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馬村鹿之助の大学受験  作者: 佐藤 ココ
4度目の正直
38/55

お願いだから、

 携帯が5時を知らせる。馬村は布団の上から手を動かして携帯を探した。固いものがカツンと小指に当たって少し痛む。手触りから言って携帯だろうとあたりをつけた。依然として目を開けられないので、その音を消そうと電源ボタンを押そうとしたものの、カシャッと言う音がした。スクリーンショットをとったみたいだ。朝起きて一番にやらかしたことで、馬村はもう何もしたくなくなった。カーテンの隙間から差し込む光が、いい加減に起きろと馬村の頬を叩くから、しかたなく体を起こす。その反動のまま、キッチンへ向かった。


 水道水をやかんに入れて火にかける。そうして大量に炊いて小分けして冷凍庫に入れてあったご飯をレンジに入れ、事前に味噌と万能ネギ、味の素を混ぜて作っておいた即席みそ汁の元を冷凍庫から取り出してお椀と保温ジャーに適量を突っ込んだ。そこに乾燥わかめを加える。卵焼きを作って、作り置きしていたあれこれを皿と弁当箱に入れ、ようやく馬村は一息ついた。


「……眠い」


 やかんがピーと声を上げて馬村を激励する。昔なら朝ごはんの歌を歌いながら上機嫌に料理をしていたものだが、最近、どうにも朝が辛い。原因は明らかだ。


 馬村の両親が倒れた後、新藤は言った。

「この剣について調べたいんです。黒がこれを自分のものだといったのと、師匠たちから聞いた、この剣はもともと神のものだ、と言ったことが矛盾しないとしたら、この町の成り立ちを調べることで、なにかがつかめるかもしれません」


 あれから、今の今までずっと調べ続けてきた。かといって、勉強時間を減らすわけにはいかない。新藤は勉強をさほど必要としないから、全力で調べ物をしていたが、馬村はそうはいかない。必然的に、睡眠時間が減り、すきま時間をなくしていた。それでも、新藤よりも調べ物をしている時間は格段に少なかったが。


 季節は春。秋と冬の記憶はほぼない。秋冬なんて、持久走大会をこなして、模試を受けて、テストで撃沈して、窓を開ける閉じる問題で争っていたら終わった。寒いのは嫌いだ。馬村は九州以北に住む人々を心から尊敬していた。もうそれだけで九州人には圧勝だ。とはいえ、暑いのも嫌いである。本当に住みやすい場所に生まれたものだ。九州は沖縄を除いてさほど暑くない。馬村のためにあるような気候なのである。そんなところでも窓を開けるか閉めるかで争いが起きるのだから、九州以外の県はどうなっているのか、想像もできない。きっと死人が出ている。


 春になって、気候とともにみんなの気性も穏やかになった。クラスは成績順で分類されるから、クラス替え前後は少し空気が重かったが、それももうない。みんな現状を受け入れた。


 芦原高校では、2年生になると、アッパークラス4クラス、逆ッパークラス4クラスに分かれる。アッパークラスと逆ッパークラスは理系と文系に分かれている。新藤、金木、東雲、修馬、小林、西村は全員理系、馬村は文系を選択した。馬村以外は全員同じクラスだった。もともと特進クラスのメンバーは、それこそ逆ッパー落ち――成績不振で成績が振るわない人間が集められたクラスにいくこと――でもしない限り、ほとんど同じクラスであるから当然ではある。馬村は成績の上昇率が評価されたのか、アッパークラスになった。


 その時の馬村の喜びようは目も当てられないほどだった。頑張ったことが、結果としてついてくる。そんな経験はしたことがなかった。


「みんな本当にありがとう!!全部みんなのおかげだよ!」

「まぁ俺の手にかかればそれくらいは当然とういうか馬村くんが頑張ってたから結果が出たんだから全部おれたちのおかげとするのはいかがなものかとおもうよ」

「金木長ぇし速ぇ」

「時短が叫ばれ続けた弊害ね」

「あっ、ちょっとくどいかもね」

「そのなりで毒舌なの詐欺だろ小林」


 だから、とにかくお礼がしたかったのだ。


「なにかお礼がしたいんだ、みんなさえよければ、今度うちにこない?」


 もちろんみんなが否とは言うはずもなく。

 少し時間はたったが、みんなの都合があった明日、パーティーが行われることになったのだ。

 


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