同窓会
ついに同窓会の日がやってきた。
全然眠れなくて、ようやく眠りにつけたのが朝4時頃だった。お昼前には起きて、出掛ける準備を始めた。
同窓会は15時から開始する。子供がいる人への配慮で夜から始めることは避けたようだ。
その後、参加したい人だけで2次会があるそうだ。
正直、緊張と喜びが混ざった感情だ。高校の時の同級生に会える喜びと同時に、凛に会う緊張も存在する。
この日のために、髪を切って新しい服も買った。
プルルルル
「ん?誰だ」
電話が鳴った。
「もしもし」
「佑かい?」
「母さんかよ。今時間無いんだよ」
「同窓会行くんだろ?」
「そうだよ。また後でいい?」
「いやいやすぐ終わる話だから」
「そうなの」
「前言ってたお見合い、今度の日曜日になったからね」
「…………わかった」
「じゃ、また今度ね。同窓会も楽しんできなさい」
ピッ
自分がお見合いに参加することはまだ想像出来ない。けど、前に進むためには重要な一歩だ。
「良い人だったらいいなぁ」
そんなことを思いながら準備を続けた。
◇
早めに着いてもやることないなと思って集合時間の直前に会場であるホテルに着いた。
すると、同級生はほとんどいるようで騒がしい声が会場の扉の前まで聞こえてきた。
扉を開けると、見知った顔もいたが、ほとんど誰かわからなかった。10年も経てば色々変わるものだ。
しかし、騒ぎの中心にいる女性は見覚えがあった。
凛だった。一目で凛だと分かった。10年前よりもっと綺麗になっていた。
あんなに周りに人がいたら凛と話せないなぁ。
「よっ」
「おお、お前か」
電話くれた友達が俺の前に立っていた。
「久しぶりだな」
「そうだな。それより朝井さんすげぇな。高校生の時から可愛かったけど、今は芸能人級じゃないか」
「確かにな。洗練されてるな」
「他人事だな。高校の時はいつも一緒にいたのに」
「電話でも言ったけど、今は関わりないからな」
「へー、やっぱり意外だよ」
「なんでだ?」
「いや、朝井さんはお前のこと相当気に入ってた様子だったし」
「いやいや、そんなことないよ」
「そんなもんか」
久しぶりに会う旧友との会話は時間を忘れさせてくれた。会ってなかったからこそ、積もる話はたくさんあった。気がつけば終了時間が近づいていた。
「そういえばお前は2次会行くのか?」
「うーん。俺はパスかな」
「そうか伝えとくよ」
「任せた」
話もひと段落つき、なんとなく隅で1人でいると、急に声をかけられた。
「佐藤君、久しぶり」
声がする方を向くと凛だった。
「り、いや朝井、久しぶりだな」
そうか、10年も経つと名前じゃなくて名字呼びになるよな。当たり前だ。今は幼馴染じゃなくてただの同級生だ。そんな関係の薄い相手になったことを強く感じた。
「10年ぶりかな?」
「そうだな。10年ぶりだよ」
「佐藤君と話したかったんだけど、他の人と話していたから遠慮しちゃっててさ」
「朝井の方こそ大人気じゃないか」
「そんなことないよ。それより最近元気?」
「めちゃくちゃ元気だよ。朝井の方こそ元気か?」
「私も元気だよ。よかった、佐藤君が元気そうで」
思ったより緊張せずに話せている自分に驚いた。
「佐藤君は仕事今なにしてるの?」
「今は出版会社で平社員やってるよ」
「えっ意外。出版社に勤めてるんだ」
「そうなんだよ。けど、思ったより俺に合ってるみたいでさ。なんとか続けてるよ」
「すごいね」
「いや、すごいのは朝井の方だよ。会社継いだんだって?噂が回ってきたよ」
「そうなの。周りの人や社員のみんなに支えられてるだけなんだけど頑張ってるよ」
「朝井は昔からすごかったからなぁ」
「ふふっ。褒めてくれてありがとう」
俺たちの間の空気は10年のブランクを感じさせないほど、10年前と一緒だった。
そこからは、仕事の話や大学の時の話などいろんなことを話した。あの時に戻ったみたいに、たくさん話した。
「あっ、そろそろ時間みたいだね」
司会の言葉に凛が時間を気にする素振りをみせた。
永遠と思われる時間にも終わりは来てしまう。
終わる前に言わなきゃ。あの時のこと謝らなきゃ。
途端に緊張してくる。怖くなってくる。
けど、俺はあの頃とは違うんだ。ここで言わなきゃ同窓会来た意味がない。新たな一歩を踏み出すためにも言わなきゃ。
「あ、あのさ」
「ん?」
「あの、えーと、えー」
口が思ったように動かない。このままじゃあの頃と同じだぞ。変わったはずだ。今の俺なら言える。言わなきゃ
「ごめん」
「え?」
「あの時、朝井のこと傷付けてしまって本当にごめんなさい。ずっと謝りたかったんだ」
顔を上げるのが怖かった。どんな顔をしているか想像つかなかった。
「いいよ」
優しい声で凛は答えてくれた。
「え、いいの?」
「うん。私も子供だったし、あの頃のことはとっくに許してるよ」
「…………本当にありがとう」
涙を抑えるのに必死だった。あの頃の優しい凛は変わっていなかった。
「けど」
「うん」
「理由は知りたいな」
なんの理由と聞かなくてもわかる。
「本当に自分勝手なんだけど」
「うん」
「勝手に朝井と釣り合わないと思ってたんだ。周りの反応ばかり気にして朝井の隣にいることがプレッシャーになってた」
「……そう……だった……の」
凛は少なからずショックを受けたようで狼狽えていた。
「本当にごめん。凛の思いをそんな感情で踏みにじってしまって」
「もういいのよ。あの頃のことは許してるから」
「本当に…………本当に……ありがとう」
「私寂しかったんだからね」
「え?」
「だってそうでしょ。ずっと一緒にいたのに急に話さなくなって、そのまま疎遠になっちゃってさ」
「そうだよな…………ごめん」
「いや、謝らせたいわけじゃないから(笑)」
凛の顔にも笑顔が見れた。
「こんなに美人な子フるのは君だけだよ」
「そうかもな」
「私をフったこと後悔してるでしょ?」
イタズラするような笑顔で俺に問いかける。
「…………そうだな。あの時素直に告白受ければ良かったって思ってるよ」
「え?」
「ん?どうした?」
「えっ、え、えー」
「朝井どうしたんだよ」
「えっ、佑って私のこと好きだったの?」
「今、佑って、、、」
「いや、そんなことより素直に告白受ければ良かったってことは私のこと好きだったの?」
「…………そうだよ」
「ちょっと待って、今気が動転してる」
「大丈夫か?」
しばらくすると、凛は落ち着いた様子だった。
「うん、大丈夫。はぁーそうだったのかぁ。あの時ちょっとでも違ってれば私たちの未来も変わってたかもね」
「そうだな」
「それを聞けただけでも嬉しいよ」
「そう言ってもらえて助かる」
「そーれーよーりー」
「えっなに?」
「高橋さんとはまだ付き合ってるの?」
「えっ?高橋って?」
「ほら、あの時の付き合ってた子」
「あー。高校卒業したらフラれたよ」
「そうなの!」
「うん。すぐ捨てられちゃったよ」
「だから、私にしとけば良かったのにねー。もったいない」
凛のからかう顔は10年前と一切変わっていなかった。
凛も今彼氏いるのかな?もしかして結婚してる?だったら少し嫌だなぁ。
けど、直接相手がいるのかなんて聞く勇気はなかった。
「朝井は結婚とかはしないのか?」
こんな風に聞くことが精一杯だった。
「え、まだだよ。仕事も忙しかったし相手もいなかったからさ」
凛のそんな答えになぜか、ほっとしてしまった。
「そ、そうか」
「けど、今度の土曜日にお見合いするんだ」
「お、お見合い?」
「うん。今までは乗り気じゃないから断ってたんだけど受けてみようかなって」
そうかそうだよな。凛に相応しい相手なんてどんな人なんだろう。お見合いってことは、ものすごい相手なんだろうな。
凛も未来に向かって歩き出してるんだよな。俺も歩き出さないと。
「俺もさ」
「うん」
「今度の日曜日お見合いすることになったんだ」
「え、そうなんだ」
「うん。だからお互い上手くいくといいな」
「そうだね」
「じゃ、今日はありがとう。久しぶりに話せて良かったよ」
「…………こちらこそありがとうね」
俺の初恋はこれで終わった。
10年の間止まっていた時計は今動き出した。そんな気分だ。未練がましい気持ちもすっきりとした。
おそらく今後会うことはないだろうけど、凛が幸せになってくれればなんでもいい。
「絶対幸せになれよ。そして、後悔だけはするなよ」
「…………そっちこそ」
そう言葉を交わし、俺らは話を終えた。
やっぱり2次会には行かず、帰宅した。
なんだか、今日はぐっすり眠れそうだ。
反応が大きければ、続きを書きたいと思うので是非評価とコメントお願いします!