76:大胆不敵
辿り着いた訓練場で甲冑と兜をなぜロバートは身に着けたのか。それを問うと――。
「これまで、甲冑や兜を身に着ける機会はほぼありませんでした。訓練場に着いて、人が出入りしている建物があり、そこに行くと……。沢山の剣と共に、甲冑や兜が用意されていました。最初は眺めていましたが……。この甲冑を着たら、体はどんな風に動くのだろう。そんな興味が高まり、こっそり試着させてもらったのです。勿論、試したらすぐに元へ戻すつもりでした」
好奇心旺盛なロバートらしい行動だ。
しかし。
こっそり試着……。意外と無鉄砲だ。
「でも丁度、簡易装備の着用終えた時、大声が聞こえてきたのです。『誰かマックスの相手、やらないか』と。応じるつもりはなかったのですが、装備を身に着けていたので、『お、お前、丁度いいな。マックスの相手、頼むよ』そう声をかけられ……。そこで強く否定すればよかったのでしょうが、久々に体を動かしたい気持ちになり、思わず『分かった』と快諾してしまいました」
久々に体を動かしたい……。
でも相手はクリスタル・パレスを警備する騎士だ。
普通なら全力否定だろう。
プロ相手に素人が挑むようなものだ。
そんな無謀なこと、凡人はしない。
だがロバートは……。
自分の強さを理解している。
……体を動かしたい。というのもあっただろうが。
腕試しをしたい……そんな気持ちもあったのではと想像する。
「マックスという騎士と一戦したら終わるのかと思いきや、僕が勝ってしまったので、『では、次!』となり、連戦することになったのです。まさか自分が間者に間違えられていたなんて。しかも本気で倒すつもりの近衛騎士団の副団長から挑まれていたなんて、想像すらしていませんでした」
なるほど。
聞いてみると、随分お粗末な展開だ。
ロバートに声をかけた騎士も、相手が誰であるか、ちゃんと確認すべきだったと思う。でもそうする必要がないぐらい、クリスタル・パレスの警備は、厳重と考えられているのかもしれなかった。
つまり、無関係な人間があの場にいるわけがないと思ったのだろう。
「お待たせいたしました」
ペグがお茶の用意を整え、部屋に入ってきた。
ふわりとフルーティーな香りがする。
これは私の好きなイチジクとアプリコットをベースにしたフレーバーティーだ。この紅茶を飲むのは久々。取り寄せるよう、頼んでいたのが、どうやら到着したらしい。
私とロバートの前に、カップとソーサーを置くと、ペグは早速、ティーポットから紅茶を注いでいく。先ほど以上にフルーティーな香りが、辺り一帯に広がる。
「メープルシロップは?」
ロバートの言葉にペグがハッとした表情になる。
「アメリアお嬢様、すみません。この紅茶の時は、いつもメープルシロップを使われていましたよね。今すぐ、お持ちします」
ペグはそう言うと、私とロバートに頭を下げ、慌てて部屋を出る。
フルーツ系のフレーバーティーに蜂蜜をいれる人は多いが、メープルシロップを使う人は珍しい気がする。
「フルーツ系のフレーバーティーを飲む時、ロバート様もメープルシロップを使うのですね」
一瞬、ロバートが固まったように思えたが。
ゆっくりと頷いた。
「フルーティーな香りには、甘い味わいが合いますから。ところでジェームズ副団長様から、お酒を飲んでいる時に聞いたのですが、アメリア聖女様は随分と怯えていらっしゃったとか。僕が間者ではないかと大騒ぎになった際に。それは何故ですか?」
……! それは……だって私は暗殺者により命を落とすと分かっているから……。
でも、それを言うわけにはいかない。
そこで私はルイ王太子に言われた言葉を思い出す。
「それは……。私は非力な女性ですから。武器を扱えるわけではありません。もし襲い掛かられたら、ひとたまりもありませんから」
「……アメリア聖女様は、自分が襲われると思ったのですか?」
……! 私が怯えていたことを、誰も追及しなかったのに。
なぜロバートはそこを気にするの!?
そこにペグがメープルシロップを手にやって来てくれた。
時間稼ぎとばかりにメープルシロップを受け取り、カップに注ぐ。
ロバートにもメープルシロップが入った容器を渡し、ゆっくりカップをかき混ぜながら、私はようやく口を開く。
おはようございます!
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朝はあともう1話公開しますー。
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