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スキル「針治療師」は今日も肩こりと社会を治します 短編版

作者: 新川さとし

 王国西部のとある地方都市。


 下町に生きる庶民達は、今日もワイワイとたくましい。商店の建ち並んだ裏通りにある小さな針治療院である。


 ヒールを中心とした魔法による治療は貴族や騎士のためにある。庶民が頼るのは薬師のつくる薬湯や祈り、そして針灸である。開業には免許がいらない代わりに、腕の良し悪しの見極めはシビアだ。


 特に、下町の女将さん達はお互いの情報交換が盛んなだけに、いったん高評価を得ると客はいくらでもやってきた。


 今も治療台でうつ伏せになっているのは、下町で一番の店を構える女将さんのマーサさんだ。年頃の娘がいるとは思えない美貌とスタイルの持ち主でもある。


「あ~ 楽になったぁ。ハリちゃんの治療はホントに良く効くよねぇ。あっと言う間だよ」

「ははは。効いたんなら良かった」


 針治療師というスキルのおかげだ。


 12歳になると稀に「スキル」を授かることがある。貴族の血筋なら数千人に一人。もっともっと稀に庶民にも授かることがあった。


 ただし、戦闘に使えるスキルはお貴族様の専売特許。戦闘系のスキルを持っている人間に、スキル無しの人間は絶対に勝てない差が付くもの。どこの騎士団でもスキル持ちは部隊長や「師範」役に収まるのが普通だった。


 一方で庶民に授かるのは「生活」スキルだ。農業で使える「緑の手」だとか、商売に便利な「計算」のスキル、各種の薬草に特化した「薬局」などのスキルなどがポピュラーである。


 オレが授かった「針治療師」は超レアスキルだった。存在すら知られてなかったが「使い方」は問題ない。ほら、歩く時の足の使い方。コップを持つ時の掴む力や持ち上げ方は身体が勝手にやってくれるだろ? スキルというのも同じこと。


 針治療師のスキルの場合「何を治療するのか」を決めた瞬間、針を打つべき場所が分かる。しかも患者さんの体内に針を生成できるんだ。


 針治療師のスキルはツボを絶対に外さない。上手く言えないけど、治したい症状を頭に浮かべただけで、ピカッと光る場所が頭に浮かぶ。後は「治療開始」で針を生成してあげれば良い。基本的にツボって痛点とはズレているからちっとも痛くない。まあ、支払いの悪い奴の場合は、一本くらい、ワザと痛いところに打ってやっても良い。ま、めったに()()()()けどさ。


 物理的な刺激で直接神経を刺激・遮断することまで可能な針治療師のスキルは万能に近い。特に肩こりみたいな痛みには劇的な効果があるんだ。


 マーサさんも、ひどい肩こりと頭痛を治療しにくる常連だ。


『針を打つのは一瞬だけど、抜くのは手作業になるからなぁ』


 これが大問題。


 ジイちゃんバアちゃん達相手ならともかく、マーサさんみたいな美魔女の時はドキドキもの。


 だってさ、普通の女性はミニスカートどころか膝すら見せないのが常識なんだぜ。お貴族様のパーティードレスだってデコルテと背中は出すけどヘソは出さない。


 普通の女性が肌を見せていいのは夫か、夫になる予定の男だけ。だから、こっちも女性の肌に対する抵抗は大きいんだ。


 服の中に手を突っ込んで抜いていく。見てないから、どうしても肌に触れてしまうので「失礼」を連発してしまうわけだ。


 マーサさんは「マリならともかく、こんなオバさんに気を使わなくていーんだよ。こんだけ効く治療だ。なんだったら素っ裸でやってもらったって罰は当たらないさ」と豪快に笑ってくれる。


 いや、さすがにダメでしょ。ちなみにマリというのは、マーサさんご自慢の娘。この辺りでは器量好しで有名だ。時々、お母さんの作りすぎたオカズを持って来てくれる優しい女の子でもある。


「だってねぇ。その方があんたの仕事も早く済むだろ」

「だ~か~ら~ そういうわけにはいかないの!」

「ハハハ。大丈夫だよ。亭主に黙ってれば誰にも分からないんだから」

「ちょっと、その浮気してる時みたいな発言、やめてくれよ。誤解されちゃうじゃん」

「ふふふ 真っ赤になっちゃって。ウブだねぇ」

「からかうと、痛くするからな」

「まぁ、おーこわい♪」


 ダメだ。オレが何を言っても効き目はないらしい。


 オレのスキルの欠点は抜くときだ。入れるなら、身体のどこでも、何本でも一瞬で入れられる。しかし抜くのは手作業なんだよ。


 毎回、女性の治療はオレの羞恥心との戦いがメインだ。


「だーれも気にしちゃいないよぉ。ハリちゃんの思った通りにどんどんやっちまいな。そのためなら喜んでひと肌でも、ふた肌でも脱ぐからさ。その代わり、いたーくしちゃ、ヤだからね」


 くだらない話を楽しげに喋っているのも、恥ずかしがるオレに気を使ってくれているからだろう。


「で、真面目な話、そろそろお嫁さんをもらわないかい? 同い年だろ、ウチのマリと。器量は私に似て良いし料理も上手だ。何より、あんたのことが大好きだっていっつも言ってるよ」

「あ~ 結婚なんて、まだまだ先さ。おっと、次の患者さんが待ってるみたいだ。じゃあ、お代はいつもの通りね」

「もう~ いくらモテモテでもねぇ、そろそろ身を固めなよぉ。ウチの子ってば私に似てデカいよ? 亭主ならアレが自由になるんだからね?」

「ははは。魅力的な話だけど、オレの身にはちょっと余るかな。まあ、ちゃんとしたヤツがどこかにいるよ。はい、じゃ、次の人ね」


 おかみさんが襟元を治したのを見計らって治療室から追い立てる。このあたりはサバサバしておかないと、キリがないからね。


「あ~ もう! 私が20年若けりゃ、ほっとかないんだけどねぇ。押しかけ女房でも、押しかけ愛人でも」

「はいはい。じゃあ、また明日ね」

「あぁん、ツれないねぇ、まったく。お世話様でした。あ、モツ煮を作り過ぎちゃったんだ。後でマリにお裾分けを持っていかせるから食べておくれよ」

「お、サンキュ。マーサさんのモツ煮は最高だからね。楽しみにしているよ」


 下町は助け合いが盛んだ。オバちゃん達と親しい独り者には、漏れなく「(わざと)作り過ぎちゃった煮物」と「お嫁さん候補」があっちこちから持ちこまれる。


 前者はありがたく頂戴し、後者は固くおことわりしている。


『オレの家族になんてなったら、その人が不幸だよ。独り身でも針治療でちゃんと食べていけるし、近所からの頂き物で夕食もバッチリ。これ以上は望まないさ』


 ふっと弱気になりそうな自分に、そう言い聞かせて「次の方~」と声をかける。

 

 ん?


 誰も入ってこない。この街で治療院を営んで3年。今では患者さんが途切れたことはないのに。


 さっきまで待合室も、近所のジイちゃんバアちゃん達が楽しそうに喋ってただろ。なんで、こんなに静かなんだ?


「ヘンリー兄さん、やっと見つけました」


 入って来たのはお貴族様だと宣伝するかのような、隣国の騎士姿をした一人の青年だった。


 お貴族様が押しかけていた以上、待っていた人は後難を恐れて逃げ出したに違いない。おそらくは待合室には護衛と従者達が控えているのだろう。


 営業妨害だぞ! とむくれたオレは横を向いて言葉を投げ捨てた。

 

「帰れ」

「邪険にしないでくださいよ。八方手を尽くしてやっと探し当てたんです。改めて言いますけど公爵家はヘンリー兄さんが継ぐべきです」

「会う早々にそれか? 出奔(家出)するとき手紙に書いておいたぞ。長男は死んだ。今ここにいるオレは針治療師のハリだ。ニードル公爵家はアルバート…… 弟である、お前が継ぐべきだ」


 置き手紙に必要なことは全部書いた。父上は、とっくにオレを亡き者として考えているはずだ。当然、貴族籍からも抜かれているはずだ。


「ヘンリー兄さんは嫡男のままですよ」

「何でだ? そんなの良いことなんて一つもないだろ」

「勘弁してくださいよ。いくらスキルが弱いからって嫡男の立場を放り出すのは無責任過ぎます。兄さんらしくない」

「オレはスキルが()()から飛び出したわけじゃないぞ。お前が公爵家を継ぐにふさわしいと思っただけだ」

「でも、スキルが理由だって書いてましたよね? 少年時代、天才の名をほしいままにしたヘンリー兄さんの代わりなんてオレには荷が重すぎます。父上も、武者修行のために諸国を留学中ってことにしています」

「あ~ それはだな「ハリちゃん! 助けてくれ!」」


 んん?


 おそらく待合室の従者が侵入者を押しとどめようとしているんだろう。しかし、お貴族様のお供だと分かっている人を押しのけてまで、オレを呼ぶのだからただごとではない。


 アルバートを手で制してから待合室に行くと、マーサさんの夫だった。


「マリが馬車に跳ねられたんだ!」

「なんだって! 具合は?」

「意識はあるけど、足がヘンな方向に。おそらく折れてる」

「う~ わかった。意識があるなら命は何とかなるな。ここに連れきて!」


 その時横からアルバートが口を出してきた。


「兄さん、ここの担架を借りるよ。ウチの連中に担いでこさせるから」

「わかった。手を借りる。お前の家臣に任せるのが一番速そうだからな」

「ありがとう。任せて。おい! そなたは父親だな? 現場に案内せよ!」


 え? え? え? いきなり「お貴族様」に迫られて狼狽えてる。そりゃ、庶民はそうなるよ。でも、娘を救うことを優先したらしい。


「こっちです。お願いします!」


 そう言ってドタバタと出て行ったと思ったら、5分と経たないうちに担架に載せたマリを連れて戻ってきた。


 現場はホントに近所だったらしい。


 マーサさんも蒼い顔をして付き添ってきた。


「ご苦労様。でも、男達はさっさと出てもらうよ。年頃の娘を治療するんだからね」


 マリを運び入れると、マーサさんがすぐに男達を追い出した。


「ハリちゃん、何とかなるかい?」

「わからん。左脚の骨折は固定すれば大丈夫だと思うけど」


 そう言いながらスキル発動。


『足の痛覚を一時的に遮断! あれ?』


 ツボが反応しないことに気が付いた。


 治療に最適なツボが、意識することなく分かるのがオレのスキルだ。ということは「痛みを取る必要がない」ということ。

 

 オレは内心青ざめたけど、顔はのんびりさせたまま、聞いてみた。


「マリちゃん、ひょっとして足の痛みって、あんまり感じない?」

「うん、痛みっていうか、感覚が無いみたい」


 マーサさんが慌てた。


「そ、そんなはずないよ! ハリちゃん、ちゃんと確かめてやって! あ、いや、その前に服が邪魔だね」

「え? え? 母さん、やめて、あぁ、だめぇ!」


 診療室に小さな絶叫が響いた。


 止める暇もあらばこそ。母親の手で、ワンピースのボタンが外されて、あっと言う間に全裸にされてしまった。


 ワンピはともかく、下着を脱がす必要はないんじゃという突っ込みは必要ない。実は下着こそ、脱がす必要があったからだ。


 マリちゃんは失禁していた。本人が気付く前に脱がせて上げたのだ。お年頃の娘の心情に気を使ってのことだろう。


 オレの前なのにってな言葉を挟めないくらい、真剣なマーサさん。


「確かめておくれよ!」


 もう、腹をすえるしかなかった。


「ここは? ここ? こっちは?」


 年頃のお嬢さんだけど、オレは無遠慮に足首から腿へと強めに摘まんでいった。


 マリちゃんは力なく首を振り続けた。ホントは確認するまでもない。汚れた部分をマーサさんがタオルで拭っていても、ちっとも気付いてないのだから。


 悪いことに、感覚がないのは左だけではなかった。どうやら腰椎で神経がやられて下半身麻痺の状態らしい。


 横で見ているマーサさんも、それがわかるんだろう。無理して娘に笑顔を見せているけど顔色は悪い。けれども軽口はいつも以上だ。


「あらあら、役得だねぇ、マリ。大好きなハリちゃんに自慢の部分を見せられたし。これで、たーんと治してもらえるよぉ。良かったねぇ、ふふふ」


 そんな風に笑いかけるマーサさんだけど、見えないところで拳を握りしめてブルブル震わせている。


 マリちゃんは、あまりの恥ずかしさで真っ赤だ。極度の羞恥で「下半身の感覚がない」という重大な事実に考えがいってない。母親の作戦のお陰なのだろう。


 それもこれも「この瞬間だけ誤魔化せば、ハリちゃんが何とかしてくれる」という信頼ゆえなのだろう。


 だが、どうする?


『クソッ、この世界に外科手術なんて無い。レントゲンすらないんだぞ。どうすりゃいいんだよ』


 そうなんだ。オレは転生者。前世を思いだしたのは、この世界の貴族の子弟がスキルを授かる12歳の儀式でだ。貴族だけど戦闘用ではなく「針治療師」を授かった。


 こいつのヤバさに気付くまでに2年かかった。タイミングを見て「死んだと思ってくれ」と置き手紙をして家を出たのが4年前。流れ流れて、ここに針治療院を開いて暮らしてきた。


 それにしたって、いくら針治療でも、神経損傷までは…… え? ツボが見える! 治せるのかよ!


 スキル「針治療師」は治療に必要なツボが浮かんでくるんだよ。治せるからこそツボが浮かんだんだ。


「マーサさん、やってみるから手伝って。身体を横向きにするんだ」

「あいよ。え? あ、えっと、これでいいのかい?」


 マリちゃんが、顔を押さえながら、息も絶えそうな様子で「やめて」「許して」「恥ずかしい」と叫んだのは当然だ。


 乙女として、たとえ服を着ていても絶対にしたくない格好だから。


 横向きになって背中を丸めた側臥位(そくがい)と呼ばれる体位だ。


 こうすると脊椎の間が広がりやすい。前世では、この体位で腰椎麻酔(通称(腰麻(ようま))を掛ける。虫垂炎や痔の手術くらいならできるほど。


 後ろから、大事な所が全部見えちゃっている格好をさせている。


 さすがにマーサさんも何か言いたそうだったけど、グッと堪えてくれたのは下町の母だけはある。


「おかあさ~ん。もうダメッ、お嫁に行けない」

「ハリちゃんを信じなさい。恥ずかしいのは分かるけど、今は治すことだけを考えるの。後で、ちゃんと母さんから話してあげるから。今は我慢をおし!」


 下半身麻痺に気付く余裕がないらしい。それが何を意味するのか分かってないのはむしろありがたかった。


『こうして恥ずかしがってくれてる方がマシだよ』


 正面からマリちゃんの手を握って「大丈夫。骨は拾ってあげるよ」と、縁起でもない励ましをしてるけど、もー、そっちは知らん。


 ともかく腰周辺に浮かんだ十箇所以上ものツボに長針をスキルで撃ち込む。針の痛み自体は感じないはずだ。


 次の瞬間、マリちゃんが、さっきと別の悲鳴を上げた。


「痛い、痛い、痛い! なんで? どうしてなの? 足、痛いよぉ! 直してくれるんじゃなかったの!」

 

 慌てて、左脚の痛覚をブロックする針を打ちたいところだけど、先に腰椎周辺に撃ち込んだ針を抜かないと。


「暴れないで! 足をばたつかせたら」


 もっと、いろいろと見えちゃうから、と言う言葉は引っ込めた。でも、マリちゃんも気付いたのか、ただひたすら両脚をグッと閉じようとしたのが乙女心。


 力が入るようになったってことは、大丈夫なわけだ。


 ホッとした。


 針は腰椎から臀部に掛けて十数カ所。デリケートな場所にも深い針が打ち込まれてる。


 腰と同じ高さに屈んでいるから、全部見えちゃうじゃんっていうか、ごめん。しっかり見てしまった。


 ちゃんと見ないと外せないからね。さすがに、こんな場所を「手探り」したら、そっちの方がヤバい。


 腰の針を抜いて、足の痛みを一時遮断。その後で骨折を修復した。


 何だかんだで、2時間以上経っていた。


 骨折の痛みを遮断したけど、マリちゃんは「もう無理ぃ、お嫁に行けない」とぶつぶつと天井に向かって呟いてる。


 毛布を掛けてから、オレは聞いてみた。


「ところで、なんで馬車に?」

「それはその「この子は、ボーッとしていたから事故なんかに遭うんだろ」」


 マーサさんは、娘が無事な喜びを押し隠すためなのか、それとも娘の大事な所をオレみたいなヤツに全部見せてしまった照れ隠しなのか、つっけんどんに娘の言葉を遮った。

 

 確かに道は整備されている。馬車が通るところと歩道が分けられているから、事故に遭うなんて子どもくらいだ。


「違うの! あれは事故なんかじゃない! 突き飛ばされたんだもん!」

「「え?」」


 そこから、話を聞いてみたら、恐るべきこと。平民街に居を構える武芸者が、このところ言い寄ってきた。そいつが馬車に向かって突き飛ばしたらしい。


 武芸者っていうのは、この国独特の制度で、騎士団の騎士に通いで武芸を教える仕事だ。例外なく、武術に関するスキル持ち。


 並み居る騎士をなで切りにできるほどで、他国の剣術指南役だったという触れ込みだった。まあ、たいてい、そういう奴は素行に問題があって解雇されているんだけど。


 くだんの男は伯爵家の居候になっていた。


「どうしよう? オレのモノにならなければわかるなって突き飛ばされたの」


 伯爵家お抱えの武芸者が相手だと抗議のしようがない。


 オレができたのは「後は、コイツを使って何とかする」と、ちょうどお貴族っぽい姿でやってきた弟をダシにして、安心させること。


 だけど、貴族同士は何とかなるかもだけどヤツを野放しにしたら危険だ。


 奴が騎士団に稽古を付けに行った帰りを狙った。


 腕に自信があるのだろう。騎士団の塀が目隠しになっる場所で待ち構えていたら、ヤツは堂々とオレの前に立った。


 まあ、こっちは手ぶらだったしね。


「お前が狙った娘だけどさ」

「ふん、生きていたか。言っておけ。さっさとオレの女になるか、また痛い目に遭いたいか選べとな」

「ふぅ。いっそここまでクズだとこっちも気が楽だよ」

「なんだ? 文句があるならお前にも教えてやろうか」

「な~にを教えるつもりなんだか」


 オレの言葉はいささか挑発的に聞こえたのかもしれない。


「教えて欲しいらしいな。わかりやすいように右腕一本で許してやる」


 うん、これだけクズなら心置きなくやれるな。


 スキル発動!


「う、動かなっ」


 剣を抜きかけた男は、ピタリと動きを止めた。やつの両腕と背筋、大胸筋の動きを奪ったので、動けるわけがない。


 叫ばれると面倒なので舌とノドの動きも奪っておいた。


 まともな勝負でたたきのめしても、この手の男は必ず復讐をしようとする。


「お前を生かしておく価値などない」


 その一言は、男のためというよりもそばでこっそり見ているはずの弟のためだ。即座に撃ち込んだのは心筋を司る神経を麻痺させるツボだ。


 突然、男は目を見開いて倒れた。


 駆け寄ってくる弟。


「兄さん、これは?」

「オレのスキル。針だよ」

「どういうこと?」

「やつの心臓の動きを止めるツボに打った。要するに心臓麻痺ってやつだな」

「心臓麻痺? そんな。針でそんなことができるなんて」

「分かっただろ『針治療師』のヤバさが。思っただけで人を殺せるんだ。しかも、こうやって殺したんだかどうだか分からない殺し方ができる。そして、公爵家の身分があれば」

「陛下にお目にかかれる……」

「そのとおり。言わんとすることは分かるな? オレには陛下を害する意図は全くないが、なんらかの理由で倒れたとき、我が公爵家が疑われることになる」


 弟は、ガックリと肩を落として帰って行ったんだ。


 その後?

 

 責任を取ってと、真っ赤な顔のマリに押し切られて、結構幸せだったりする。

この作品の設定を「異世界時代劇」にしてみました。

7月9日から短期で連載開始です。

お楽しみいただければ、嬉しいです。

https://ncode.syosetu.com/n0045kt/

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