49:え、だ、誰……?
ホールに見慣れた男性五人に加え、見知らぬ男性が一人いる。
え、だ、誰……?
髪は、暗い青みのある緑……天鵞絨色。
ボリュームがある、ふわっとした、クラウドマッシュという髪型をしている。
髪型はオシャレな感じなのに。身長だってあるし、手足も細く、スラリとしているのに。
えらい分厚いレンズの眼鏡をかけている。
しかもまだ若そうなのに、着ている服の色味が渋い……。
白シャツに黒緑色のタイ、灰色がかった黄緑――山鳩色のベストとテールコートにズボン。さらに、どう見てもサイズが合っていない。
ズボンの丈が短い……つまりは本人の脚が長いのかもしれないが。
テールコートの袖が短い……こちらも腕が長いのかもしれないけれど……。
とにかくこの男性は、誰?
君ヒロで見たことがない。
でもここにいるということは……攻略対象?
とりあえず困惑したまま、ルイ王太子を見る。
ルイ王太子も困りましたという顔で私を見たが。
「アメリア聖女様、こちらは今日からこのクリスタル・パレスに滞在することになったロバート・ブレナー。イェール王立大学で助教授として勤め、さらに天文学者をされています」
あ、なるほど。
理系の。
理系眼鏡男子枠は、需要のある枠だ。でも乙女ゲーに存在するなら、多分、そのぶ厚すぎるレンズの眼鏡をどうかした方がいいだろう。あと、服も。学者ともなると、服に無頓着というのは分かる。でもせっかくスラリとして身長もあるのだから、きちんと着こなせば、素敵に見えるだろうに。
「ひとまず、わたしとダンスし、その次はロバートとのダンスということで、始めましょうか」
ルイ王太子の提案に、異論を挟む者はいない。
私はルイ王太子に歩み寄る。
ルイ王太子は私の手をとり、ホールの中央へと向かう。
一曲目の音楽が始まった。
「王太子様」
「分かっています、アメリア聖女様」
ルイ王太子は優雅にステップを踏みながら、私が知りたい情報を話してくれる。
「ロバートが来ることは、わたしにも知らされていませんでした。ですので、身元の本格調査はこの後、部下に命じますが。父上が……国王陛下が決めた人物なので、問題はないと思います。つまり、他国の間者……である可能性は限りなく低いとは思います。ただ……」
そこで言葉を切り、私を見ると、ルイ王太子は再び話し始める。
「アメリア聖女様がいらっしゃる10分ほど前から、我々男性陣は集結していました。あのロバートも、警備の騎士へ連れられ、ここに来ました。当然、誰だ?となり、皆で彼に話しかけることになりました。その時に聞いた話では、ロバートは北のアクシャ国の生まれだそうです。ですが、赤ん坊のうちにこのイェール王国に家族で移住しています。両親も元々イェール王国の者で、仕事の都合でアクシャ国に10年ほど住んでいたようですが」
ここにきて、アクシャ国の名が出たことに、心臓がドキリとしてしまう。
「アクシャ国とはかつて戦もありました。でもわたしの妹とアクシャ国の王子との婚約も決まっています。ですから、聖女を襲うようなことはしないと思うのですが……。それにロバートも生まれこそアクシャ国ですが、ずっとイェール王国で育ち、以後、国外へは出たことがないそうです。彼の両親は貿易の仕事をしているそうですが、イェール王国に戻ってからは、アクシャ国へ行くこともなかったようです」
ルイ王太子はそう説明するのだが……。
私の心臓は先程からドクッ、ドクッと嫌な音を立てている。
「ロバートは、わたし達と同じ、聖女と結ばれることを願う男性の一人です。わたし達と同じように、警備の騎士はいますが、二人きりで過ごすことになるでしょう。……こんなことは申し上げにくいのですが、念のため、注意はなさった方がいいかと」
勿論そうしようと私も思っていた。
「ただ、わたしの部下にも調査をさせますので、過度に心配なさる必要はないと思いますよ。何より、ロバートは24歳で、イェール王立大学助教授、そして天文学者とのこと。ほぼすべての学年を飛び級で進級し、異例の早さで助教授になっています。非常に優秀な人間です。そんな優秀なロバートが、聖女に害をなすような行動をするとは思えませんから」
ルイ王太子がそこまで話したところで、音楽が終わった。
「大丈夫です。わたしがあなたのことをお守りしますから」
そう言ったルイ王太子は、私の手をとり、甲へとキスをする。
正統派美男子で王太子のルイから「お守りします」と言われ、甲へとキスなんてされたら……。自然とうっとり、胸がキュンとし、メロメロになってしまう。
つい、離れがたい思いで、ルイ王太子を見つめてしまったが……。
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