番外編そのにの1 女神像に祈った令嬢
いきなりの新キャラ登場の番外編です。
時系列的には5話くらいでしょうか。同系列の14話の前になります。
やたらめったら学園で存在感を放つ女神像の謎についての話です。
私、どこにでもいる普通の令嬢ドリー・モブニカ。
他国出身よ。
歳は17歳。
母国では伯爵令嬢なんだけど、1ゼニゼロにもならないからそれはどうでもいいわ。
ちょっと……まあ、のっぴきならない事情が有って、跡取りは私一人なの。
そしてのっぴきならない事情で祖国で婿は探せないの。
あんな所で探してたらあっという間に骨に……いえいえ、何でもないわ。
後、決して私に魅力が足りないとかでは無いのよ!
そして領地は狭っ苦しい上に大した売りも無く、この間の長雨で経営破綻を起こしそうな予感……いえ、確実な未来が待っているの。
このままでは御取り潰しになっちゃう……。試算したら破綻迄余裕は10年切ってるって……。
……だ、だから私はこの女神学園で、援助してくれるお金儲けが上手な旦那さまを見つけないといけないの。
使いきれない位の財産持ちに玉の輿でもいい。何としてでもこの1年でお婿さまを見つけなきゃ。
ギリギリ学園に入れる年齢で本当に良かったわ……。若さって本当に有りがたいわね。
誰よりも肉食に生きるわ。
……恋愛経験皆無だけど!!
えーと、鴨……いえいえ、見ただけでお金儲けの才能は分からないから……ある程度財産持ちを探さなきゃ。
グズグズしている暇は無いの。
えー、あれとかいいかしら。うーん知らない人ね。
イケイン伯爵令息さまーって親切な子が騒いでるから名前も分かったし。派手な格好だしお金持ちそうね。
顔はまあまあ好みだし……ちょっとチャラいのが気に食わないけど。他国まで来てて婚活してる身分としては贅沢を言ってる場合じゃないわ!
よし、あれにしよう!
それにしても取り巻きが多いわね。料金割引中の大衆演劇場並みに混んでるわ。
並ぶのはいいけど何時辿り着けるかさっぱり分からない。
それにプレゼントみたいなのを持ってる子が居るわね。
そんなお金掛ける余裕は無いし……近寄ったとしてもどうしようかしら。
何かもっと手っ取り早く仲良くなれないかしら。
困ったわ、こういう類の殿方を口説くのってどうするのかしら……。恋愛雑誌とか落ちてないかしら…。
売店に売ってるのは知ってるけれど、お徳用・半額・見切り品以外買わないからどうしようもないし。
そう言えばあのやたら威圧感を放ちながら其処ら中に存在するのって『恋を愛する女神像』だったかしら。
恋愛成就の神様なのよね、よく知らないけど!!
よし、駄目元で祈ってみよう!
他国の人間でも心を込めて祈ればきっと大丈夫!
うっ、やっぱり威圧感が凄いわね。
誰も近寄ってないわ。この国の人間って信仰心全然が無いのね。
まあまあ怖いのを押し殺して女神像に寄ろうとしたら……すれ違い様に薄赤い髪の子にぶつかられた。
「いったあああっ!」
「え?……変な顔」
はぁ!?謝らない上に……クスクス笑われた!?……何この子。私何かした!?
あの子の肘が私の脇腹にめり込んだんだけど!!
あまりのことに唖然とする私を放って行ってしまった……。
何なのあの顔はとっても可愛いけれど当たり屋なの!?腹立つーー!!
……いけない、時は金なりね。脇腹が痛むけどその内治るわ。
ええ、石柱にぶつかったとでも思って……あんな知らない子なんかどうでもいいわ!
今の私に使命があるのよ。
祈りの文句……知らないわ。適当でいいかしら。心を込めればいいわよね。
「ええと…イケイン伯爵令息と私、ドリー・モブニカの素敵な恋を叶えてください、女神さま……」
……。
…………。
……………吃驚する位何も起こらないわ。
「……ガセか」
そんなに上手く行くもんじゃないわね。
どうしよっかな……恋愛偏差値が低すぎて、見事に何にも浮かばないわ……。
「ガセじゃないよ」
「どわっ!?」
だ、誰よ!!
思わず令嬢らしくない悲鳴をあげちゃったわ!!
「…他国の伯爵令嬢、ドリー・モブニカ嬢だね」
「だ、だ、どなた!?」
「俺はカイジュ・ノロットイ。しがない商人の息子だよ」
「商人……?」
ということは平民ね。
いえ、それ抜きでも目付きの悪い人ね。
銭ゲバの目というのかしら。底意地の悪そうな薄い黄色の目ね……。
まあ……他国に来てまで、家の為に婚活しに来た私も人のことは言えないけれど。
「見てたけど、女神像に祈ったね?」
「な、何よ…ー女神像は祈りを捧げるものでしょ」
もしかして神頼みダッセエって言いたいのかしら。
……やることが分からないから取り合えず祈ってみただけよ!!
他国で、いきなり婚活に放り出された令嬢の心細さを慮りなさいよ。
「恋を愛する女神像だよ?」
「別に金運上昇は願ってないわ!分かってるわよ!」
「見てもらった方が早いかな……。ちょっとこれに手を当ててくれる?」
カイジュと名乗った男子生徒は石板を出した。
え、手ぶらだったわよね?何処から出したの?手品?
「とっても怪しいわ……。これ、知らない間に高額商品を買わされる奴じゃないのかしら?」
商品を押し付けて逃げて後で請求書が送られてくる……故郷でも流行っている詐欺の手口では無いかしら?
まあウチは押し売りに来ても基本畑に居るし、家に誰も居ないから騙されたことは無いわ。
と言うか来られても出すお金は無いわ。
「これは俺んちの家宝の1つだから売れないよ」
「あら、家宝なの……」
家のお宝と書いて家宝……素敵な響きね……。
お祖父様の代に、そういう類のものは一切合切売り払ったらしいから憧れるわ。
平民のお家にもそういうものが有るのね……。
羨ましすぎるわ。
「いいから触るだけだよ」
「ええ……本当にタダ?」
「触るだけはタダだよ……疑り深いなあ」
まあ触るくらいならいいか。
タダなら。
後で何か言って来たら言質は取ったと交渉しましょう。
金銭詐欺に遭った時は、相手が泣くまでやり込めろと母様が言ってたものね。
「……なに!?」
「君のパラメータだ」
何!?板が黒くなった!!文字が……浮かび上がっているわ!!
光ってる!!
……流石家宝ね、何だかよく分からないわ!!
「…ぱらめーたって何かしら」
「君の持ってる技能とか色々かな。見て見たら」
「へえドートリッシュ・ムニエ・モブニカ……あら本名が出てる。
何このスキルって何かしら?」
「君が習得してる技能みたいなもんだよ」
「ええと、風属性……レベル3?回復魔法がレベル2……この守銭奴って何よ!?光ってるわよ!?」
「レベルの高いスキルは光るんだよ。この光り方は……上から三番目の光り方だね」
ひ、酷い……。これだけすっごく赤く光ってる……。
目立つわ。カッコ悪いにも程があるわ……。
ええと他のは……料理はレベル5で運搬スキルは10?筋力7?農業8?酪農23?
あ、短剣スキルが8だわ……何でかしら。刈り入れのお陰かしら?
それに比べて社交スキルは……とっても低いんだけど……。
あ、裁縫スキルはまだマシだわ。刺繍できなくて繕い物だけど。
令嬢っぽいスキルが皆無だわ……。
こ、これでも最低限は学んできたのに……母様にだけど。
「そんなことより、これ。『恋の女神』に注目して」
「まあ素敵そうな名前……。
あれ?名前の横ね。何かスキルとおんなじ所に無いけど?色も変ね」
何でこんな毒々しい色してるのかしら。嫌ね。
女神様のスキルなんだから、もっと可愛らしくあるべきじゃないの?
「呪いだからね」
「……何どぁすと?」
呪い!?何で呪い!?
とんでもない事を初対面で言われたんですけど!?
タイトルは『しもべ系崖っぷち令嬢ドリーと呪いの女神像、銭ゲバを添えて』…とかにしようと思ったんですが、長いので止めました。
あ、ゼニゼロはこの世界の通貨単位です(どうでもいい注釈)




