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せんせい語録  第X話「最終話 ふたり語録」前編

作者: なぎさん

超短編、恋愛シリーズです。

教師に微妙な不信感を持つオレっ子女子高生と、彼女を少しずつ変えて行く、奇妙なことわざと格言を連発するイケメン新任教師の、恋のお話です。

せんせい語録 第X話「最終回 ふたり語録」前編



 3月12日、12:07


 3年間がどうであったかと聞かれたら、勿論人並みには語れるし、楽しかったかと言えば、楽しくて最高だったし。

人生のパートナー?であるユキジともずっと一緒だったし。


妙にテカリの激しい証書ケース、よくわからない人たちのお言葉など。

ああ、1年生ちゃんの入学式と変わりはしないが、一つだけ違うといえば、

卒業の歌を歌うときに、ちょっと泣いちゃうことだろう。


別に、お膳立てはいらなくて、卒業の重さが勝手に泣かせてくる。

担任。厚真五呂久がオレの名前を読み上げて、オレは校長から証書を受け取る。

五呂久、あぁ、声が震えてるよ。泣いてるんでしょ? 格好つかないイケメンだなぁ…つられちゃうよ。泣かせないで。


証書も…。校長じゃなくて、五呂久に貰いたかった。


 12:22


 担任の最後のホームルームで、みんなでお金を出し合って買った、ネクタイを渡す。

渡す役は勿論、オレだ。立候補ではなく、強制だ。わかるでしょ?


ボロボロ泣きながらネクタイを受け取る五呂久。

でもオレは泣かない。だって…。

…これからも一緒に、いたいんだから。


嫌っていうほど、毎回なんかするたびに、この人に出会ったよ。

運命信じちゃうよ。例え、その半分がユキジの策略でも。

だから、ほんのちょっと。夕方まで。 バイバイ五呂久。



 15:00


卒業式というのは、お弁当がないので強制的に午前で終わる。

先生方も、この日は一年で一番緊張する日で、疲れ切って早く帰るんだとか。

だから、オレはずっと駐車場で待ってるんだ。

五呂久が、あの扉から出てくるのを待ってるんだ。

例え、ほかの先生が一緒でも、告るんだ!!

オレはもう、生徒じゃないもん!


 16:00

 

雪降ってきたけどね。

準備は良いんだよ。傘持ってきたよ。

足冷たい。 さむ。 うま。


 17:00


なにが卒業式の日は早いだよ。

泣けてきたよ。

強がってるけど、不安でどうにかなりそうだよ!

知ってるよ!? 七菜香のこと、振ったんでしょ!?

 

オレは、あの子とは違うよね!違うよね!いっぱい話したよね!

クリスマスのディナーまで一緒に居たのはオレだよね!

早く出て来いよ!


…出てきてよ。



 17:45


扉がカチャって小さく鳴って、五呂久が出てきた。

慣れてない堅そうな黒い礼服と白いネクタイ。左手に卒業担任に送られる花束を持って。

あと10秒遅ければ凍っていたな、オレ。


オレは、傘をさして、震えながら、五呂久の前に立った。

「どうしたんだマコ?顔真っ青だぞ。なんでこんな所に?」

心配そうにオレをのぞき込む。

「…ごろく…せんせい。」


息をのむ。乾いて、なんか飲み込めなくてむせる。


「オレ、卒業したよ…知ってるよね?気づいてるよね?」

「オレの気持ち、知ってるよね…!」

「せんせい、お、オレを、彼女にしてください…!」


言った!

言えた!

なんだろう、また涙出てきたよ


五呂久は一歩、オレの前に歩み寄る。

周りの音はもう、何も聞こえない。

五呂久は右手を静かにオレの方に伸ばして―

右手は、静かに、オレの髪を…頭を、優しくなでる。


なんで?


なんでそんなに優しく撫でるの? 子供をあやすみたいに撫でるの?

抱き寄せたっていいんだぞ?

ぎゅーってしたって良いんだぞ?


「俺は…」


五呂久は、今まで聞いた中で一番優しい声でオレに言う


「俺は、生徒を愛するわけにはいかない」


「例え、後悔するくらい素敵な娘でも。例え、心惹かれていても…」


「だから―」


オレは、走り出した。

一目散に、逃げ出した。

続きの言葉を聞く勇気はなかった。

傘はいつの間にか持ってなかった。

泣いて、泣いて、泣きながら走った


沢山の偶然も、楽しかった記憶も、心臓が止まるような瞬間も

五呂久の笑顔も、映画の記憶も、夏祭りの夜も!


消えてしまえ

消えてくれよ!

心がつぶれちゃう前に!


この日、オレの初恋は、終わった。



 17:50分


「ウチの大切な部長、泣かさないでくれよ。」

振り返ると、大柄な先輩が、新任教師の後ろにいる。


「…仕方ないじゃないですか…。生徒32人全員の幸せを公平に…それが先生でしょう…。なら、アイツもその内の一人じゃないですか…」


「…女1人幸せにできない奴が32人とか言ってるなよ!」


後輩の俯いた表情をのぞき込み、大柄な先輩は、若者の横を通り過ぎて行く。

「不器用なことだな…。キミも、マコも。」



「何で俺を…せんせいって呼んだんだよ…何で、ごろくんって…。呼んでくれなかったんだよ…。」


傘を拾いながら、不器用な男はそう呟いた。



後編に続くー


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