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四代目異世界ハーレム主人公クニツ・ライナ  作者: さとー
ダイアモンドクラブ編
10/49

ダイアモンドクラブ ④

 帰りの魔動車に乗り込み腰を下ろした途端、どっと疲れが押し寄せてきた。たまらず大きく息を吐き、しばらく放心状態に陥る。ステフも同じようにぼうっとしている。話し合いにはほとんど参加できなかったが、緊張したまま黙って話を聞くのは精神的に疲弊する。姿勢がだらしなくなっても、直す気にならない。

 ああ、早く橋の上に行きたい。十分くらいぼうっと景色を眺めてリラックスしたい。

 すっかり夜も更け、川に映る星々は綺麗だろう。

 いつもなら沈黙に耐えきれず、なんでもいいから会話をしようとするんだが、そんな気力もなかった。

「疲れたな」

 いけないと思いつつ、不意に口からこぼれてしまった。弱音はできるだけ吐きたくない。ライナはそういう男じゃなかった。

「はい」

 ステフはぼうっとした様子で同意してくれたものの、窓ガラスに反射する俺の気の抜けた表情と、彼女の表情はどこか違うように思えた。その違いをうまく言い表せないまま、魔動車は橋の上へとさしかかる。御者に魔動車を停めてもらい、石造りの橋に降り立つ。今度はステフも一緒だ。二人並んで川を眺める。いや、俺は下を向いて川を眺めているが、ステフは斜め上を向いて夜空を眺めていた。

「なんと言いますか、夢見心地です」

 さっきつかめなかった違いに、今更ながら気づく。ステフは疲れているわけじゃないのだ。言葉の通り、夢見心地なだけなのだ。

「ライナ騎士団に入って、ライナ様とドレスを買いに行って、この国を背負って立つような方たちと……ドレスを着ることさえ初めてのことで、まるで異世界に来たみたいです」

 その気持ちは理解できた。なぜなら俺は、正真正銘の別世界に来ているのだから。

 星々を反射する川面から目を離し、隣で黄昏れているステフを見やる。今彼女が着ているのは、あのとき俺が選んだドレスだ。水面から反射した月明かりが、黒い布地の上でゆらゆらと揺れている。

「綺麗だな」

「はい。綺麗です」

 景色のことだと思ったのか、ステフは俺の視線にも気づかず、ぼうっと空を眺めたまま気の抜けた返事を返した。ちゃんと伝えておきたくて、俺ははっきりと言葉にする。

「そうじゃなくて、ドレス姿。そういえば言ってなかった。綺麗だ」

「はい……へ?」

 間をおいて、ステフの顔が薄暗い中でも分かるほど赤く染まる。

「ラ、ライナ様……? いま、なんと?」

 そんな驚くことじゃないだろうに。ステフはこの景色を綺麗だと言った。それと同じ事だ。綺麗なものを見たから、綺麗だと言った。疲れ切った頭は思考を放棄して、見たままを口に出す。

「ステフのドレス姿、すごい綺麗だ」

「あ、ありがとう……ございます」

 ステフは言って、顔を伏せてしまった。けれど真下にある水面にばっちり顔が映っていて、その幸せそうな表情を見ると、なんだか俺まで満たされた気持ちになる。

 クニツ・ライナのすごいところはこういうところなんじゃないかと、ふと思った。魔王の復活を阻止したとか、戦争を終結に導いたとか、そういうのじゃなく、たったこれだけの言葉で一人の女の子を幸せにできる、そんなところなんじゃないかと。

 だって俺が同じ事を言ったって、こうはならない。クニツ・ライナの言葉だからこそ価値がある。だからやっぱり思うのだ。取り戻さなくちゃいけない。本物のクニツ・ライナを。そしてそのときがきたら、代わりが俺で良かったと、みんなに言ってもらいたい。

 だからやっぱ、疲れたなんて、言ってちゃダメなんだ。

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