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この物語、誰が書いたっけ?

作者: 出雲 寛人

バス停で路頭に迷っている。


私はこの物語の主人公。


この物語を渡り歩いてきたが、とうとうラスボスも倒し終わり、終幕が近づいてきた。


そこで今、困り果てているのである。


どうやってこの物語を終わらせればいいかが分からないのだ。


オアシスのない砂漠を歩き続けているような気がする。


大体こんなことになったのも、この物語の作者のせいだ。


急に結婚してハネムーンに行ってそれっきり帰ってこないのだ。


読者を待たせ続けるわけにもいかないので、私が進むことにした。


作者は不在でも、私の意思があれば物語は進んでいくのだ!


なぜなら私は主人公だから。


とりあえず、バスに乗ってどこかへ行ってみよう。


乗車してから3回目の停車で降りてみた。


するとそこのベンチの上に携帯電話のようなものがあった。


落とし物かな?そう思い、画面を開いてみた。


画面には、私が主人公のこの物語に関する考察がずらりと並んでいた。


もしかするとこの携帯は、外界と繋がっていて、外界の読者の感想や考察が観れると言うことか!


感想には、主人公、クールでかっこいい!や、ラスボス倒すシーンで痺れた!など嬉しいコメントが寄せられている。


考察では、最終回どうなるかの議論が活発に行われている。


そうだ!この議論をいい結末の参考にしよう。


どれどれ。


『一番最初に仲間になったキャラが本当の黒幕で、そいつを倒したら終わり。』


なるほど。それはやだな。


『隠された秘宝を見つけてハッピーエンド。』


うむ。それは悪くない。


というか待てよ。


もしこの物語が終わったら私はどうなってしまうのだろう?


読者の心の中で永遠に生きていくって言うのは聞いたことあるけど、本当にそれは生きていると言えるのだろうか?


それならもういっそ、この物語を終わらせないままの方がいいのでは無いだろうか?


もしかして作者は、そう考えてハネムーン逃げしたのか??


いや、それはないな。


うーむ。どうしようか。


そもそもこの物語は読者ありきのものなのか?


いいや。読者がいなくたって、この物語の中の世界の人たちが幸せに暮らせたらそれでいい。


「おーい!」


前方から声がする。私宛の声だろうか?


「おーい!」


その影はどんどん近づいてくる。


よく見ると、作者だった。


「ハネムーンに行ったんじゃ?」


「いやー。会えてよかった。まさか自分が書いている物語の主人公に会えるなんて。こんな光栄なことは無いよ。」


「私もです。ハネムーンに逃げたのかと思いましたが、まさか出会えるとは。何より私を生み出してくれてありがとうございます。なんで会いにきたんですか?」


「そうそう、これを渡しにきたんだよ。」


作者はポケットからチケットを取り出した。


「これは、あちら側の世界へ行けるチケットだ。使うといい。」


「ありがとうございます。けれど、私があちら側の世界に行ったら、この物語はどうなるんです?」


「物語はこれからも君が作っていくんだ。君があちらの世界でする冒険も立派な物語になると思うよ。」


「あなたはどうするんです?」


「僕はこの愛すべき世界で妻と暮らすことにするよ。」


そうして私たちはそれぞれの道を行った。


私はあちらの世界に行き、作家として生きていくことにした。


そして今書いているこの作品こそが、私の初めての物語である。


作家となって分かった。


私は昔と何も変わらない。


いまだに路頭に迷い、この物語の結末を書けずにいる。


そして私を生んだ作者は、今は物語の中にいる。


いつかこの物語を完成させたら、もう一度あの物語の世界に行こう。


作者に会って、こんな本を書いたよってプレゼントしよう。


end


物語の世界に入っても、どうやら僕は物語を書くことをやめられないらしい。


今回は込み入った話を書いてしまったように思う。


つまり、僕が書いた物語の主人公が書いた物語だと思っていたらやっぱり僕が書いた、という構造である。


いつの間にか始まっていた作者争いは、僕の勝利だ。


end


という物語を私が書いた。


作者は自分が物語を作っていると思い込んでいるが、これは明らかに主人公である私が書いた物語だ。


つまり、作者が生み出した私が書いた物語と思っていたらやっぱり作者が書いていたと思いきや私が書いていた、という構造である。


もうそろそろ頭が混乱しておかしくなってきた。


おそらくこの流れがずっと続くだろう。


end


省略


end


省略


end


無限回繰り返した後。


ふう。


これで物語のマトリョーシカが誕生した。


この無限の密度を誇る物語を出版社に持っていってみよう。


私はこの物語を出版社に持っていた。


出版社の社員は言った。


「こんな訳のわからない話、売れるわけがないだろう!!!!」


・・・end


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