幼馴染の3人
小さな頃から好きだった。
キヌス、セドリック、そして私。
とても優しい兄たちだった。いつも構って遊んでくれた。
私は一番年上のキヌスに恋をした。
***
キヌスが町を出て行った。
私と一緒になってくれないの?
キヌスは、私を妹のように愛している。だけど夫婦になれるはずだとも分かっている。
そして私はキヌスが良い。
キヌスが出て行くのは、セドリックについて案じているせいだ。セドリックが私のことを好きだからって。
町を出て行く勇気もない。
それに私は、この町で、キヌスと一緒に暮らすのが良い。
いつまでかかっても良い、待っていればいい。
戻って来た時に、私は私であればいい。
***
セドリックが頻繁に会いに来る。
求婚もされた。だけど断った。
セドリックも、私の心はキヌスにのみ向けられているとよく知っているはずだ。
求婚を3度も断ったので、それ以上はセドリックは言ってこない。
それで良い。
私が他の人に目を向けることはない。
例え、キヌスが結婚したという知らせがあっても。
***
やっと。
随分歳を経た。やっと戻ってきてくれた。
私の手の中に。彼の生命が動いている。
私にくれるの? 良いでしょう?
嬉しい。彼は、私に彼をくれる。
苦しめてごめんなさい。でも、嬉しいの。
ずっとあなただけが良いと思っていたの。
とても優しいのね、だから好きになったのよ。
「一緒に死ぬかい?」
最後の最後に、なんて嬉しいプロポーズ。
えぇ。
それで、構わないわ。
とても、幸せに死んでいける。
私、今やっと、とても幸せよ。
***
***
***
小さな頃から好きだった。
キヌス、僕、そしてダフィネ。
3人で仲良く遊んでいた。キヌスは年上で頼もしく見守り、ダフィネは僕たちの後を追ってくるのが可愛かった。
けれど、ダフィネの恋から、全てが変わる。
僕は、取り残されてしまう事を恐れた。
3人の関係から、たった1人残されることを。
認められなくて、僕はダフィネに固執した。
キヌスは僕のダフィネへの思いに気が付いた。
優しいキヌスは、この関係に深く悩んだ。
そして、大人に相談して、他の町に出て行った。
僕とダフィネが一緒になるのが良いと、キヌスは考えたのだと察しがついた。
僕は何度もダフィネを誘った。
ダフィネは頑として受け付けなかった。
ダフィネは他の男からの誘いも全て断って一人老いた。
放っておけない僕も一人で老いた。
なお、そうなった言い訳も少しある。僕がダフィネを求めていると、この町の皆が知っていた。だから僕は他の女性から対象外で声もかからなかったのだ。
キヌスは両親あての手紙で、結婚したと知らせてきた。その後は知らない。
キヌスがいなくなっても、結婚したという知らせがあっても、結局3人の関係は変わらないままのように思えるのは、僕とダフィネが変わらないままだからだろうか。
***
キヌスが戻って来た。
ダフィネの家に行った。
そう聞いて、僕もダフィネの家に向かう。
誰も出てこない。ドアは開いている。人の気配がしない。
様子を見ようと踏み込んだ室内で目にしたのは。
折り重なって倒れている二人の姿だった。
まさか、と思うと同時に、殺したのか、と思ったのは、ダフィネの思考を察したからだ。
だけど、まさか。馬鹿な。
衝撃で座り込みそうになったのを這いずるように近づく。
ダフィネの口元に耳を寄せる。息をしていない。瞳を覗き込むも、もうどこも見ていない。
あぁ。でも、笑っている。
ダフィネ。退け。
キヌスの上から退くんだ。
僕はダフィネのまだ暖かい亡骸を、キヌスの両腕から外して横に転がしていた。
「キヌス。キヌス」
呼びかける。ダフィネよりも必死で生きていてくれと願っている。
顔を近づける。
キヌスか。キヌスだ。これがキヌスだ。
動かない。息も止まっている。心臓も動いていない。
死んでいる。
どうして、死んだ。なぜ殺された。
目を開けてくれ。
無理矢理瞼を開けようとする。瞳の色を覗き込む。
キヌスだ。
死んでいる。息をしていない。瞬きをしない。
僕は悲鳴を上げた。
***
それからの事をよく覚えていない。
そのうち他の者も来て異変に気付いた。二人はそれぞれに埋葬された。
僕はずっと泣いていた。
そして恐ろしい事実を知った。
僕は、ダフィネではない、キヌスが欲しかったのだ。
僕の胸にぽっかり空いた黒い穴は、ダフィネではなく、キヌスの死によってもたらされていた。
僕は。
キヌスに放り出されたくなくて、ダフィネに恋をした。
ダフィネは、自分のための、口実。
***
死にたい。
僕は思った。
とはいえ、その願いは比較的すぐに叶いそうだ。
2人の死を知ってから僕は嘆き悲しみ、急激に弱ってしまったからだ。
悪い風邪を引いたようで、咳をするだけで胸が痛い。
辛い。
死にたい。
理不尽だ。
僕はキヌスが好きだった。
***
やり直せるなら、僕はキヌスにとって異性でありたい。それでキヌスの傍にいたい。




