五回目の衝突と、曖昧模糊な証言
「事故状況」
踏み切りに侵入した乗用車が立ち往生している間に、ホームに停車するためにやってきた列車に衝突。運転手の男性は即死。現在死因を究明中。ドライブレコーダーは破損。以上
「田仲源之助(87)」
遮断機をくぐっていっちまったもんで、ええ、びっくりしたんですわ。ん、もちろん止めましたよ。大声で止まれえて叫んで。ほら、わしの声嗄れてるじゃろ
「トラックの運転手(22)」
あーん、夜通し走ってて、眠くてさ。いやいや、分からないよ。いきなり凄い音がして。覚えてないって。ドラレコ見せろ?何で?嫌だよ
「踏切の向かい側で待っていた女(17)」
なんかさー、運転してたおっさんがあ、後ろのシート見てさ、てか、もう帰りたいんですけどお
「田仲源之助(87)追記」
後部座席の、奥さんだと思うんだけどね、車から降りたと思ったら、どっか行っちゃって、ほら、わし眼鏡かけとらんじゃろ。視力がよくないんじゃ、確か幾つだったかのお。れいてんいちか、にか、さ
「犬(3)」
ワン、ワンワン。ワワワワワン。ワワワン
「踏切の向かい側で待っていた女(17)」
トラック?ああそーそー。トラックが、ゆっくり動いて、前の車がどんどん進んじゃってた。でもさー普通バックするじゃん?押されたら
「トラックの後ろの運転手(46)」
すいませんねえ、ドライブレコーダー載せてなくて。確かにトラックのブレーキランプが点滅してたようなしてなかったような。それより綺麗な女の人だったなあ
「調査報告書」
今回の事件は、先月同様(故:都内在住女性)、背後の車に押されたことによるものと断定。これで累計五件にのぼる。当局は早急に対応されたし。
ただし現場の証言はどれもなぜか曖昧なものに留まり、監視カメラも故障していたため、状況証拠に欠ける
「過去の報告書抜粋」
被害者1
芸能人女性、閉まる遮断機を潜り抜け、走ってきた列車にはねられる
被害者2
男性(38)。無職。即死
被害者3
男性(21)。踏切で佇んでいるところを通りがかりの住職に襟を引っ張られて助かる。このとき男性は、「女の人に話しかけられた」と供述している。精神鑑定の結果、陽性と判断された。
被害者4
女性(19)。列車通過待ちに、背後の車に押されて踏み切りにはみ出たところを、電車に衝突。ドライブレコーダーには、後部座席を振り返る女性の姿と、「あなた、誰?」の声のみ録音されていた。
もしも後ろの車に押されたら、バックするしかない