一歩踏み出す前と後 前の4
「タロウさんはぁ、どんな能力が欲しいですかぁ?」
「え?自由に決めていいんすか?」
マジで?チートを自由に決めていいなら、難易度ノーマルなんて余裕じゃね?
「何でもいいわけじゃないんですけどぉ、なるべくご希望に沿いますよぉ」
これはクリア余裕だなあ。なるべくゲームを楽しめて、安全なチートを考えなきゃなあ。
「チートっていくつ貰えるんすか?」
「タロウさんの容量次第なんでぇ、数は付与する能力によるとしか言えないんですよぉ」
容量って言われても、自分じゃサッパリわからんなあ。とりあえず貰いたいチートを言ってみればいいかなあ?ファンタジー世界なら、レベルとか?スキルとかかな?
「レベルとか、スキルって有ったりします?」
「両方ともぉ、有りますよぉ」
「よっしゃ!それなら、レベル99で!あと、剣スキル極めて!魔法も!」
「レベル99はぁ、オッケーですぅ。でもスキルをマックスにする事はできませぇん。才能の付与ならできますぅ。修練してくださぁい」
スキルはダメなんだなあ。才能を貰って伸ばして行く事になるのか。
「じゃ、剣の才能と、魔法の才能を!」
「何の魔法がいいですかぁ?」
あ、魔法は種類ごとなのね?
「全部の魔法ってのは無理っすか?」
「無理っすぅ」
うーん、どんな要素があるのか分からないと難しいなあ。
「とりあえず異世界の知識を教えて貰うって言うのは?」
「それはダメですぅ。そこまで知っちゃうとぉ、行く意味無くなっちゃいますぅ」
「ですか」
「ですよぉ」
すっげえ悩むなあ、ちょっと時間貰えるかなあ?
「考える時間って貰えたりします?」
「いいですよぉ。」
*
「ワレこら!いつまでヤリよんじゃい!」
「ヒッ!?すいません!!」
ヤベエ!悩みすぎて、トワさんがまたビキビキになってらっしゃる!
「すいません!考え終わりました!」
「オドレ、考えるゆーてから長すぎるじゃろうが!」
「はい。すみません。お怒りお鎮めください」
「女の子を、待たせちゃぁダメですよぉ」
どうやら許されたらしいが、口調の高低差が激しすぎて着いていけない。ひとまず脇において、チートを貰えるか聞いてみよう。
俺の望むチートは、
レベル99
剣の才能
回復魔法の才能
水魔法の才能
空間魔法の才能
鑑定
異世界最強の剣と装備
状態異常無効化
だ!よろしくお願いします!
「無理…ですねぇ」
「無理…ですか?」
「完全に無理ですぅ」
くそ!無駄にかわいい声しやがって!見た目とのギャップで余計に腹立たしいな!
結局どこまでならオーケーなんだよ?
「タロウさんの容量でぇ、付与可能な能力を今のご希望からご案内しますねぇ」
「…お願いします」
せっかく異世界で最強の俺!って感じで行けると思ったのに。
「という事でぇ、タロウさんに付与する能力をご案内しますぅ。こちら!」
レベル99
剣の才能
回復魔法の才能(小)
水魔法の才能(微)
鑑定(食料)
健康体(小)
冒険者ザック一式(空間拡張微)
初級冒険者装備
騎士の剣(並)
「…微妙じゃないっすか?」
「素敵ですよぉ。容量の関係で、全ては叶えてあげられなかったですけどぉ、なるべくご希望に近づけたと思ってまぁす」
「…オマケ!オマケのチートは?」
「水魔法ですよぉ」
ショッパイよ!(微)ってなんだよ?!
「装備のオマケは?」
「兵士の剣(粗)からスーパーグレートアップ!ですよぉ」
最高だあ!やったね!こんなんチートやあ!ってならねえよ!
「帰ります」
「ダメですよぉ」
「説明聞いた後でも帰っていいって言ってたじゃねえっすか?!」
「もう、一回行くって言ったじゃないですかぁ?」
あっれえ?
「全然チートじゃないですし!」
「能力の付与ですよぉ?」
トワさん、目が笑って無いっすねえ…これは…
「ガタガタ言わずに早よ行けえやあ!」
「詐欺じゃねえか!クーリングオフを!クーリングオフを要求する!」
「うるさいんじゃ!行け!ビ~ン~ク~ノ~ド~ア~」
トワさんの、いや、トワが微妙なダミ声とイントネーションで呪文の様にピンクのドアを呼ぶと、ヤツの背後からぬるりとピンクのドアが現れ、こちらに滑る様に迫って来る。
「い、イヤだ!オウチに帰る~っ!」
「もう遅いんじゃ!そのドアはくぐると同時に世界を越えるっ!一度お前を素粒子まで分解っ!必要な能力を組み込みながら転移先世界で再構成するっ!」
ピンクのドアに食われる!なんとか逃げる事が出来ないかと、身体を動かしてみるが、これはどうしようもない。
のし掛かるようにドアが上から被さってくるのを、必死で手で押さえて抵抗する。
トワが近づいてきて、抵抗している俺の指を一本ずつ剥がそうとしてきやがった!
「ちょっ!やめろ!」
「安心せえや!死なんと言ったんは、ホンマじゃ!」
ああ、もう限界だ。
「クソがっ!信じるからな!お前、口調ブッレブレだからなっ!このデブっ!」
「ワレこら!二度目は無いけえの!」
尻に強烈な痛みと衝撃が走り、手が滑ってしまう。
振り返るとトワが明らかに邪悪な笑顔を浮かべていた。
バタン
「ぐべべべべ」
ドアが締まる音が聞こえ、俺は顔面から受け身も取れずに荒れた大地に突っ込んでしまった。
日本一有名なコンビニ入店音もなぜか同時に鳴り響いていた。