70:多くの犠牲が出るのでは?
暗殺者はあっさり、ジェームズ副団長の提案に同意した。
そのことに驚き、でも次の瞬間に気づく。
まさか。
負けるつもりはない。
ということなのだろうか?
負けないから、兜を外す約束もした、ということ……?
もしそうであるならば。
ジェームズ副団長はあの暗殺者に破れ、命を落とすことになる。それだけではない。私の護衛についているコニー、ポーラ、ジョン、ドリス。この四人だって殺される可能性もある。聖女アメリアを暗殺するために、多くの騎士が犠牲になるということ……?
青ざめたまさにその時、ジェームズ副団長と暗殺者の手合わせが始まった。
二人の間には距離があった。でもジェームズ副団長は迷うことなくその距離を縮め、攻撃をしかける。甲冑をまとい、兜をつけ、盾を持ち、その上で剣を手にしていた。だがまるでその装備を感じさせない、機敏な動き。
対する暗殺者は、様子見なのか、動かず、踏み込んできたジェームズ副団長の剣を盾で交わし、自身の剣で払い、叩き落そうとする。しかし筋力では、ジェームズ副団長が勝るようだ。剣が盾に当たる衝撃にも動じないし、剣を払われたように見えても、次の瞬間にはまた攻撃をしかけている。さらに暗殺者は、剣を叩き落とそうとしているが、ジェームズ副団長はビクともしないという感じだ。
しかも体格においてもジェームズ副団長の方が背も高く、リーチが長い。暗殺者はギリギリ、ジェームズ副団長の攻撃を避けているような状態だ。これ以上の突きの攻撃を避けたいと思ったのだろうか。暗殺者は斬り込みの攻撃をしかけていくのだが。
まず、暗殺者の動きはしなやかだ。手首の動きも巧みで、突きの攻撃に比べ、斬り込みの攻撃が向いているように感じる。ジェームズ副団長をどんどん後退させていた。
一方、ジェームズ副団長は後退をしているのだが、すべての攻撃をかわしている。しかも注目すべきはその足の動き。自身の剣で相手の剣を交わす際に、見事なステップを行っているのだ。この軽やかなフットワークが、筋肉質なジェームズ副団長から繰り出されているとは……思わず感動してしまう。
「アメリア聖女様!」
「ルイ王太子様!」
ゴールデンブロンドの髪を乱し、ルイ王太子が自身の近衛騎士を連れ、私の元へと駆け寄る。コニー達は敬礼でルイ王太子を迎えた。
ルイ王太子が来てくれたことに感動しつつも、もしもの時に巻き込んでしまうのではと不安になる。
「アメリア聖女様、顔が真っ青ではないですか!? わたしが護衛します。クリスタル・パレスに戻りましょう」
その言葉に、私は大いに迷うことになる。
私がここから離れた方が、犠牲は減るのだろうか?
いや、でもここを離れ、移動の最中に別の暗殺者から襲われたら……。ルイ王太子を危険にさらすことになる。
「!? どうして短剣を!?」
「こ、これは……」
「大丈夫です。あなたのことはわたしが必ず守りますから」
「あっ」「わああ」「おー」
歓声が起き、ルイ王太子も私も、ジェームズ副団長と暗殺者の方を見る。
暗殺者は。
尻もちをついたような状態。その側に剣も落ちている。
ジェームズ副団長は兜を外しており、その手に持つ剣を暗殺者に突き付けていた。まさに首元に剣先を突き付けられた暗殺者は、降参だとばかりに両手をあげている。
「では、その兜を外してもらおうか」
ジェームズ副団長の言葉に、暗殺者は頷いた。
すぐに兜を脱ぐと思ったが、左腰の方に両手を持って行き、何かを取り出そうとしている。
まさか……!
勝敗はついている。
勝敗がついた後に、さらに攻撃をするなんて、騎士道に反するはずだ。
でも暗殺者にそんなことは関係ない。
何か腰に武器を持っていて、それをジェームズ副団長に向けるのでは!?
「ルイ王太子様、あの間者は、何か武器を取り出すのでは!?」
「え、まさか」
ルイ王太子が鋭い視線を向けた時。
手に持つ物が一瞬見えた。
「!!」
なぜか顔を左に向け、兜をはずすと、腰から取り出したそれをつけた。
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