5:二人だけの秘密の儀式
1年ぐらい前までは。
今のように、毎晩のようにラシッドに抱きしめてもらい、眠りについていた。つまり添い寝をしてもらっていたのだ。この添い寝は、ラシッドをいざという時の切り札として使うための、下準備のようなもの。でも私の真意など、ラシッドは知らない。
そもそものきっかけは、聖女回避策がなかなか見つからず、睡眠不足が続いたことにある。私があまり眠れていないことに気づいたラシッドから声をかけられ、冗談で「ラシッドが添い寝でもしてくれたら、眠れるかもしれない」と言ったことだった。
軽い気持ちで言ったのに、ラシッドは「それで眠ることが出来るなら」と添い寝してくれるようになる。実際、ラシッドに添い寝してもらうようになると、熟睡できた。ただ、ラシッドに添い寝してもらっているなんて、バレると変な誤解をされる。だから部屋の鍵はきちんとかけ、メイドのペグや家族には気づかれないようにしていた。
ちなみにメイドのペグは、私より3歳年上で、しっかり者で気も利く。赤毛の茶色の瞳の持ち主で、とてもメリハリのある体をしていた。黒いワンピースに白いエプロンのメイド服も、よく似合っている。
「ラシッド」
「何ですか、アメリアお嬢様」
「私は魅力的かしら?」
「どういう意味で、ですか?」
「その……女性として」
「魅力的だと思いますよ」
「そう……。例えばどこが?」
これは……ラシッドと私の距離を縮めるために、出会ったその時から行われている、儀式みたいなものだ。
私は……最初からラシッドを切り札にするつもりでいた。だからラシッドには、私を女性として意識してもらう必要があった。そして私が女性として魅力的であると、ラシッドに刷り込む必要があった。
私は魅力的であるかと尋ね、それに答えさせる。その時には実際、その部分に触れさせるようにしていた。
これを最初に始めたのは、私がドレッサーチェアに座り、髪をとかしてもらっている時だ。その日、ペグは休みで、代わりにラシッドが私の髪をブラッシングしてくれていた。そこで私の魅力はどこにあるかを尋ね、ラシッドは迷わず、私の髪を褒め――。
添い寝しながら、私の魅力を尋ね、その部分に触れさせる。
このスタイルになったのは、添い寝が始まってからだ。添い寝は丁度、1年前からしてもらうようになった。ベッドに横たわり添い寝しながら、魅力的と感じる異性の体に触れる。こうすることで、ラシッドと私の親密度は、ぐんと高まったと思う。
そして今、ラシッドは私の髪をひと房つかむと、その髪に口づけをして、口を開く。
「アメリアお嬢様の髪は、とても美しいプラチナブロンド。陽の光を受け、輝きます。夜の明かりの下では、妖しく波打つ……」
ラシッドの手が私の髪を、優しく撫でる。
惜しみなく褒めてくれるラシッドの言葉に、気持ちが昂る。
「髪以外は?」
「肌は雪のように白く、シルクのようになめらかです」
髪を撫でていた手が、ネグリジェからのぞく素肌に触れた。普段、他人に触れられることがない背中の肌に触れられ、心臓がドキッと跳ね上がる。
「……肌以外は?」
「手足は細く、すらりと長く、優美ですよ」
ラシッドの手が腕をするっと撫で上げた。
思わず出そうになる声を飲み込む。
「手足以外は?」
ラシッドは腰のくびれ、細い首、可愛らしい耳、ほんのり色づいた頬、高い鼻、宝石のような瞳と、順に褒めては、その細く長い指で私に触れていく。その度に心臓がドキドキし、ため息がもれる。
「そう。それで、瞳以外は?」
フッと笑みを漏らしたラシッドは、右手で私の頬を包み、親指ですうっと私の唇を撫でた。そして触れるギリギリのところまで、自身の唇を近づけると……。
「みずみずしいチェリーのような唇は、とても愛らしいですよ」
あまりの距離の近さと、ラシッドの熱い息を感じ、言葉が出なくなる。
ラシッドからは、いつもバニラのような甘い香りがした。
今もその香りを感じ、信じられない程、胸が高鳴る。
ここまできたなら、あと一押しのはず。
信じられないほど心臓は躍動している。
それでも平静を装い、静かに尋ねた。
「唇以外は……もう、ないかしら?」
その瞬間。
私の背中はマットレスに押し当てられた。
ラシッドは上半身を起こし、私の両腕を押さえると、こちらを見下ろす。
黒い瞳は妖しく光り、まさに黒豹に狙われた草食動物のように、私は息を飲み込む。
初めましての読者様。常連の読者様。
一番星キラリです。
本作はミステリー要素もたっぷりで
聖女殺しの暗殺者探し&謎解きと同時に
複数のイケメンに囲まれながら
でも恋愛できないジレンマの中
イケメン達から猛烈にアピールを受けるという
夢のような悶絶展開作品です。
(どんな展開w)
R15要素は終盤。
ということでこれから毎日更新しますので
ぜひよろしくお願いいたします!
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