TS娘の告白
高校二年の夏休み、ボクと彼は夏祭りに来ていた。
「浴衣なんて、ちょっとはしゃぎ過ぎたかな」
まわりの人達はみんな私服で、浴衣を着ている自分が少し恥ずかしい。
「祭りなんだ、はしゃいでなんぼだろ」
フッと笑う彼も浴衣を着ていた。
「でも元男のボクがこんな綺麗な浴衣着て変じゃない?」
「今のお前は女なんだから大丈夫だって」
女の子になって三年。私服や制服は慣れたが、初めての浴衣にドキドキしてしまう。
「ほら早く行こうぜ」
そう言って彼はボクの手をそっと引いてくれる。
彼の優しさに胸がキュッってなる。
ああ、やっぱり彼が好きだ。
ボクは彼に恋してる。
でもだめだ。
この恋は隠さなきゃ。
◆
「あ、花火」
大きい音が響き、鮮やかな光が夜空を照らす。
出店を回っているうちに時間が結構経っていたみたいだ。
周りの人と同じように夜空の花に見惚れる。
「場所を移さないか? 良いところがあるんだ」
「良いところ?」
彼につれられて少し歩く。すると人気がないところにやってきた。
「わぁ……」
「いいところだろ?」
「うん」
花火がまるで目の前にあるかのような感覚。
花火の音とボクたちの声だけが聞こえる。
まるで世界はここだけしか存在しないかのよう。そんな錯覚。
「キレイだね」
「ああ」
視界を埋めるのは花火。だけど隣に彼を感じる。
ああ、幸せってこういうことを言うんだろう。
このままずっと――。
「ずっとこうしていたいな」
彼の言葉に思わず彼を見る。彼もこちらを見ていた。
彼も僕と同じ気持ちだった。
それがたまらなく嬉しい。
心臓の音がうるさい。
あたまがフワフワする。
好きと言う気持ちが溢れ出す。
「好き」
彼はひどく驚いた顔をしていた。
言ってしまった。隠し続けるつもりだったのに。でもどうしようもなかった。言わずにはいられなかった。
「ごめんね。親友失格だね、ボク。
気持ち悪いよね。元男だもんね。困るよね。
ずっと言わないつもりだったんだ。
隠し通すつもりだったんだ。
でも我慢できなかったんだ。
どうしても好きなんだ。
ごめんね」
頬が濡れる。
ボクは笑えているだろうか。
花火は終わり、無音だけがボクたちを包む。
彼からの返事はない。
耐えきれなくなったボクは彼の横を抜け去ろうとした。
けど急に手を引かれ、気づいたらボクは彼に抱きしめられていた。
「泣かないでくれ。お前に泣かれるとどうしていいかわからなくなる。
ごめんな。俺から言うべきだったのに」
「え……」
「俺もお前が好きだ」
それは彼の口からずっと聞きたかった言葉。
「うそ……」
「嘘じゃない。俺も言わないつもりだった。お前を傷つけるかもって。
でも違ったんだ。俺たち同じ気持ちだったんだ」
心が現実に追いついてくる。
「ボクなんかでいいの……?」
「お前じゃなきゃだめだ」
「元男なのにいいの……?」
「構わない」
「君を好きでいていいの……?」
「いいんだ」
涙が溢れてくる。縋るように彼にしがみつく。
「好きなの。諦めようとしたけど無理だった。君と一緒になりたかった。
でも怖かった。気持ち悪いって言われるんじゃないかって。嫌われるんじゃないかって」
「ごめんな、気づけなくて」
「ボクを捨てないで……」
「捨てるなんてしない。ずっと一緒だ」
ボクはしばらく赤子のように泣きじゃくった。彼の胸の中で。