表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

未来の国のアリス

作者: 川下部水智

——ここは、どこなんだろう。

アリスは辺りを見回す。

あるのは灰色の空と殺風景な廃墟。

ただそれだけだった。


彼女は体を起こし、歩き始める。ここはどこか、なぜこうなったかを聞くためだ。

しかし、歩いても歩いても歩く人はは見えない。

だが、路上に倒れ込み、ビクともしない人が大量にいた。そして腐敗臭がする。

「もしかして、死んでる……」

アリスは恐怖のあまり、小声で漏らす。

その先を歩いても、視界に入るのは灰色の空と廃墟、そして数えきれないほどの死体。

彼女は、生きた心地がしなかった。

自分だけが、何かに生き残ったのか、と思うようになった。

寂しさと気味の悪さをひどく感じながら、彼女は歩き続けた。


どこまで歩いただろうか。冷や汗を流しながらも、彼女はは歩き続けた。

——————ぅ。

何かが聞こえる。

アリスが咄嗟に振り向くと、そこにボロボロになっている服を着て、うなだれている男が目に入った。

————うぅ。

間違いない。この人の声だ。

そう確信した彼女は、話しかけるために、男に近づく。

そのとき。

「ぅうああああああああああああぁぁぁぁぁッッッ」

男がタックルを仕掛ける。

「うわぁっ」

アリスが間一髪、そのタックルをかわす。

その後、男は、ガシャンと音を立てて向かいの瓦礫に飛び込んだ。

「びっくりした……」

アリスはまたもや言葉を漏らした。

しかし、私以外にも生きていた人はいたんだ……と思った彼女は、もう一度あの男に話しかけるが、何度話しかけても、何度体を触ってみても、彼は応答しなかった。

すでに彼は、息絶えていた。


その後、アリスは、考えていた。

——この人のように、他に生きている人がいるならば、歩き続ければ、誰かに会うことができるのかもしれない、と。

だから、彼女は歩き始めたのだ。

途中、色々なものを見た。

ビルの瓦礫の下敷きになって死んでいる人。

銃で撃たれて死んでいる人。

何も食べられなかったのか、痩せ細って死んでいる人。

多くの死体を見た。

多くの朽ちた文明を見た。

彼女は途中、再三吐き気がした。歩くのをやめようとした。しかし、彼女は絶えた。

止まってしまっては、あの人たちのようになってしまうから。

止まってしまっては、いけないと思っていたから。


どれだけ歩いただろうか。

ほとんど変わらないような視界。

廃墟だらけの視界。

その視界の中に、何か動くものが見えた。

アリスはすぐにそちらの方向を見る。

そこには、ある老人が、前からゆっくりと歩いていた。

彼女はすぐにその老人のもとへ駆け寄り、話をする。

「すみません、ここはどこですか、何があったんですかっ」

興奮からか、語勢を強くして言った。

…………少しの沈黙。そのあと、老人は口を開いた。

「この世界は、滅亡したんだよ」

「え?」

どういうこと?

いつのまにか滅亡した世界に私は飛ばされたってこと?

なんで?全くわからない。

どうして?全くわからない。

アリスは突然の事実に頭が混乱していた。しかし、老人の話は続けられる。

「大国たちが、世界中を巻き込んで戦争をしたんだよ。核を使ってね。世界中が標的になって、世界中が荒廃した」

老人の話は続く。

「たった数人の政治家によって、何十億ともいう人が死んでしまった。それだけじゃない。動物が死んだ。植物が死んだ。建物が死んだ。歴史が死んだ。希望が死んだ。未来が死んだ。生きているのは、一部の生物と、絶望と、放射能に覆われた世界だけだ」

「そう、ですか……」

アリスは沈黙する。

「電気に覆われていた、この街だって、死んだ。あるのは、死骸だけだ。それ、に——————」

その老人は倒れた。

「大丈夫ですか!大丈夫ですか!」

応答はない。

彼も、死んだ者の一人になってしまった。


アリスは呆然とした。

滅亡した世界。

大国の核戦争。

死にゆく人々。

人間の小ささ。

それを痛感した。

ふと横を見ると、子供の死体がある。

数人の身勝手な政治家たちによって壊された未来。

ふと後ろを見ると、親子の死体がある。

数人の身勝手な政治家たちによって壊された幸福。

もう、どうすることもできない。

自分ではどうすることもできない。

機械仕掛けの神など存在しない。

自分も、同じようになる。

壊された未来の一人になる。

怖い、だけれども逃れられない。

悲しい。だけれども涙も出ない。

どうすることもできない。

アリスはただ、考え尽くすだけだった——————


* * *


起きて、アリス。


その言葉で、アリスは目が覚めた。

横には姉がいる。

あれは夢だったのか、と安堵の表情を浮かべる。

うなされているようだったけど、と姉は心配そうに声をかける。

実は、とても怖い夢を見た、とアリスは話す。

もし、怖いことがあっても、私がアリスを守るよ、と姉はアリスにハグをした。

やっぱり、お姉ちゃんはあったかい。

そう感じたアリス。しかし、それと同時に、心の中で祈っていた。

あの夢が正夢になりませんように—————————

また夢オチかよ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ