17:キスの予感
不意に質問を振られ、思わず考え込む。
「……!? 変装で隠し切れないパーツ……?」
身体は正直、服装でいくらでも隠せてしまう。
でも首から上は……。不用意に隠していると、怪しいだろう。
そうなると……目?
すると。
「目は口程に物を言うというのは、いろいろな意味で事実です。我々は瞳の色が様々。よって瞳の色は個人特定に役立ちます。無論、色付きガラスを使った眼鏡というものもあるため、瞳の色を誤魔化せないわけではないですが。鼻や口はベールで隠せます。髪もかつらがありますよね。でも隠し切れない場所があるのですよ」
ジェームズ副団長はそう言うと、宵闇のようなブルーブラックの瞳で私を真っ直ぐに見る。誠実さが感じられるその瞳をストレートに向けられると、心臓が大きく反応してしまう。その上で、ジェームズ副団長の手が私の顔へと伸びた。
もしかして、キスを……!?
スパコン並に脳がフル稼働し、目を閉じろと言う指令を下す。
クリスタル・パレスにおいて、私を守れるのはジェームズ副団長しかいない。元々純潔を散らす覚悟をしていたのだ。この姿ではファーストキスであるが、惜しむ必要はない。彼に委ねるのだ!
瞳を閉じた。
だがしかし。
ジェームズ副団長の指は、私の耳に触れている。
先ほど、スパコン並にフル稼働したはずの脳は「理解不能」とフリーズした。
「耳です。耳の形はどうやっても変えられません。それでいて耳は、人それぞれで形が違う。だから敵が誰であると分かっていたり、人相書きがあれば、耳の形を覚えるのです」
「そ、そうなのですね。それは……盲点でした」
素早く目を開け、ジェームズ副団長から視線を逸らしながら、なんとか返事をしているが。
もう恥ずかしい気持ちでいっぱいだ。
キスを期待して目を閉じていた……。
絶対にそう思われている。
それではなくてもラシッドで大恥をかいているのに。
ここでもまたこんな恥をさらすなんて。
最悪過ぎる。
「すまない、聖女アメリア殿」
私の耳から手を離したジェームズ副団長が、顔を真っ赤にし、視線を地面に落としている。「すみませんでした」と謝るべきは私なのに、なぜジェームズ副団長が謝罪をするの……?
「その、自分は4歳から騎士の道を歩み始め、周囲に女性はいないも同然。女性の扱いに慣れていません。図々しくもあなたに断りなく、耳に触れてしまいました。あなたが睫毛を震わせ、視線を伏せたのを見て、とんでもないことをしてしまったと気づきました。本当に申し訳ない」
ジェームズ副団長は、まるで敵の殲滅に失敗し、その責任は自分にある、ぐらいの悲壮感で謝罪をしている。
4歳から女性がいない環境で、ひたすら騎士になるべく歩んできた。その結果、女性の扱いに慣れていない。つまり、私がキスを期待して目を閉じたとバレていない……!
そのことに歓喜すると共に、このピュア過ぎるジェームズ副団長にキュンとしてしまう。
前世にいるだろうか。この容姿と肩書きで、ここまで純粋培養された、女性に免疫のない男性が。仮にいたとしても激レア。出会えない。君ヒロだからこそ出会えた逸材……。
「許して、いただけるだろうか」
ブルーブラックの瞳を潤ませ、ジェームズ副団長が私を見た。その姿は愛らしい小動物みたいで、思わず抱きしめたくなる。もしそんなことをしたら、この女性耐性がないジェームズ副団長は、どうなってしまうのだろう?
そんな意地悪なことを考えながら、でもちゃんと返事をする。
「そんな……耳に触れるぐらい、何も問題ありません。お気になさらないでください」
「でも、騎士として、自分は……。……そうだ、聖女アメリア殿!」
「は、はい。なんでしょう?」
ジェームズ副団長は最高の思い付きをしたと、少年のような顔になっている。なんだか微笑ましく感じたが。
「お詫びになるか分かりませんが、自分の耳を触ってください」
「……え?」
なぜそんな発想に!?
私は別に……耳フェチではない。
耳に触れても嬉しくも何もない。
ただ、耳に触れた。以上。
それ以外の感想を持てないと思うのですが……。
でも、おあいこ、ということなのかしら?
「遠慮なく、触ってください」
ジェームズ副団長が前かがみになる。
なんだか触らないと、この場の収拾がつかない気がしたので、手を伸ばすと。
え……。
とんでもない事態になってしまった。
近衛騎士団の副団長であり、鋭い観察眼の持ち主で、体格もよく、未来の騎士団長といわれる逸材が……。
私に耳を触れられるという緊張感から、視線を落とし、ブルーブラックの瞳を潤ませている。さらに顔を真っ赤にし、唇をきゅっと結ぶ。両手を膝の上でぐっと握りしめ、体を震わせていた。
ここまで照られると、なんだか私がとんでもないことをしようとしている気持ちになってしまう。気持ちだけではなく、心臓も信じられないほどドキドキしてきている。
な、たかが耳よ、耳に触れるだけなのに!
耳に触れられる相手も、耳に触れようとする相手も、共にとんでもない緊張感に包まれている。気づけば伸ばした私の手も、なんだか震えていた。
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次回は今晩夜遅い時間帯に更新し
その後は明日の朝7時後半に公開します。
遅い時間の更新分については、ご無理なさらず
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