9:ダンス
向き合った副神官長のメリトゥスが挨拶を始める。
「アメリア聖女。僕は副神官長のメリトゥス・ホワイト・ラングです。今日の『聖女聖痕確認の儀式』からずっと、あなたのことを見守ってきました。同じ主に仕える者として、あなたのおそばにいることができればと思っています」
メリトゥス副神官長は優美な笑みをたたえ、静かにお辞儀をする。君ヒロにおいて彼は癒し系のキャラだった。その効果のおかげか。彼の落ち着いた声の挨拶で、ピリッとした雰囲気も収まっている。
「アメリア聖女さま!」
メリトゥスのお辞儀がまだ終わらないうちに、一歩前に出てきたのは……。
「ボクはディオン・エリントンです! エリントン伯爵家の三男です。アメリア聖女さまは、本当にお綺麗ですね。お会いできて嬉しいな~」
ディオンはそう挨拶すると、そのまま私の手を取った。そして先ほどのスチュワートと同じように、手の甲へキスをする。スチュワートと同じように、ピリッとした空気が漂うかと思ったが、それはない。
それは、ディオンの容姿のせいもあるだろう。
ディオンはエリントン伯爵家の三男で、今年17歳になったが、年齢よりもかなり幼く見える。12、3歳ぐらいにしか見えない。まさに美少年。
瞳はアプリコット色、髪は柔らかなクセ毛のミルクティーブラウン。女性みたいな白い肌で、頬はバラ色。愛くるしいその姿は、まるで天使のように見える。
この愛らしい姿と甘えん坊の性格のおかげで、君ヒロでもディオンは、無礼とも思える行動をとっても、皆から許されていた。それはここでも同様のようだ。
それにしても、着ている服装もなんだか全体的にチョコレートのようで可愛らしい。アイボリーのシャツにカメリア色のタイ、ピンクの色味に近いココア色のベストとテールコートにズボン。チェーンのついたルビーのラペルピンが、とてもオシャレに感じる。
「あの、では最後になりますが、自分が挨拶させていただいても、よろしいでしょうか」
最後の一人なのだから、遠慮せずに挨拶をしてもいいのに。
真面目に他の男性陣の顔を見回してから、一歩前に出たのは、近衛騎士団の副団長ジェームズ・ガーディナーだ。この中では最年長の23歳。
「聖女アメリア殿。初めてお目にかかります。……その、あまりにも美しいお姿に、気の利いた言葉が出てこないのですが……。この世にあなたのような女性がいて、しかも聖女であるなんて。この世界に生れることが出来て、心から良かったと思います」
ジェームズ副団長はそう言うと、頬を赤くし、ため息をつく。
くっしゅとかきあげた髪はマッドブラウンの短髪で、スポーツマンを思わせる。訓練の賜物で全身に筋肉があり、日焼けした精悍な顔立ちをしていた。きりっとした眉に、意志の強さを感じさせるブルーブラックの瞳。
実直な性格が、その言葉と仕草はもちろん、顔立ちや体つきにも現れている。
「ジェームズ副団長、お名前をお伝えしないと」
メリトゥスの小声の指摘に、ジェームズはハッとした顔になり、慌てて自身の名前を名乗る。
「聖女アメリア殿、失礼いたしました。自分は近衛騎士団の副団長ジェームズ・ガーディナーです。以後、お見知りおきを」
ジェームズは騎士らしく、その場で片膝を床について跪いた。そして私の手をとり、礼をすると、立ち上がった。
ネイビーブルーの儀礼用の軍服は、飾りボタンは銀色、飾緒は銀糸が使われている。白のサッシュは銀糸で縁取りをされており、複数の勲章も飾られていた。背中でヒラリとゆれるマントの裏地はシルバーで、表の生地はブルーグレイだ。
「これで全員、挨拶ができたね。ではアメリア聖女様、最初の一曲を、私と踊っていただけますか?」
ルイ王太子が碧い瞳を輝かせて私を見る。
本当に、よく晴れた空のように綺麗な瞳。
「ええ、喜んで」
舞踏会の最初の一曲となれば、ルイ王太子と私が踊るのが妥当だ。スチュワートが前に出ることはないし、ディオンも大人しくしている。
ホールの中央にいき、ルイ王太子と向き合うと、ワルツが始まった。
おはようございます!
今日は全国的に晴天。
気持ちいですね♪
ということで。
お読みいただき、ありがとうございます!
次回はお昼ですねー。12時頃に。更新しますっ!