94:その言葉にドキッとしてしまう。
スチュワートが私に語りかけたこと、それは……。
「ロバートとも、それなりの時間を過ごされたはずです。もうそろそろ男性陣の人柄も分かったのでは? ルイ王太子も骨折以外の傷は癒え、ベッドを離れて執務もできるようになってきたと聞いています。クリスタル・パレスにも、間もなく戻って来るでしょう。そろそろいいのではないですか、聖女アメリア」
「え、えーと、それは……?」
戸惑う私を見て、スチュワートがくすっと笑った。
その顔に、水面に反射した陽射しが当たり、ガーネットのような瞳がキラリと輝く。
「そろそろ『特別指名権』を一度ぐらい、お使いになってみては?」
ピーツクツ、ピーツクツ、ピーツクツー…。
鳥のさえずりと羽ばたく音が聞こえてきた。
「さすがに、私やディオンは気づいていますよ。自分達が聖女アメリアに選ばれないのではないかって。でも聖女アメリアが行動で示してくれないと、用なしの私達であっても、このクリスタル・パレスに閉じ込められることになってしまいます。そろそろ解放してくださいよ」
その言葉にドキッとしてしまう。
確かにこの二人を選ぶことはないと……自分でも理解していた。
「『特別指名権』を行使し、その後に、もう選ぶ確率がない男性については、『解放権』を行使することができます。それは聖女アメリアもご存知ですよね?」
『解放権』。
それはクリスタル・パレスにいる男性に対し、聖女が行使できる権利。クリスタル・パレスを去ることを認める権利だ。行使できるのは、あくまで聖女側からのみ。
「私もディオンも、聖女アメリアを嫌いなわけではありません。むしろ……好きですよ。だからこそ、もうこれ以上は……。宙ぶらりんが続くのは」
そんな風に苦しめている自覚は……全くなかった。
でも……宙ぶらりんが続くのは……辛いだろう。
二人の気持ちを考えると、心から申し訳なくなってしまう。
自分が暗殺者から逃れたいからと、男性陣を巻き込んでいる。
そんな風に思えてしまった。
「聖女アメリア、そんな悲しい顔をしないでください。あなたには笑顔でいてもらいたいですから」
そこでスチュワートは体を私の方へと向けた。
そして伸ばした手で私の頬に触れると……。
「まだ可能性があるのなら。あなたの気持ちを振り向かせることができるなら。そういう気持ちがないわけではないのですよ」
ガーネットのような美しい瞳が、切なそうに私を見つめていた。
「スチュワート様、私は」
「特別指名権」と「解放権」の行使について、ちゃんと考えると伝えようとしたのだが。
スチュワートの指が私の唇を押さえた。
「風が急に冷たくなっています。鳥のさえずりもやんでいますね」
そう言われると……。
確かにさっきまで聞こえた鳥の鳴き声が聞こえない。
風も……ヒンヤリしている。
「あ……」
先程まで、川面に当たる陽射しでキラキラしていたはずなのに。
見上げた空に青空はなく、曇り空が広がっている。
「聖女アメリア、今すぐ帰りましょう。今日は一日晴天の予報だったのに」
スチュワートがそう言って私の手をとったそのそばから、雨が降ってきた。
しかも大粒の雨だ。
一気に肌寒くなり、そして風が吹きはじめ、空が昼間とは思えない暗さになった。
「アメリア聖女様、このマントをお付けください」
私の専属騎士である女性騎士のマーガレットが駆け寄り、私にマントをつけてくれる。
「え、でもあなたは!?」
「私は甲冑もつけていますから、大丈夫です」
「ありがとうございます」
マーガレットと会話している間にも雨脚は強まり、草木に雨が当たる大きな音が響き渡っている。スチュワートは私の馬を引いてきてくれたが……。
その瞬間、とんでもない雷鳴が響き、馬もそれに驚き、大きく嘶いた。
「落雷もあるとなると、馬に乗るのは無理ですね。雨宿りをした方がよさそうです」
スチュワートの言葉にマーガレットも頷き、とりあえず木の下へ移動した。
木の下にいるが、雨脚は強く、すでにワンピースの裾は濡れているし、髪も濡れてきている。そこへ近衛騎士がやって来た。
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