2:回避策を考えてみた!
自分が将来的に聖女になり、暗殺されると分かったわけだが。
パニックになる前に、情報整理だ。
まずは聖女について。
聖なる力を持つ女性――それすなわち聖女である。
聖女の持つ聖なる力は、未来を予見し、枯れた大地を潤し、荒れる河川を鎮め、王国に繁栄をもたらすとされている。神のような力を持つ聖女は、とても希少な存在。何百年かに一度、聖女は顕現すると言われている。
聖女の顕現には二つのパターンがある。
一つ目は、この世界に暮らす女性が、18歳の誕生日を迎えたその時。左胸に聖女を示す百合の聖痕が現れる。
二つ目は、聖女が降臨する。ある日突然、左胸に百合の聖痕を持つ聖女が現れるというものだ。
降臨、それすなわち、君ヒロをプレイする人物が、聖女として「君がヒロイン」というゲームの世界に参加することを意味している。
既にゲームの世界にいる私は、一つ目のパターン、18歳になると百合の聖痕が現れ、聖女になるというわけだ。よって悲劇の聖女アメリアにならないためには……。聖痕が現れることを回避する必要がある。
もし百合の聖痕が現れることを回避できないと……。クリスタル・パレスに閉じ込められることを阻止し、逃走する必要がある。
クリスタル・パレス、それは聖痕が現れた女子――聖女の仮住まいとなる宮殿のことだ。
聖女であることが判明すると、国王の指示で、王城にあるこの宮殿に入ることになる。そしてこのクリスタル・パレスに住まう聖女の愛を勝ち取るため、5人の男性が熱烈なアプローチを繰り広げることになる。
5人の男性は、イェール王国王太子、筆頭公爵家の嫡男、副神官長、伯爵家の三男、騎士団の副団長。国王陛下が選んだ五人は、この国の令嬢の羨望の的になっている男性達である。
君ヒロは乙女ゲーで、最終的に一人の男性と結ばれるが、逆ハーとも言える状態をじっくり楽しむことが出来て、そこが人気でもあった。よってせっかく君ヒロに転生できたなら、ここで逆ハーを満喫し、これぞという男子と結ばれたいところだが……。
結ばれたら……かなりの確率で死ぬと思う。
結ばれれば、確実に真の聖女になってしまうからだ。
言ってみれば聖痕が現れた状態では、聖女(仮)みたいな状態。この状態では暗殺されないと思うのだ。あくまで仮の聖女で、聖なる力に目覚めていないのだから。でも愛する男性と結ばれると、(仮)はなくなり、真性聖女となる。つまり聖女アメリアになる。そして聖女アメリアは悲劇の聖女となるべく暗殺される……というわけだ。
そもそもゲームのスタート画面でも「聖女アメリア」と書いているのだ。「聖女に選ばれたアメリア」ではなく。ゆえに、聖女アメリア=聖なる力に目覚めている=愛する男性と結ばれている、ということになる。
ゆえにまずはクリスタル・パレス回避を目指すが、それがダメだったら、逆ハー状態を可能な限り長引かせて延命するしかない。それも無理になったら……一番好感度の低い相手を選び、結ばれることにする。そしてそれが真実の愛ではないことを願うしかない。
真実の愛ではないことを願う……。
それはつまりこういうことだ。
聖女は、百合の聖痕をただ持つだけでは、聖なる力を発揮することができない。真実の愛に目覚めることで、初めて聖なる力を行使できるようになる。つまり、愛する人と結ばれることで初めて、愛する人と生きていくために、愛する国を守るために、聖なる力を使えるようになるのだ。
つまり愛する人と身と心が結ばれないと、真性聖女として目覚めることがない、聖なる力を使えないというわけだ。
ただ、アプローチしてくる男性は、とんでもないハイスペック男子ばかり。愛のない結婚を目指しても、それはなかなかに難しい気がする。となると、結ばれたらかなりの高確率で真性聖女となり、聖なる力に目覚めることになりそうだ。
そうなると、残された回避策は……。
暗殺者を見つけ出す OR 暗殺を阻止する。
これができなければ……悲劇の聖女アメリアの誕生となる。
まとめるとこうだ。
悲劇の聖女アメリア回避策。
その一:聖女の証となる百合の聖痕が現れるのを回避
その二:聖痕が現れてもクリスタル・パレスを回避
その三:逆ハーを長引かせ真性聖女になるのを回避
その四:愛のない結婚で聖なる力の目覚めを回避
その五:暗殺者発見 OR 暗殺阻止
回避策は後半へ行くほど成功率が下がる。
できれば回避策その一で片をつけたいところ。
そのために、私は動き出すことになる。