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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

屋上の二人

作者: 新竹芳

初めての短編です。楽しんで頂ければ幸いです。


 山南咲空(ヤマナミサクラ)は沈みゆく夕陽を見つめていた。


 まだグランドでは部活をする生徒たちの声がここ迄聞こえてくる。


 彼らは青春を楽しんでいるのだろうか?


 自分自身と比べて、ふとそんなことを想ってしまう。


「羨ましいな。」


 ふと、声が漏れた。


 ガチャ。


 咲良の後ろで、ドアを開ける音がした。


 靴の音がちかづいてくる。


「何の用かしら、山南さん。」


 咲空が呼び出した人物が、そう問いかけてきた。


 今、この状態で背中を押されたらこの下の自転車置き場の屋根に堕ちることになる。


 だがその相手、北川穂香(キタガワホノカ)はそんな行動は起こさず、普通に声を掛けてきた。


 私が何故、この屋上に呼んだのか、その理由を知っているくせに!


 咲空は寄りかかっていた赤さびの浮き出た柵から手を離し、身体を反転させ、穂香に視線を移した。


 少し脱色して軽くウェーブの掛かったブラウンの髪の毛をかき上げる仕草は、少し演技がかったように見え、鼻につく。

 眉は整えられ、睫毛はカールが掛けられている。

 大きめの瞳を持つ目は少し吊り上がり気味で、猫を連想させる。

 少し小さめのスーッとした鼻、そしてその鼻の穴はつつましく、正面からは見えづらく、まず美しいと評価されるだろう。

 少し薄めの唇には軽くグロスを掛けて艶やかに光り、小さめの口元に色っぽい小さなほくろが特徴的だ。

 顔は小さめに見え、全体的にスタイルの見栄えを良くしている。

 胸も腰つきも柔らかな曲線を描き、短めに折りたたまれているであろうスカートの裾から細くしなやかな長めの脚が控えめに主張している。


 いわゆる美少女だ。


 そして、父親が地元の名士と誉れの高い、議員も務める裕福な家系の長として、このあたりの自治体に影響力を持っている。

 学業も、運動も器用にこなすカーストトップのお嬢様。


 それが北川穂香という少女だ。


「ありがとう、立ち入り禁止のこの場所に来てくれて。」


 咲良はそう言って、柵から少し穂香に近づいた。


「この変な手紙を私の机に入れたのは、あなたでよかったのね。山南咲空さん。」


 穂香がワープロで書かれた紙をひらひらと咲空に示した。


「あなたの秘密を知っている。二人だけで会いたいので、旧東棟屋上に17:00に来てください。」


 以上の内容が記された紙を、人目に触れずに穂香の机に入れるために朝7:30に登校している。

 もっとも、いつもそれくらいに来て、一人、文庫本を読んでいるので、朝早くから教室にいても不自然さは微塵もない。


「いつも一緒にいるお二方も連れて来なかったんですね、約束通りに。」


 咲良はもしこの秘密とやらが、穂香に関係なければ無視するか、来てもいつもの金魚の糞を連れてくると思っていた。


 つまり、この秘密に心当たりがあると、認めているようなもの。


西岡美沙(ニシオカミサ)東風谷佐緒里(コチヤサオリ)も、約束通り連れずに二人で話したいんでしょう。そうこれには書いてあったわ。」


 もしこの秘密が何のことか思い当たるなら、その手紙に書いてなくても連れては来なかっただろう。

 聞かれたくないのは私ではなく、穂香の方。


 西岡美沙も東風谷佐緒里も、親が北川穂香の父親が経営する企業の役員をしている。

 穂香には逆らえない。

 というよりも、この学校の大半の人間が北川家と関係がある。

 この学校において穂香は絶対君主にも近い権力を持っている。教師にしても同じだ。


 学校という組織の中では、誰も北川穂香には逆らえない。

 だが、その呪縛に一番縛られているのは、北川穂香本人である。

 そして本人はその事実をよく承知している。


 北川穂香はこの権力は、あくまでも穂香の親のものである。

 この後ろ盾を無くせば、ただの学生に成り下がる。

 その為、勉強も運動も人に知られないよう努力しているであろうことを、咲空は知っている。

 北川穂香は一皮むけば、そこに何もない。


 だが、今回、穂香を誘い出した秘密は全く別のこと。


「約束を守ってくれる人でよかったわ、穂香さん。今までほとんど話したことがなかったので、今一つ不安だったの。同じクラスメイトなのに、変な話ね。」


「山南さん。私は親しくない人からファーストネームで呼ばれるの、嫌いなの。直してくださるかしら。」


 は、日本の姓名ではファーストネームはファミリーネームでしょうが。


 咲良は心の中で苦笑する。表情には出さない。


「ごめんなさい。慣れ慣れしすぎたわね、北川さん。少しでもフレンドリーな雰囲気を出したかったんだけど…。」


 咲良は穂香を見ながら、自分が穂香にどう見えているか、想像してみた。


 いわゆるスクールカーストでは最底辺の陰キャボッチ。

 穂香は話すことさえ自分にとって屈辱だと思える存在。

 そんなところだろうか。


 山南咲空は身長は穂香に比べれば低い方だが、それでも160㎝を超える。

 女子平均よりは高め。

 長い黒髪を三つ編みにして肩から胸に流している。

 胸はそれほど大きくないし、スカートも校則通りひざ下10㎝くらいにしているため、スタイルは外から分かりにくい。

 そして、スカートの丈からもわかるように、一般的に地味、もしくはダサい。


 黒縁の伊達メガネをかけ、化粧はほとんどしていない。

 しいて言えば日焼け止め代わりの下地くらい。

 目は少し垂れている感じが人によっては可愛いと判断される程度。

 鼻も口も特に人目を引くものではない。


 ただし、学力は群を抜いている。

 この学校では順位を公開することがないので、人に知れることは少ないが、ほぼ学年トップ。

 唯一、いつも2位に甘んじている男子に、風邪をひいたときに抜かれた。


 そんな咲空は、この1年程度、穂香と同じクラスになってから、彼女を観察し続けてきた。


 別に彼女に恨みや妬み、不満があったからではない。

 ただ興味があったから。それだけではないのだが。


 そして、だからこそ、わかることが出てきた。


 北川穂香には好きな人がいる。

 常に観察を続けていると、そう言ったことは気付くことができる。


 サッカー部、笹川龍之介。


 普通の男子であれば、穂香が好きになれば、強制的に付き合うことは可能だったかもしれない。

 しかし彼、この学校では特別だった。


 スポーツ推薦で越境入学して、この学校に入学している。


 この学校には寮がないため、彼は近い場所にアパートを借りて一人で生活していた。


 つまり地元のものでなく、しかも北川穂香の関係する企業とは全くの無関係。

 いや、無関係と言うと語弊があるか。

 

 この学校の運動部でも、特にサッカーは全国大会常連の強豪校に分類されている。

 そこですでにレギュラーの座を勝ち得ているため、学校側も笹川龍之介を特別視している。


 北川穂香は、一皮むけば小心者の少女である。

 しかし、自尊心と自己承認欲求は人一倍強い。

 もし、笹川龍之介に告白して振られたら…。


 穂香は最初の一歩すら出すことができないでいた。

 だが、その代わりに、彼女は彼女にしかできない方法を使っていた。


「で、話って何なのかしら。私はこんな危険なところで親しくもない人とおしゃべりしてる時間はあまりないのだけど…。」


 時間の無駄はしたくないが、場合によっては話を聞く用意がある。と言ったところか。


 この旧東棟と言う校舎は、今は使用されていない。

 来年度までには解体され、強くなっている部活動のために新体育館が建てられる予定だ。

 その建築計画には北川穂香の父の企業も多額の寄付をしているとの事。

 ますます北川穂香にこの学校は頭が上がらないという訳だ。


 この校舎は、全くメンテナンスをされずに放置されている。

 危険地帯だ。


「うふふ、そんなに焦らないで、北川さん。お話には順序というものがあるのだけど、さて、どこからはしたらいいかしら。」


 咲良はそう言うと、音を立てずにスーと穂香に体を寄せた。

 そして軽くウエーブの掛かったブラウンの髪の毛に右手を伸ばし、撫でるように上から下に動かした。


 穂香の身体がビクッと震える。


「やめなさい。勝手に私に触らないで!」


「あまりにも北川さんが綺麗だから、ごめんなさい。でも、この話を聞いてもそういう態度ができるかしら。ちょっと楽しみ。」


 穂香の身体が緊張したのがわかる。

 特に無意識に髪の毛を触るときは緊張してる時の穂香のサインだ。

 本人が気づいてるかどうかは別にして。


「北川さん、私ね、生まれて初めて男の人と付き合うことになったの。聞いてくださるかしら。」


「そ、それは、おめでとうと、言っておくわ。」


 本当なら、「そんなくだらない事!」と言って、踵を返すところであろう。


 そうしないで、あんな言葉を口にするのは、先ほどの咲空の不気味な言い回しに恐れているから。


「男の人の手って、思ったより骨ばっているのね。見た感じもっと繊細なのかなって、考えていたんだけど。」


「その人の手に触ったってこと?」


「触ったって言うか、手をつないだって言うか…。恋人繋ぎって言うの?ほら、指と指の間に相手の男の人の指を入れるつなぎ方。結構ドキドキするよね。」


 咲良は同意を求める言い方をわざとした。

 穂香にそんな経験がないことを見越して。


「ええ、そうね、ちょっとドキドキするわね。」


 笹川さんとデートする妄想でもしながら語ってるのかしら、穂香さん?


 咲良は、この会話の完全な主導権を取るため、挑発的に言ってみたが、既に穂香はいつもの尊大な態度が鳴りを潜め始めていた。


 「秘密」としか言ってないことを想像して恐れ、さらにいつもいるイエスマンがいないことが穂香の心を、精神力を削っていく。


 狙い通り。


「ねえ、北川さん、やっぱり男の人の身体って、華奢に見えてもしっかりと筋肉がついていて安心感?みたいなもの、感じない?」


「へっ、男の人の、身体って?」


「あら、いやだ、抱きしめられた時ってことよ。急にハグされて、恥ずかしかったけど、頼もしさと優しさを同時に感じたの。あら、北川さん、こんなに綺麗なのに、男性にハグされたこと、ないの?」


 咲良の挑発は続く。

 夕暮れが迫り始めたこの屋上では、北川穂香が顔を赤く染めていることは、かろうじてわかる程度だ。


 沈みゆく太陽を従えた咲空は、穂香にとってはその表情もうまく捉えられない。


 咲良の顔は悪魔的な笑みを浮かべていた。

 反抗できない小動物をなぶり殺しにするような表情。


「バ、バカにしないでよ。私は北川穂香よ。この学校で一番とも言われてる美貌を持っている。あんたみたいな陰キャが嬉しそうに男に抱かれたことを自慢するから、呆けてただけよ。」


「あら、北川さんはもっといろいろな経験があるってことかしら。」


「当然よ、あなたなんかと一緒にしないで。」


「そうね、北川さん。あなたのような素晴らしいスタイルなら、世の男性はまさに(とりこ)になってしまうでしょうね。私の彼氏は私の身体を誉めてくるけど、北川さんを抱きしめたときではきっと感想も変わるのかしら。」


「よく解ってるじゃない、山南さん。では、忠告させてもらうわね。その彼氏さんに私を見せないことね。きっと、心変わりしてしまうから。」


「ええ、出来ればそうしたかったけど、もうそれは駄目ね。北川さんのことを彼は知っているから。だって北川穂香はこの町では知らない人はいないもの。」


「あら、それはごめんなさいね、山南さん。」


「でも、安心して、北川さん。それでも彼は私が好きって言ってくれるの。大きな両手で抱きしめて、可愛いって褒めてくれるの。」


 少し勝ち誇った笑みを浮かべかけた穂香だったが、その後にかぶせるように咲空は言葉を紡いでいく。

 幸せな男女の愛の物語りを…。


「彼の唇って、すんごい柔らかいの。それでいて甘くてね、その唇から濡れた舌が私の口に入ってきて」


「やめて!一体あなたは何を私に聞かせたいの。何が言いたいの?さっきから私には関係のない彼氏とのいちゃつき話ばっかりで。他に話がないのなら。」


「北川さんにも関係のある話よ。」


「えっ。」


 その言葉に、穂香は驚いた。

 今の話のどこに私との関係があるの。まさか、あなたが…。


「私の彼氏、知ってるでしょう、北川さん。」


「な、何を、言ってるの。し、知ってる、訳、ない、…。」


「この3日くらい帰ってこないの、彼。彼のアパートに。」


「帰ってない、アパートにって、まさか、あなたが。」


「知らないかな、北川さん、私の彼氏、笹川龍之介君。」


 穂香の大きな瞳が信じられないくらいさらに大きく見開かれていた。


 穂香の身体が小刻みに震えだす。


「あなたが、…まさか。そんなはずは、……、この学校の、女子は、誰も…。」


 咲良はしっかりと穂香に強い視線を向ける。


「この学校の女子は誰も笹川龍之介君には近づけないはず、と言いたいのかしら?」


「なんで、それを。」


「この事実を知っているかってこと?だって、龍之介君の彼女だもん。ベッドの中でこの学校に来てから女子は誰も俺に声を掛けてくれないって、寂しがっていたから。ひどいと思わない。ベッドであんなエッチなことをしてる相手に他の女の子が来ないなんて言うんだよ!」


「ベッドで、何を、してるの…。」


 穂香が少しずつ咲空に近づいてくる。

 顔が血の気を失い真っ青になっているのが暗がりでも分かる。


「やだー、北川さん!そんな恥ずかしい事言える訳ないでしょ!」


 さらに一歩近寄り、やおら穂香は両手を開き、桜の首めがけて動かした。


 が、それに気づいていた咲空はその手から素早く体をよける。


 穂香の両手が空を切り、勢い余った穂香の身体が先ほどまで咲空がいた場所に転んだ。


 咲良は転んだ穂香の背中に思いっきり足で踏みつけた。


 ゴホッ。


 穂香の口からうめき声が出た。


「この町の大半は確かにあなたのお父さんの企業に関係してる。だからあなたは大好きな笹川君に女子生徒を近づけないようにしていた。当然学校内では、その監視体制はほぼ完全に機能していたようね。でもね。」


 穂香が咲空の足を何とか外そうとする。

 咲空はまた足に力を入れて押さえつけた。


「私の隣の、私とおんなじ陰キャの田中和夫君。彼に頼んで笹川君にメモを渡してもらったの。「会いたい」ってメモ。」


 この話がどこにたどり着くのか、北川さんはもう解ってる筈よね、だってあなたがしたことだもん。

 また、屋上の貯水槽の方を見てるね。

 でもね、そこにはもう、何もないよ。


「田中君はいい人で、すぐに笹川君にそのメモ、渡してくれたよ。私の携帯の番号も書いておいたから、笹川君、すぐに連絡くれたんだ。どう、羨ましい?北川さん。」


「笹川君が、龍之介が、あんたなんか、相手にするわけないじゃない。」


「まあ、そうね。私も付き合うつもりで会いたかったわけじゃないから。」


 さっきから抵抗していた穂香の身体から、一瞬、力が抜けた。


「まあ、さっきの話も、手を触ったとこまでは本当だけど、その先の話はすべて私の想像、って言うか妄想かな。龍之介君はどうか知らないけど、私はまだバリバリの処女だから、北川さんと一緒。」


 言った瞬間、下から思いっきり足が持ち上がった。

 おもわず、咲空は体を反転させ倒れるのを防ぐ。


 穂香が涙を流しながら立ち上がった。

 と、同時に咲空の腰めがけて体当たりしてきた。


 そのまま倒れこむ二人。

 立ち上がろうとした咲空の首に穂香の両手が絡みついてきた。


「死ね、このくそ女。」


 穂香の手に力が入る。

 咲空の息が詰まり、気が遠くなる。


「やめろ、北川穂香!」


 懐中電灯の光が二人を照らす。

 体格のいい男が咲空の上に馬乗りになっている穂香を羽交い絞めにして、咲空から引きはがした。


「警察だ、殺人未遂の現行犯で逮捕する。」


「離せ、この野郎、あの女を殺すんだ!」


 穂香が押さえつけられながら、叫んでいる。

 咲空は急に解放された肺に喘ぐように空気を送り込む。少しむせる。


「大丈夫か、咲空。全く無茶して。」


 咲空の父親、山南警部が愛娘を抱き起す。


「遅いよ、父さん。もう少しで本当に殺されるかと思った。おとり捜査なんて協力しなきゃよかった。」


「悪かった。待機はしてたんだが、少し油断した。」


 警部が実の娘に必死で謝った。


 咲良はゆっくり深呼吸して、落ち着いた穂香に近づく。


「あなたの父親、北川英二の関連事業が自分の議員の地位を利用した汚職を警察が調べていたの。たまたま私があなたとクラスメイトと言うことで、ここ1年ずーっと観察させてもらった。」


 咲良がほのかに淡々と話し始めた。

 穂香はまるで聞こえないように、全く咲空に目を合わせない。


 だが、その方向は秘密と言ったものがある筈の場所。

 でも今は何もない。

 かろうじて血痕が確認できる程度。


「秘密」。すなわち笹川龍之介の死体。


 笹川に彼女ができて、信じられなかった穂香がこの屋上に呼び出していた。


「まさか金属バットで殴りかかるとは思わなかったな。」


 殴られ、意識のなくなった龍之介に驚いて、逃げた穂香。


「安心して北川さん。龍之介君は病院のベッドで意識を回復して、今は体の治療中。」


「ほんと?生きてたの、龍之介。」


「大丈夫そうよ。10針くらい縫ったそうだけど。」


 さっきまで表情のなかった穂香は、咲空のその声に目を大きく見開いて、咲空に顔を向けた。


「そういえば、龍之介君のアパートに言ったことまでは話したよね。その後の話。」


 やっと、穂香は咲空にその視線を移した。


「笹川君のご両親は、隣の県で会社を経営していたの。みちのく印刷。聞いたことあるかしら?」


「みちのく印刷って。」


「そう、あなたのお父さんの関連企業が吸収した会社。詐欺まがいの手法でね。」


 だから、わざわざ龍之介君は奨学金のあるこの学校に来たのだ。

 北川穂香が通っていたのは只の偶然。


「あなたを揺さぶれば、どこかであなたのお父さんが出てくるかなと思って龍之介君に協力を申し出たの。龍之介君はそういう事情ですぐに協力してくれたの。龍之介君は、あなたに会社関係のことを聞けるチャンスと思ったんだろうけど。こんなことになるとは思わなかった。」


 穂香は笹川が女子と付き合っていることを肯定したことに、嫉妬に狂ったのだろう。

 金属バットは、多分ここで遊んでいるほかの生徒の忘れ物、と言ったところか。

 つい、別れさせようとして、金属バットで相手の名を聞き出そうとした。

 が、笹川はその態度に自分の両親の今の境遇を思い出し、強い態度に出た。

 穂香は怒っている笹川に恐怖して、金属バットを振り下ろした。

 怖くなって逃げだした。


 私は隠れてみていたのだが、あまりのことに対応できなかった。

 すぐに父に連絡して笹川君を病院に連れて行った。


 振りおろされたバットは頭をかすめ、左肩を直撃、骨折していたが、命に別状はなかった。


 北川穂香はただ、無言だった。


「あんなに取り乱す北川さん、初めて見たわ。1年くらい、ずーっと見てたけど。」


 穂香の瞳は私に向けられている。

 でも、たぶん違うものを見ているようだ。


 私を殺そうとしたのは、「秘密」を知っているからではなく、愛する人の彼女だったから…。


「北川さん。いえ、穂香。あなたは本当に笹川龍之介君が好きだったんだね。」


 北川穂香は声に出して泣き始めた。


「よかった、生きていてくれて、本当に、よかったあ。」



この作品は、連載中の「親父と同居のスクールライフ」で、演劇部の劇用に考えたものです。まだ出てくるのは少し先ですが、興味がありましたら、本作も目を通していただけると嬉しいです。

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