探し物は近くにあったりする
お読み頂き有難う御座います。ブクマ、ご評価、拍手誠に有難う御座います。
ブライトニアがアローディエンヌの所にまた現れました。
「そんな訳で、鬼ごっこかかくれんぼに決まったのよアロン」
「……私が帰った後に一体何が」
義兄さまに担がれて連れ帰られたってのが正しいんだけど……。
何でそんなことになっているのか意味が分からないわ。
しかも、コレッデモン王国と結構距離が有るらしいのに、伝達早いな。どうなってんの。まさか電話かインターネット的なものでも整備されてるの?それとも未知の魔法的なミラクルかしら……。
引き籠りを止めて久しいけど、さっぱりこの世界のシステムと言うか常識が分からんわ……。
それにしても何で鬼ごっこかかくれんぼなの?
もしかして、争いごとはそれで解決しろとかいう感じの言い伝えか伝説でも有るのかしら……。
怪我人は出そうだけど、死人が出なさそうな感じだから……いいのか?
……出ないわよね?出しちゃ駄目でしょ。……救護班とか待機してるわよね?
……ブライトニアとオルガニックさんはお互いを傷つけないだろうけれど、思わぬ怪我的な万が一のことがあるしなあ。
因みに、ルディ様とティム様を交えたオルガニックさん攻略会議から一日経っているのだけれど、翌朝である今、また窓辺にブライトニアが来てね……。
慌てて引っ張り込んだのよ。
……何時の間にか気が付いたらいるから、本当にこの子、根が野生動物っぽいわ……。
隣の国の皇太子殿下なのに。
今日のファッションは白いモフモフのコートにグレーのフリルが可愛いミニスカートなワンピースに、膝丈の靴下に白いつま先の丸い靴。首には私のあげた臙脂のリボンが巻いてある。
いや、今日も滅茶苦茶可愛いけど。……今日も足ががっつり太腿出てるけど寒くないのかしら。普通に雪がチラついてるのに……。
「あのね、玄関からお入りなさいよブライトニア……。危ないじゃないの」
「あたくし、自分の身位守れるわ。急な事でもちゃんと浮かべてよ」
そりゃ浮いてたのは知ってるけど!!スカートで浮いちゃ駄目だろ!!
下に誰か居たらどうすんのよ!!滅茶苦茶事件発生じゃないの!!
「知っているけれど、見てるこっちが怖いのよ。それにただでさえでも寒いんだから。
後スカートで浮かんじゃ駄目でしょ!?」
「変な事を気にするアロンね。まあ、入ってやってもいいわ」
良くないし見えるっての!!何でブライトニアは露出を厭わないの!?野生だからなの!?皇女なのに!!
此処に居た時からよく寝そべってた、お気に入りの茶色に薄い黄色の房が付いたクッションの上に陣取るのは可愛いんだけど……。
よく観察すると、何気にオルガニックさんカラーを無意識に選んでるのね、この子。
「それで、ブライトニアは昨日何してたの」
「オルガニックに返事を書いてたわ。ちょっと多くなったからってマデルに怒られたけど」
怒られる程手紙書くって何。
一日しか経ってないのに、手紙ってそんなに量産出来るものなの?
「どれだけ書いたの……」
「控えめに19通位かしら」
「………そう、多いのね」
あの3枚くらいへのお返事よね。
余計なお世話だから言わないけど、一体何をそんなに書くことが有るのかしら……。
筆不精の私からするととんでもないな……。意外だわ。そういうチマチマした事嫌いそうなのに。
「手紙なんて普段書かないけど、オルガニックに対してなら幾らでも書けることが判明したの。封を閉じたらどんどん浮かんできて」
ガチで19通なの……19枚じゃなくて。
ドン引かないかな、オルガニックさん……。引きそうよね。私なら引くわ。
そういうの寄越してきそうなのが同じ家に住んでるからなあ。
……義兄さま、聞いてないわよね?やらないわよね?やったらドン引くからね?
「それで、一旦帰ったルディが戻って来て、紫の封蝋とウサギの封印をくれたの。
蝙蝠ウサギじゃなかったけど、見た目の割に案外気が付く奴なのね。褒めてやったわ」
「いや、そういう時はルディ様に素直にありがとうと言いましょうね……」
ブライトニアの立場だったら偉そうにしてもいいんでしょうけど、相手も王位継承権第一位の王子様でいらっしゃるし!しかも年上だし!
あ、封印って何だろなと思ったけど、えっと、手紙用蝋燭の蝋を垂らして、その上に刻印を捺すスタンプの事みたい。
ウサギ柄……お手紙に捺してるの想像すると可愛いな。
「ウサギ柄……ルディ様、案外女子力高いのね」
「オルガニックが動物好きならこういう事に拘っておくのも良かろう。無碍にはすまいって。中々役立つ男ね」
ルディ様ったらオルガニックさんの考えを読み切っているわ……。
あれだけの短いお付き合いなのに、凄いわね……。いや、私がオルガニックさんに其処迄注意深く観察してないだけかもしれないけど。
最初よりは苦手意識が取れたのだけれど……ブライトニアの好きなひとでもあるしねえ。
「お世話になっているんだから、ルディ様にちょいちょい上から目線は止めましょうね……」
「別にルディには何も言われなくてよ。マデルには叱られたけど」
「叱られてるんじゃないの」
「そう言えば、今朝来た臣下の嫁がマデルにこってり叱られてたわ。あの娘も人は悪くないけど、結構アホそうね」
「……臣下?ああ!ルーロ君!?……え、ドートリッシュが怒られてたの!?」
「マナーのやり直しと教本の書き取りですって。
あたくしも巻き添えになりそうで面倒だからアロンの所へ来たのよ。光栄に思いなさい」
えーと、アレか。あの結婚式での騒動でマデル様がドートリッシュにお怒りだった件か。
……個人的には別に気にならなかったのだけれど、マデル様的にはNGだったのかな。
しかし、私も人に誇れるようなマナーではないし……。
「マナー……。私もマデル様に習いに行こうかしら」
「……正気なの?止めてよ、コレから城に行こうと思ってるのに」
「お城?どうして?」
「駄姉を苛めに行こうと思って」
「……ブライトニア」
「一方的な姉妹喧嘩?って言うのかしら。ちゃんと訳が有ってよ」
「……ええと、最初から説明して貰えないかしら」
「ティムから駄姉をいびるのに手を貸せって言われたの。ホラ、何だったかしら。此処の昔の王女がいかがわしい遊蕩に耽っていたせいで、祖父の遺産を盗られたのを取り返したいって言ってたのよ」
「ああ……」
石を返して欲しい、って言われてた……あの変な白昼夢の件を思い出す。
て言うか、何で私リアルで物騒な白昼夢を偶に見るのかしら。イマイチよく分からないわよね。
この頃見て無いからいいんだけれど……何だか気持ち悪いわ。
ブライトニアの恋が叶ったら、自分の事を調べた方が良いのかしら……。
……特に興味が湧かないなあ。
「オルガニックからの返事も未だ来ないし、鬼ごっこだかかくれんぼだかの詳細も未だ来ないもの」
「やっぱり会場はコレッデモン王国になるのかしら」
何処でやるんだろう。
無駄にスケール大きそうだなあ。きっと物が壊れてもよさそうな場所を確保するんでしょうね……。
「アロンも来るのよ」
「……行きたいけど、義兄さまが許すかしら」
一々お伺いを立てるのも面倒っちゃあ面倒だけど、アレでも旦那?嫁?配偶者だしなあ。
流石に反対されそうだからって国外無断外出はちょっと駄目よね。
「許されないような心が狭い馬鹿兄貴は棄て置きなさい。レギが喜んでよ」
「いやだから、そのネタはもう良いわよ……」
本人に何度お断りを差し上げたことか。
て言うかこんなモブに執着するなんて、絶対黒歴史になるから!!若気の至り!!
「悪趣味ね、アロン。どう見ても未だレギの方がマシじゃ無くて?」
「……私にとっては悪趣味じゃないのよ」
「本当に?」
「……ええ、多分」
そんなたじろぐ程見ないで欲しいんだけど。ブライトニアも、深い綺麗な紫色の目よね……。
レギ様もそりゃあ可愛いし、賢くていらっしゃるけれど。
……私は義兄さまを選んだしなあ。
偶に義兄さまの美しさに……目が眩んでウッとなる時もあるしね……。見慣れて聞き慣れてても顔も声もいいからなあ……。
まあ、ちょっと……早まった?選択肢間違ったかな?ってイラッてする事も……トータルでは多いな。
あれ、やっぱり悪趣味なの私?
「暇つぶしにティムに手を貸してやってもいいかと思って」
「ブライトニアはティム様を怨んでいないの?」
「鬱陶しい男では有るけれど、使い道が有る内は相手をしてやってもよくってよ。オルガニックに一番近いのはティムだもの。駄姉はレルミッドが居なければ何の役にも立たないし」
「だから、少しはフォーナに優しくしてあげて」
酷いわ……。ブライトニアの仲では最早フォーナの価値=レルミッド様上乗せ分のみになっている……。
でも意外だったわ。ティム様の事はそんなに嫌いじゃないのね。
利用されていたようなものなのに……。悪役令嬢だけど、案外義兄さまより心が広いのかしら、ブライトニアって。
常に喧嘩売って回る義兄さまと比較するのが間違ってるわね。
「他の駄姉よりは優しくしてやっているでしょ」
「……蝙蝠ウサギ姿で蹴りを入れてたじゃないの」
「あたくしが本気で音波振動乗せて蹴ってたら、惰弱な駄姉は死んでるわ」
マジなの……。
……チートの手加減って聞くに堪えない……。怖すぎるでしょ!!
まあ、そんな訳で……また徒歩で行きたがるブライトニアを宥めすかして馬車に乗せ……デジャヴね。
馬車の座席に座ってるのを見ると、掛け値なしの美少女なんだけどなあ。
膝に置いたコートのモフモフが似合うわ。
「今日はルディ様はおいでなのかしら」
「レルミッドが来るらしいから、絶対いるわね。駄姉も付いて来るらしいわ。くっついたからって同居するなんて忌々しいわね、あの役立たずな駄姉も苛めてやろうかしら」
「フォーナを苛めるのもカリメラを苛めるのも止めて頂戴。て言うか、フォーナはブライトニアを心配して残ってるんじゃないの?」
「頼んで無くてよ。大体あの駄姉にあたくしの世話ができる訳ないじゃない。サッサとあのみすぼらしい神殿に帰ればいいのに」
「いや知らないけど、オルガニックさんの職場でもあるでしょ……」
「ふん、オルガニックの職場に相応しくないみすぼらしさだわ。辞めて良かったんじゃなくて」
「何とも言えないけど、お仕事辞めてしまわれたの……」
オルガニックさんの逃亡へのガチさが、今更ながらにひしひしと伝わって来るわね。
もう少し真摯に伺っていれば、何か変わったのかしら……。
駄目だ、全くアイデアが出て来そうにない。
「それで、カリメラを説得しに行くのよね?えーと、その、石をティム様に返して欲しいって」
でも、記憶を持っている……ってどういう状態なのかしら。
『4つに分けられた王女』ってのも良く分からないし。
あの白昼夢だと……石を取り上げられて、子供を渡されたシーンしか見えなかったし、石の行方は全く分らなかった。
カリメラは『王女』の記憶を持っているって……本当なのかしら。
全くそんな話は聞いてないけど。接点の少なかった私に話すことが無かったと考えると……。
でもどうしてカリメラが『王女』の記憶を持っているって分かったのかしら?
女神に祈った神官の仕業?
……サッパリ分からない。
「ティムが説得を諦めたんだったら力に訴えるしか無いでしょ。だからあたくしを呼んだのよ」
「説得よね?説得なのよね?説得は力に訴えなくていいのよ?」
「でも、一応ティムも殴れる筈なんだけど……まあ、自分の家で女を殴るのが外聞が悪いのかしら」
「何処でも……罪もない女性を殴ってはいけないと思うわ」
「じゃああの駄姉はティムを見棄てた悪行が有るから殴ってもいいんじゃないの。あたくしにオルガニックの件も黙っていた事だし、資格ばかりね」
「そう言われると……」
……全く論破出来ないわね。
許す資格が有るのは、ティム様だけ……。
「ああ、後、犬がガーゴイルに会っているかも知れないわ」
「待って、何その意味分からない会合。どういうこと?ガーゴイルはレッカ様よね?犬飼ってらっしゃったの?」
「昨日マデルの居る大使館にガーゴイルの昔馴染みの犬が来たのよ。公爵夫人らしいわ」
犬は公爵夫人になれないでしょ!!
……いや、待てよ!?
「……獣人なの?」
「リカオンの獣人らしいわ。まあ、それはいいわ。さあ駄姉を叩きのめしに行くわよ。死ぬ前に吐けばいいけど」
「……ブライトニア、手を繋いで行きましょうね」
……オルガニックさんが居ない今、我ながら出来る事が地味に少ないな……。
お迎えの人が滅茶苦茶引いてるし……。
「さあ、あたくしが解決してやってよ!存分に崇めることを許してやるわ!」
「ちょ、ブライトニア、ノック位しましょう!!」
て言うかお迎えの人置いて来ちゃったけど!!
「うっ、ぐすっ!だ、だから……!!その、あんたの提げてるネックレスの石が……この前から怖いって、なんか思って!!」
「……ハア?俺の?提げてる石って……これかよ!?」
「……ほう、面白いくらいに灯台下暗しだな」
「は、はえええ……」
「え、あんだけ引っ張ってたのに、そんなオチ、なんですか……です」
「て言うか私は何故此処に……。重要そうな出来事だけど聞いてていいの!?」
え、何だか解決してるっぽいムードが漂ってるんだけど、何?
中にはルディ様とティム様にレルミッド様とフォーナ。泣きじゃくるカリメラにレッカ様。そして、犬耳帽子のフリフリメイド服っぽい知らない女の子……。
もしかして、この子がリカオンの獣人……リカオンって何か分からないけど犬系の獣人さんで公爵夫人!?
「あはははは……」
「ヒッ!!」
うっ!!それどころじゃない!
……地獄から響くような笑い声が……。発生源はティム様だわ。
……牢獄島に居た時かそれ並みにキレてるように見えるんだけど……。
「やだなあ……それなら最初からそう言えって言うんですよ。こんな近くに?レルミッドが持ってて?分からなかった?コレだけ尋問してやっと言い出した?
……ぶん殴りたい」
「ヒイイイイ!!こっち来ないで!!」
あ、やっぱり解決してないムードっぽい。
……レルミッド様の提げてる石って、えっと、何かの破片っぽい、アレよね?
え、あの石が……その、ティム様のお祖父さまの遺産の石ってこと!?
何という本当に灯台下暗し!!
あ、……ドンドン機嫌と空気が悪化していってる……。
主にティム様とブライトニアの……。
何でブライトニア迄キレてるのよ!!態々来たのに解決したからキレてるの!?
「……ティム、駄姉を殴っても良くってよ。あたくしも殴るわ」
「い、いけません!!いけませんオールちゃん!!ファーレン姉さま!!」
「わ、ワザとじゃ無いのおおおお!!許してええええ!」
「……ふむ、どうするレルミッド。もう一度別の所を毟るか?」
「いや、オッサンが卒倒するだろ……」
「だが、この石結構頑丈に張り付いているぞ。お前から離れればまた玉座が」
「……よしティム、紐ごとやるけど毟った後でな」
「有難う御座います。毟りに行ってくださって結構ですよ、レルミッド」
「いえティム様も落ち着きましょう!!取り敢えず暴力で解決するのはよく有りませんわ!!」
「……アローディエンヌがそういうなら。命拾いしましたね、ファーレン・カリメラ皇女」
「ありがとおおおお!!アローディエンヌ様!!」
……来て良かったのか、来なきゃ良かったのか……。
来て良かったのよね……?全く意味が分からないけど……。
と、取り敢えずカリメラは救えたし……。今は。
「アレキと薄着の皇女だけではなくティムの抑止にもなるのか。アローディエンヌは便利だな」
「は、はあ……?お、お役に立てて光栄ですわ……」
レルミッドのネックレスは、番外編そのろくでストーカー傾向の玉座からルディ君が毟った赤い石の付いた破片です。
肌身離さず付けてないと背後に椅子が現れるアイテムです。




