65:なぜ、ここに?
ガゼボ(東屋)の中のテーブルには、肉料理、魚料理、たっぷりのフルーツと野菜、パンが用意されていた。この料理を食べるために着席しているのは、ルイ王太子、私、そしてロバートだ。
ロバートは、いつもと同じだ。
分厚いレンズの眼鏡、白シャツに、これまた渋いモスグリーンのズボンをはいている。今日は、シャツもズボンも丈が長いようで、袖も裾も三回ぐらい折られていた。
なぜ、ロバートがここにいるのか。
それは朝食が終わった直後までさかのぼる。
ロバートはクリスタル・パレスに与えられた自分の部屋に、自身の研究に必要なものをすべて持ち込んでいた。そして大学で受け持っている授業は、1コマのみ。私と過ごす予定がない時は、寝るか研究をするか、はたまた自由に動き回る。それしかなかった。
そして今日。
昨晩は突発的な流星群が見られたため、観察をしていた。つまり寝ていない。だから昼寝をするつもりでいた。自身の部屋のベッドで寝るより、自然の中で昼寝をするのが、ロバートのスタイル。そこで朝食を終えると、散歩に出かけた。
蓮池を見つけたのは偶然。小舟が何隻も用意されていたので、一つ拝借し、ガゼボ(東屋)に向かった。最初はガゼボ(東屋)に置かれていたテーブルで寝ることも考えたが……。
ガゼボ(東屋)から少し離れた場所に、この小島で唯一の木があった。結構な巨木で、そこにハンモックを見つけた。だからそこで昼寝を始めたのだが……。
ガゼボ(東屋)で、ルイ王太子は私との昼食を計画していた。ロバートが昼寝をして数時間も経つと、小舟に昼食を乗せ、メイド達が次々とやってくる。一斉にいくつもの小舟がやってきて、テーブルに料理を並べ、引き返したのだが。
その際、ロバートが乗ってきた小舟にもメイドが乗り、そのまま去ってしまった。つまり、ロバートは移動手段を失い、小島に取り残された。
でも、本人はそんなことに気づかず、昼寝を続ける。イイ感じで昼寝を続け、そして目覚めたところ、ガゼボ(東屋)から美味しそうな香りがした。確認するとズラリとテーブルに料理が並べられており、どうやらここで誰かが昼食をとることに気づく。
慌てて小島から離れようとしたが、小舟が見つからない。どうしたものかと途方に暮れていたら……。ルイ王太子を見つけ、声をかけた――というわけだ。
ちなみにルイ王太子は、スラリとした長身。その胸の中に、すっぽりとおさまっていた私の姿は、ロバートには見えない。だから、あの、まさにキスをされるかもしれないという絶妙なタイミングでの、声掛けにつながった。
その件については……邪魔をされた!という思いと、そこで声をかけてくれて良かった!という二つの気持ちがせめぎ合っている。
あの時、確かに私はルイ王太子に心を持っていかれ、キスをしてもいい――そう思っていた。だがもしキスをしていたら……。もう多分、そのままルイ王太子を選んでしまいそうだった。もしそうなれば、「特別指名権」を行使するまでもなく、すぐにルイ王太子と結ばれていたと思う。
結ばれていた……結ばれるのだろうか? 結ばれる決意をして、ルイ王太子もそれを望んでくれていても、結ばれる前に暗殺者の手にかかる気がした。
なにせ悲劇の聖女アメリアの伴侶の欄は空欄なのだから。何より、ルイ王太子はヒロインの前に攻略対象として現れるのだ。きっとルイ王太子と結ばれると決意した瞬間に、暗殺者が動き、私は殺されるのだろう……。
それを考えると、あの瞬間にロバートが声を掛けてくれたのは……私の命が首の皮一枚で、つながったことになるのかもしれない。
ともかく。
そのような経緯で今、私達はガゼボ(東屋)で昼食をとっていた。
「しかし、屋外で寝るのが好きとは、珍しいですね。なるべくなら太陽の光を浴びない方が、寝やすいのではないですか?」
ルイ王太子が、白身魚のフライのサンドイッチを手に、ロバートに尋ねた。ロバートはカツレツを飲み込み、返事をする。
「日光を浴びることで、眠りを促すメラトニンの分泌が抑制されます。昼寝の場所を探しながら、散歩して太陽光を浴びることで、メラトニンの分泌を抑えることができるわけです。そしてメラトニンは日光を浴び、だいたい14時間後ぐらいに再度分泌されます。これで体内時計を狂わせずに、例え昼寝しても夜眠れる……と、僕は考えているわけです」
「その理論でいうなら、メラトニンの分泌が抑えられ、代わりに日光を浴びることで、セロトニンが分泌されるのでは? 脳の覚醒を促すセロトニンが」
ナプキンで口元を拭いながら、ルイ王太子が尋ねる。ロバートは「その通りです」と答え、チキンのソテーを頬張った。ゆっくりそれを咀嚼し、飲み込むと。
「でも散歩をすることと、日光を浴びることで、体温が上昇します。それは僕にほどよい開放感をもたらし、ちゃんとぐっすり昼寝ができるんですよ。もちろん昼寝をする時は、木陰など日光を浴びないところで横になりますが」
「なるほど。それはまさにあなただけに通用するロバート理論かもしれませんね」
ルイ王太子の言葉にロバートは「そうかもしれません」と頷く。
こんな調子でさっきからルイ王太子とロバートは会話しているのだが……。
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