親ガチャ失敗
明日から春休み。
俺達は公園で、同じスマホゲームをして遊んでいた。
「昨日ゲームで課金したいって言ったら、めっちゃ怒られた。」
「俺んちは、お小遣いの範囲ならオッケー。」
「いい親だなぁ。ボクは親ガチャ失敗だ。」
俺は、親ガチャに成功したほうだと思う。
両親はともに大企業の正社員。父は課長補佐に昇進したらしい。
欲しいものは買ってくれるし、好きな料理が食べられる。不自由を感じたことは一度もない。
両親は優しくて、少しくらい成績が落ちても怒られることもない。
URとまではいかないが、SR親だと言える。
友達の羨ましそうな顔を尻目に課金ガチャを引く。
「あぁー、ただのRかよっ。」
「ざぁ〜んねん。」
友達の言い方にちょっとイラッとするが、どうせ嫉妬だ。
もう一回課金ガチャを引く。
「よっしゃーUR!」
「良いなぁ。」
俺は友達の百倍強い。
…ゲームだけは。
実は勉強でも運動でも友達に勝てない。
「さっきのRキャラどうすんの?育てるの?」
「育てたりしないよ。今引いた強キャラの経験値にする。」
「ボクにくれよ〜。」
「あげないし。」
二人で笑った。
この「くれよ〜」のくだりは二人のお約束だ。
「ちくしょー。ボクの親ガチャ、もう一回引けないかなぁ!」
友達が叫ぶ。
「リセマラ しかないんじゃない?」
「それって、良い親に当たるまで死にまくれってことか?」
「んー、そうなるな。」
また二人で笑う。
バカみたいな話をして時間が過ぎていく。
***
夜。子供はもう寝てしまった。
「うちの子は能力低いなぁ。」
子供が貰ってきた成績表を見て、父親は溜め息を吐く。
「子ガチャに失敗したよね。」
母親も残念そうな顔をする。
「育てるのにかなり課金したんだがな。」
「いろいろ買ってあげたのにね。」
父親は母親を抱き寄せる。
「まだガチャは引けるだろ。」
「ん…そうね。」
「次はURが生まれるさ。」
「でも、あの子はどうするの?誰かにあげる訳にもいかないでしょ。」
母親の問いに父親は澄ました顔で答える。
「もう育てないよ。次の子の反面教師にすれば、いい経験値になってくれる。」
※1【リセマラ】
リセットマラソン(Reset Marathon)の略
良いキャラやアイテムが出るまで、ゲームアプリの初期化を繰り返すこと。