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一歩踏み出す前と後 前の1

よろしくお願いします。

「川上タロウさぁん。それでぇ…どうしますぅ?」


大きな緑の眼を、長いマツゲがふちどるアーモンド形の目。瑞々しい薄桃色の唇から零れる、鼻にかかった幼げで甘い声。

俺、今、メッチャ悩んでます!


「そ、そんな事言われても…困るっす…」

「しっかり考える男の子のことぉ…嫌いじゃないんですけどぉ、そろそろ決めて欲しいなぁ」


フワフワした金色のゆるくウェーブがかかった長い髪を、物憂げに掻き揚げながらソレが吐息をもらす。


「もう一回、説明お願いします!」


選択肢に悩みすぎて、頭がパンクしそうになった俺は、もう一度整理したくって頭を下げた。


「えぇ~。もう一回スルんですかぁ?次で3回目ですよぉ…そんなにスルなんてぇ…欲しがりさんですねぇ」


絶妙に肢体が透けて見えない、薄く軽く柔らかそうで、不思議な輝きを放つゆったりとした布で覆われた、背が低いのに豊満な自らの身体を掻き抱くように、白く長い腕を回し、困ったように眉尻を下げた。


「いや、ホントすいません。」


言い方おかしいよ!エロイ感じで言わないで欲しい!

でも、そんな事は横に置いといて、今は選択肢!選ばなきゃ!俺の今後の人生、これに懸ってるんだから!


「じゃあ、もう一回だけスルからぁ、よ~く聞いてくださいねぇ」

「は、はい。よろしくお願いします」


「一個目の世界はねぇ………」



先日18才の誕生日を迎えた俺は、普段通りに学校に登校し、


「先日のテストを返却するぞ~!平均点は63点だぞ~!お前ら、もうちょっとがんばれよな!」

「おい川上!何点だった?」

「71点だったわ。お前は?」

「マジか~俺はな………」


可もなく不可もない成績を遺憾なく発揮。



上でもなく下でもないスクールカーストに従い、


「タロさん、コンビニ寄って帰ろうぜ!」

「おー、アイスでも食べようぜ。あとタロさん言うなし」

「いいじゃん、タロさん。このご時世には逆に珍しくね?」

「ご時世ってなんだよ?珍しいから恥ずかしいんだろ!」


それなりに楽しいような、楽しくないような、有る程度のコミュニケーションを遂行。


170センチ、65キロのいたって中肉中背の体躯を活かし、部活も引退。

受験を控えバイトをするわけでもなく、彼女がいるわけでもなく、長期休暇を控え、彼女がいるわけもなく、かといって趣味があるわけでもなく、彼女が出来た事もなく。特に何も、特になんにも不満が有るわけでもなく。

平々凡々として日々を過ごしていた。



友達と別れて、コンビニからの帰り道の事だった。俺は目を疑ったね。

もうすぐ家に着くというところの路地の曲がり角をちょうど曲がってすぐ。俺の前にピンクのドアが鎮座していた。


国民的アニメのレイヤーさんが?


最初に思い浮かんだのはコスプレの撮影だった。しかし辺りを見回してみても、誰もいない。

完全に道を塞いでるなあ。


まず、普通の住宅街の路地にはドアは無いよな。有るわけない。有ったらそれは不法投棄だ。

だが、まだそれはいい。

しげしげとドアを観察してみると…

ちょっと浮いてる!5センチくらい浮いてる!


「これは…バズる…」


俺の26人のフォロワーよ!拡散希望!


「とりあえずドア開けてみるか」


謎のピンクのドア、略してNPD。勝手に触って怒られる事も考えたが、原理も分からないのにちょっと浮いてるし、何より道を塞いでるから通れないしね!


軽い気持ちでごく普通にドアノブに手をかけ、鍵がかかっていない事を確認。

ノブを回し、あっさりとドアが開いた。

ドアの向こうに広がる景色は…


「…そりゃ何にも無いよなあ」


普通に路地が続いている。

ちょっとだけ期待して開けたんだけどなあ。誰だって期待するでしょ?

わかっていた事だけど、やっぱりちょっとがっかりするのはしょうがないでしょ?


「とりあえず、くぐってみるかあ」


期待した自分が少し恥ずかしくなって、誰に聞こえるわけでもないのに言い訳がましく独り言をつぶやく。

当然ファンファーレが鳴るわけでもないよな、なんてぼんやり考えながら、ひと思いにドアをくぐると、


気の抜けた、世界一有名なコンビニの入店音が鳴り響き、視界がほんの一瞬ブラックアウトした。


「…はあっ?!」


何?何?なんだ?急に辺りが大理石でできた神殿みたいな?

慌てて後ろを振り向くと、今しがた通ったピンクドア。開け放たれたままのその向こうには見慣れた路地だ。パニックに襲われてへたり込んでしまった。

人は、理解が出来ない事に襲われたら走って逃げたり出来ないんだな、なんて後から思うけど、この時はカッコ悪く逃げ出そうと、どうにか四つん這いになってドアをくぐりなおそうとした時だった。


「いらっしゃいませぇ。トワでぇす。よろしくお願いしまぁす。」


信じられない程カワイイ声が、俺の耳に入ってきた。

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