪いは正義の味方で悪を懲らしめる、善人に優しい呪いなのです」と筒井君が締めてくれた。
多少、尾ひれがついている。怪談話はみな、そうだ。
「長崎君と五代院君はどうでしたか?」
「長崎は鍋がお好みではなかったみたいだ。鍋が嫌いだなんて珍しいやつだよ」、「そうですね。さっさと食事を終えると、疲れたからと部屋に戻ってしまいました」、「部長がいなくなって、がっかりしましたよ」、「体調、悪かったんじゃないですかね」とメンバーが口々に発言する。
口の悪い松野君が口撃し、それを下級生がフォローする。何だろう。何処か冷たい空気を感じてしまった。二代目が言った「長崎君は皆に嫌われていた」という言葉が引っかかっていたからだろう。
「五代院君は?」
「五代院は・・・どうしてたっけ?」と松野君が問うと、「いつも通りだと思いますよ」と筒井君が答えた。
「つまらない話をして、へらへら笑っていただけか?」
辛辣な言い方だ。嫌われ者の部長、根暗な副部長に毒舌主務、四年生の幹部、三人はなかなか個性的なメンツだったようだ。
慌てて筒井君が訂正する。「いえ。そんな。にこにこと、みんなの話を聞いていたんじゃなかったかって思っただけです」
「けっ!」と松野君が吐き捨てる。恨みでもあったのだろうか。
「時間は? 夕食は何時から何時まででした?」
筒井君が答える。「六時くらいから初めて、一時間ちょっと、七時過ぎまで、おしゃべりをしながら、だらだらと食べていたような気がします。それから後片付けをして、全部、終わったのが八時前でしたから」
食事当番だ。大変だったろう。
「長崎君が部屋に戻ったのは?」
「そうですね~食事が始まって十五分くらいしてからだと思いますよ。ガツガツって食べて、直ぐに部屋に行ってしまいましたから」
「ふうむ」と二代目が呻く。
長崎君が部屋に戻った時間が何か意味があるのだろうか?
「五代院君は?」
「五代院さんは・・・そう言えば何時の間にかいなくなっていました」
どうやら陰の薄い人物のようだ。悲しいことに、筒井君の言葉に、皆がうんうんと頷いた。
二代目が気を取り直して言った。「さて、いよいよここからが本番です。事件の核心に迫って行きますので、皆さん、心の中に仕舞い込んでいる思いを打ち明けて下さい」
いよいよ謎解きが始まるようだ。




