花冠の思い出
お読み頂き有難う御座います。ブクマ、拍手、ご評価誠に有難う御座います。
ニックとブライトニアの仲の展開がちょっと悲しげなので、早めに投稿してみました。
披露宴の二日後の話になります。
暖炉の中の木がごと、と音を立ててパチパチ燃え広がる音を立てる中、私は目覚めた。
目を擦ろうとして……何だか左手に違和感、と思ったら……親指と薬指に指輪が見える。
しゃりんしゃりん言うのがちょっとマシになったブレスレットも付いてるから、過剰装飾だと思うわ……。
…………何て言うか、あの、ブライトニアが泣いて……オルガニックさんが居なくなった披露宴から一夜………というか、二夜空けたのが今日。
……すみません、正直ひとの事を考えさせて貰えませんでした。
……………あああ!!義姉さまの馬鹿!
因みに元に戻れたわ。戻して貰ったと言うか…………色々まあ、その失ったけどね。ええ。
今日は義兄さまはお仕事で居ない。……漸くっていうか、安寧の時と言うか……。
新聞と、今日は園芸の実用書でも読むかなあ。
あら、窓がガンガン鳴ってるわね。……風でも強いのかしら。
と、思ったら……見た事のあるツインテールがひょこ、と顔を出した!!
「アロン、起きていて?おはよう」
「え!?どうしてブライトニアが此処に!?」
吃驚した!!
何でバルコニーとはいえ、3階の窓辺にブライトニアが居るの!?
慌てて窓を開けたら、朝から容赦ない北風が入って来て寒い!
ブライトニアはドレスでは無くて、可愛いクリーム色のダッフルコートを着ていた。
下から覗くヒラヒラしたワンピースは可愛い。裾は短いけど……。足が綺麗だから引き立つわね。
南の国の子なのに寒さに強いわね。
「入って!寒いでしょう!」
「別に寒くなくてよ」
「手が冷たいわよ!さあ、暖炉の近くに寄って!何であんなところに居たの」
「レルミッドが騒ぎを起こさずに物を壊さずに浮く方法を教えてくれたの」
……ツッコミ所が多すぎるお返事ね。
出来れば玄関から普通に訪ねてきてほしかったけど……少しの間とは言え、此処に居たから構造は知ってるわよね。
手っ取り早い手段が好きな子だからなあ。
「今までは騒ぎを起こして物を壊して浮いてたのね。おはよう、ブライトニア」
「ええ、中々便利な手段ね、レルミッドは義理の兄として使えるわ。駄姉は滅茶苦茶使えないけど」
「朝からレルミッド様への称賛はいいと思うわ、でもフォーナへの悪口は止めてあげて。……どうしたの?」
「ルディがアロンも呼んで来いって。オルガニックを取り返してあたくしに心を寄せて貰えるように一般的な意見が要るだろうって言ったの」
「……オルガニックさん……まだ帰って無いの」
「ええ」
ああ、元気ない。
ツインテールがぺしょっとしたウサ耳に見えるわね……。
元々蝙蝠ウサギ姿は垂れ耳だけど……うっ、気の強い子だから余計に……。でも指摘したら余計凹むわよね。よし、此処は普通に接しよう!
「ええと、ルディ様はどちらに?」
「王城よ」
「そう、分かったわ。直ぐ仕度するわ。馬車で登城させて頂きましょう」
「歩いて行きゃいいじゃないの。あたくし徒歩で来たのよ」
歩き……。この寒い冬の早朝を歩き……健康的だと思うけど。
しかし……何で皇族なのにフットワーク軽いのかしらね。ルディ様とレルミッド様もだけど。
いやまあ、治安も気になるけどお強いからだとは思うけど……何か、思ってた王族皇族とイメージ違うって言うか。
王族らしく護衛に囲まれてらっしゃるのって陛下しか見た事無いな……。おかしいな。
「……馬車でしか行った事も入った事も無いんだけど、そんな友達の家をお訪ねするような気軽いことしちゃ駄目じゃないの?」
「塀乗り越えて入っちゃえば紛れてよ」
「塀を乗り越えちゃ駄目でしょうが!!」
「多少難しい顔されるだけよ。大体移動を馬車で何て軟弱だわ」
「私軟弱だから馬車がいいわ、馬車で行きましょう!!暖炉の前でココアでも飲んで待っていて!!」
「そうなの?まあ、アロンはオルガニックと同じでか弱いものね」
……ルディ様が私をお呼びになった訳が分かった気がするわ。
自分史上滅茶苦茶急いで身なりを整えて、馬車の仕度を急いで貰って……徒歩20分、馬車なら15分の距離の王城へ急いでいる。
今は人通りが多いからもう少しかかるかも知れないわね。
「がたごとするわね」
「馬車だしね。ブライトニアはどうしていたの?」
「本を読んでいたわ」
「……本、読むのね」
こう言っちゃなんだけど、意外だわ。そんな趣味が有ったとは。
「いつもはあんまり読まないけど、色々雄と言うか男と言うか殿方の心の機微を勉強しようと思って」
「……ん?恋愛小説か何か?」
「恋愛なのかしら。大体想いを拗らせた男が、意志の弱い女を物陰に連れ込んで暴言や無体を働いたら何故か両想いだった本が多かったわね」
何 で や !!
馬車の壁で頭打つかと思ったんだけど!
「ほほほ本の中の話はつくりものであって!!て言うか、だだだ誰がそんな本を勧めたの!?」
ああああ!!に、二次元だから!!二次元はファンタジーなのよ!!
結構萌えるシチュエーションでテンプレだけど、異世界でもテンプレ傾向なのかしら!?どっちにしろ言い辛い!
「騎士団の控室に転がってたわ」
「無断でひとさまの控室に入った挙句、本を読んじゃ駄目でしょ!!」
「開いてたのよ。絵が足りないからイマイチ状況が分からなかったわね。何だか黒塗りが多かったわ。何の意味が有るのかしら。塗るなら書かなきゃいいのに」
「それ、普通に成人指定じゃないの!?そんなの読んじゃ駄目でしょ!!」
て言うか今の私の年齢も、成人指定なら見ちゃいかん年齢だけどな!!
何で知ってんのって突っ込まれたらどうしよう!!でも言わない訳には行かないし!!
「だから、本を見せて大体暴言や無体を働いて女を征服したいのが一般的な殿方の希望なの?って聞いたの。其処らに居た騎士……テイトって言ったかしら」
「何と言うえげつない事を聞くの。て言うかその方、テイト・ラフィール様……第三騎士団の隊長様じゃないの!!」
「そしたら、物凄い勢いでそんな事有りません!!お見苦しすぎるものを放置して申し訳ありませんって滅茶苦茶頭下げられて鬼の形相で去って行ったわ。勉強になったけど」
ああああああ!!
……ビックリするぐらいの美少女(しかも皇族)に、いかがわしい本(仮)を掲げられてこれなあに?って聞かれたラフィール隊長様のご心痛が半端ない!!
「結構趣味の本って放置されてたのよね。女より男の方が即物的な内容が多かったわ」
「だからひとさまの部屋に入っちゃ駄目だってば!!」
冷静にいかがわしい本を観察してるブライトニアが怖いわよ!!
「あたくし皇太子の権限は使って無くてよ。大体人に見られたくないものならきちんと整理して保管するのが普通で無くて?」
「そうだけど!!ついウッカリって言うのが!!って言うか、新聞読んで吃驚したわ。何時の間に皇太子になったの!?」
「オルガニックと結婚する為よ。それ以外に権力の使いどころなんて無いわ」
「そ、そう……」
そんなキッパリと断言されるとねえ。悪いけど……お、重いなと思ってしまうわ。
オルガニックさんが逃げ出したい気持ちが、ジワッと分かったかもしれないな。
……似たような状況下なのかしら。私とオルガニックさんて。
「微妙な顔ね、アロン。馬鹿兄貴だってそうでしょ?アイツ、アロンの為にしか動いてなくてよ」
「……そんな所は踏襲しなくていいのよ、ブライトニア」
自分でもやっと自覚したところだし。ああ、義兄さまも面倒くさい。
とか言ってる間に王城に着いた……。
良かった、修復中の所以外は壊れて無いわね……。
「マトモな手段で来たな。てっきり塀でも乗り越えて来るのかと思ったぞ」
ルディ様が何と出迎えて下さった!
あ、今日は王子様ルックだわ!今日も爽やかで素敵ね!
「流石にそれは止めました。ルディ様、お迎え恐悦至極で御座いますわ。ご招待頂き有難う御座います」
「僕の家というか、父上の家でも良かったんだがな。
アレキが煩い位ならいいが破壊しに掛かって来たら迎え撃つが……被害が甚大になるからな、王城にしたんだぞ。修復中だし多少潰れても良かろう」
「……大事に長く使えると良いですわよね」
……ルディ様とお話すると、どうしてかしらこう……。立場を超えて突っ込みたくなるんだけど。
「こっちだ。昼食を用意させた」
ルディ様はひらっと先導無しに歩いて行かれる。き、気安い態度が畏れ多いし有難いけど。
どちらかと言うと、王城の中心より左側……騎士団っぽい建物に近いような気がするんだけど。
何だか廊下に標語みたいな額が一杯飾ってあるわね。
規律正しく、背筋を伸ばせ。
見られている者の自覚を持つべし。
控室は綺麗に使うべし。
私物を放置する者、厳罰に処す……。
うわあ……さっきの話が足されてる気がする……。
ルディ様が案内してくださったのは、小さな会議室のような所で、軽食が並べられていた。
給仕は居なくて、セルフサービスなのがホッとしたわ。
どうも人に全てお任せって、心苦しいのよね。
「…………どうしてオルガニックは、あたくしから逃げるのかしら」
「ふむ、追われると逃げたくなるタチなんだろうな。傍目から見ても喰われそうだったぞ」
「オルガニックを物理的に食べる訳ないでしょ」
う。うーむ、有り得る。この間聞いたのに忘れそうだけど、攻略対象だものね、オルガニックさん。
地味に……攻略難易度高い人なのかもしれないわ。ゲームのシリーズ自体、難易度上がってる可能性有るもんなあ。3も充分難しかったけど。
でもルディ様の仰る通り、捕食者と非捕食者に見えてしまうな、確かに。
薄い茶色の睫毛を伏せたブライトニアは、もむもむとレタスと揚げたタマネギのサンドイッチを食べてるけど、やっぱり元気がない。
「まあ、あれだけ色々剥き出しにして迫られると逃げたくなるのは分かるぞ、薄着の皇女」
「あたくし、オルガニックとはあんまり会えなかったんだから。想いを隠さず伝えなきゃ分からないじゃない」
「伝えるにしても時期と言うものがあるんではないのか。初対面のように見えたぞ」
「蝙蝠ウサギの姿で逢ってたわ。まあ、人型では逢えたのはついこの間ね」
そうだったのか……。
「………良ければだけど、出会いの事とか教えてくれないかしら」
「………」
ブライトニアの紫色の目にはあんまり力がない。
ショボンってした姿がうう、痛ましい。
「そうだな、情報は多いに越したことはない」
「………仕方ないわね。マシな策を思い付かないと承知しないわよ」
「が、頑張るわ」
「善処するぞ」
ブライトニアは、私達が頷くのを見ると、やっと口を開いてくれた。
何でも、ブライトニアは獣人の血が強くて、不安定だったらしい。一日の殆どを蝙蝠ウサギ姿だったんだって。
だから実の姉であるフォーナともあまり会えずに暮らしていたらしい。
他のお姉さんからのちょっかいと言うか、イビりには物理的に対処してたって言うのは、流石って言っていいのかしら………。て言うか、死人に悪口は良くないけどホントに碌でもないのね、お姉さん方は。
「………あたくしがオルガニックと出会ったのは、森のど真ん中よ。駄姉どもがあたくしを馬鹿にしてきたからさんざんに痛め付けたけど、気が晴れなくて、つい抜け出した先にある森の木を音波振動で倒してしまったの」
「…………突っ込み所しか無いんだけど」
「そうか、王族同士の喧嘩なんて普通ではないか?」
「そうね、弱い癖に徒党を組んできたから鬱陶しかったけど」
ルディ様は納得されてるみたいだけど、関係が殺伐としすぎじゃないかしら。
王族の常識、ハードモード過ぎて分からない……。
「そしたらあたくしの方に木が倒れてきて」
「オルガニックさんがブライトニアを救ったの?」
「いえ、当たる前に砕いたわ。その倒木で躓いてたのがオルガニックね」
……どうしましょう、分からないわ。
何処にオルガニックさんに惚れる要素が有るのかしら。
「最初は八つ当たりの道具にしてやろうかしらと思って近づいたの。あたくしを知ってる奴なら悲鳴を上げて逃げるでしょうし、音波振動も今と違って制御できてなかったし」
「そうか、傍迷惑だな」
「あの頃は苛々してしょうがなかったのよ」
「まあ物に当たりたい気持ちは分かるがな」
……何気にルディ様、ブライトニアと意気投合してる……。
………うーむ、これは全然同意出来ないわ……。
「でも平気だったのよオルガニックは。転んで草塗れで擦り剝いてたけど、音波振動の中、普通だったの。あたくし、そんな人初めて見たのよ。結構木が倒れてたから害虫の仕業かと不審がってたみたいだけど」
……だろうな。
いきなり森の木が倒れ捲ってたらそりゃビビると思うわ。
「音波無効か。確かに珍しいな。だがそれがどうした?」
「初めてあたくしが無意識で傷つけない相手がいるんだと思って、感動したの。それが切っ掛けね」
そ、そうなのか。
……魅了無効持ちの私に執着した誰かさんの話にちょっと似てるなあ。
サポートキャラって境遇似たりするのかしら。
「それから、オルガニックがちょくちょくあの森を通る事が判明したの。だからその度待ち伏せてじゃれついてやることにしたのよ」
「そ、そうなの」
………最初はオルガニックさんに興味を持ったのは、気紛れからだったのね。
「だから強いのかと思ったけど、あたくしみたいな小さい体が全力でぶつかってもよろけるし、弱音は吐くし、舐め心地はいいし肌触りはいいし」
「ちょっと待って最後」
情けないエピソードも丸ごと好きになったのねっ!とかいういい感じの話に聞こうと思ったのに!!
「まあ言いたいことは分かるが待て、アローディエンヌ。それで?」
「ある日、オルガニックが森に来たけど花を摘んで花冠を作ってたわ。
前にミーリヤが降らせた赤紫の花よ。噛じってやろうとしたら、止められたわ」
前にミーリヤ様が降らせた花……と言うと、あれかな。赤詰草、だったかしら。
て言うかオルガニックさん、自分をモブだのなんだの謙遜してるけど、立派に攻略対象の行いやってたのね。
思い出してちょっと鼻を啜ったブライトニアの、気の強い垂れ気味の紫の目が、ちょっと滲んでキラキラと光っている。
「駄姉への贈り物なんですって。あたくし吃驚したの。こんな森の花を摘んで贈り物にしようだなんてみみっちい事をするひとがいることに」
「……ちょくちょく酷い言い草に聞こえるんだけど」
「でも、出来上がった不細工な花冠がキラキラして見えたの。単なる草なのに」
「贈り物は草だろうが土だろうが心が籠っていると嬉しいからな」
「その時思ったわ。あたくしの誕生日に、こんな草の汁に手を染めて、草に塗れながら一生懸命に贈り物を作ってくれるひとがいるかしらって。
笑顔のオルガニックにこれを贈られる駄姉が殺してやりたい程羨ましくなったわ」
「ブライトニア………」
「それからちょっと暴走したかもしれないわね。それがオルガニックを追い詰めたかしら」
ちょ、ちょっとと言うか、闇堕ちしかけた目してたけどね。
……でも今は、本当に落ち込んでいる。
「オルガニック・キュリナにあたくしの誕生日を、笑顔で抱きしめながらおめでとうって言って欲しかったの。それが7歳の時からの望み。あたくしの欲しいものなの」
ニックと蝙蝠ウサギ姿のブライトニアは結構長い間、交流してました。
意志疎通を図ったのはつい最近ですが。
拙作の悪役令嬢は純愛傾向です。本当です。




