56.誰の矢印も向き合わないなんて
お読み頂き有難う御座います、評価、ブクマ有難う御座います。
今回人体に物が埋め込まれる表現が御座います。苦手な方は自衛&リターンをお勧めいたします。
地下の湿気のせいか、日頃の運動不足のせいか、スキルを剥がされた影響からか分からないけど、背中が若干痛むわね。
でも、そんなこと言ってる場合じゃないわ。
今、私は、殆ど初対面に近い美少女と美少年に挟まれて、薄暗い廊下を歩いている。
美少年はソーレミタイナ皇太子のフェレギウス様。私のスキルを奪った方にして、何故か3回しか話したことのないモブな私にプロポーズした、13歳にして思い込みの強すぎる方。きっと彼の黒歴史筆頭になると思うわ。
そして、美少女フィオール・ブライトニアは私のペットの蝙蝠羽が生えたウサギ、フロプシーだった。獣人、なのよね?
しかし未だに信じられないわね。この美少女がウサギ?だったなんて。体長が、私の両掌よりちょっと大きいくらいだったのに。
今は私より身長高いのよ………。
何がどうしてそうなってんのか、本当に異世界信じられないわ。
で、そのフロプシー=フィオール・ブライトニアとフェレギウス皇太子は片親違いの姉弟、だそうね。
……………展開が、色々……正直詰め込まれ過ぎだと思うの。混乱するわあ。
で、まあ……フェレギウス皇太子から……色々と…お話を伺いながら移動中。
話がややこしすぎるとは言え、足元に気を付けないとね…。
「大火事の時に…ティム王子は、国に戻っていらしたんですのね」
引き籠ってた上に、義兄さまにえっとその…えー、一緒に家に居た私には分からなかったわね。
……嫌だわ、最近スキル剥がされてから感情と表情が、モロに出るから……ああ、何と言うか!!恥ずかしい!!
「貴女の無事を憂いたニック師匠の意を汲む…フリをした、ティム・ジニー・ドゥッカーノは…秘密裏に国に戻って、『保管庫』を入手しました」
『保管庫』
それは、ロージア………の事よね。
スキルはナマモノ。そして、ナマモノを保管するには、生体の中に……。
拒否反応とか、無いのかしら。
そう言うのを考えなければ理に叶ってるのかしら。分からないけど。
でも、実際保管できているのだから、可能なのよね。考えてみれば、確かに、彼女に相応しいと思う。
ティム王子は目の付け所が有る意味良かったのね。
何でロージアの属性や、スキルを沢山持てることを知ったのかは、分からないけど……。
あの子……努力すればいろんなスキルが所持出来るんだものね。ええ、それこそ義兄さま…いや義姉さまから逃げおおせることが出来るスキルだって!!ってそれメインじゃ無いけど。
裏を返せば、人より沢山スキルを収納できるって事なのね。
……それなのに、空っぽ……。
主人公な上に、選ばれし者っぽいのに、何て宝の持ち腐れなのかしら。
ええ、サボってたからよね。持ってたのは最初からのスキル、『雨の器』とそれこそチンピラみたいなスキルを少々持ってたものね。ロージア。
一体どれだけ他の人のスキルを収納しているのかしら。
「ふんっ、アロンの義理の馬鹿兄貴も詰めが甘いのよ。あの保管庫を、アイツ自身がしっかり炭にしておけば良かったのよ」
「……そうなの、ね」
やっぱり火事の日、義兄さまがあの…残酷な愛に……えーとなんとかの塔でロージアに何かしたのね……。名前がやけに厨二病な……あの、教会の傍の塔、あのバッドエンドの終着点……。
バッドエンドだし、えげつない事をしてそうよね、義兄さま。
あの、何故か見えた中途半端な映像の後は、未だに分からないし義兄さまは、はぐらかしていた。
何が有ったか知ってるのは、義兄さまとロージアだけ。
まあ、私もロージアの事を思い出したくなかったから、繰返し聞かなかった。けれど……確かに、義兄さまだったら色々それこそ残酷にやるだろうなとは思ってたわ。……義兄さまだものねえ。悪役令嬢だしなあ。
でも、殺しては、いえ殺せてはいなかったんだな……。
殺す気で、酷い目に遭わせたとは推測してはいたけれど。
でも、そんな目に遭わされたのに……ロージアはどうして義兄さまを物みたいに欲しいだなんて言うのかしら……。
ただ、それでも義兄さまの見た目のみに執着して……無差別魅了のせいなのか、ロージアがおかしいのか……両方か。
………ロージアの考えが全く分からない。
「ふん、具体的に何をしたか迄は興味無いけどね。」
「僕もティミーに『保管庫』を見せられたのは最近なので、当時どう言う状況だったのか分からないんです」
「あの強欲で悪辣な保管庫の分際で、アロンを傷付けて痛めつけたんですってね。あたくしが完膚なきまでにぶっ飛ばして粉砕してやるから気にしない方がいいわ」
「いやいやいやいや!!今、ロージアはフォーナの中に居るのよ!?」
「?それが何か問題があって?外側が駄姉なだけでしょ」
大有りだよ!!
思考がヤバいなフロプシー…ブライトニア!!
ウサギ?の時からフォーナに当たりが強すぎたけど!!
其処まで嫌うのは何でなのよ!?
「こ、皇太子殿下……」
「れ、レギで結構です。アローディエンヌさん」
「ではレギ様……。ブライトニアはフォーナに特に当たりが強いように思うのですが」
私の問いに、そうですね、とレギ様は困ったように頷いてくださった。
「……フォーナ姉さんとフィオール姉さんは、同じキャス妃を母に持つお生まれの、実姉、なんですけど、仲は……悪いですね」
や、やっぱりか!!
ブライトニア、フォーナと顔似てると思ったんだよ!!
道理で滅茶苦茶可愛い筈だわ……。
……顔は似てるのに、滅茶苦茶似てない姉妹なのね……。雰囲気でここまで変わる?しかも仲が悪いとか……。いや、姉妹で必ずしも仲がいい訳じゃないだろうけど。
「ふん、半分しか繋がって無いわよあんな駄姉。空に飛ばしてやるつもりだったのに、悪運の強い駄姉で苛々するわ」
「まさか、フォーナが出会った当初に浮いてたの……ブライトニアがやったの!?」
「ええ、飛んでけーって。あの頭の空っぽな駄姉にぴったりでしょ」
そ、そんな可愛くコロコロ笑って言う事なの……。ぱあって何かを飛ばすような仕草迄可愛いわね…。
気に入らないからって空に風船みたいに浮かばせて飛ばすって…!?に、義兄さまに何とかして貰った、あの浮かぶ呪いだかなんだかって、ブライトニアの仕業なの!?
……恐ろしすぎる姉妹喧嘩ね。
姉妹喧嘩にしては過剰ではないのかしら……。
だけど、ソーレミタイナの皇族は……どうも、ガチで命を賭けた骨肉の争いをしているようだし、過激が過ぎるのね……。
私は義兄さまがあれだけど、生みの両親もイマイチ覚えてないし、実の兄弟がいたかは分からないからなー。
お家騒動とはあんまり縁がなくて、理解しづらいわね……。
「……と、話が逸れたけど……兎に角、喚く汚らわしい駄姉と、ティムが組んだのよね」
「そのようです。フィルル・ナコと接触した気配は全く無かったので、気付かずに……」
首を傾げながら、フロプシー、じゃない、ブライトニアはペタペタと地面を裸足で歩いている。
時々みしっとかめしって音がするのだけれど……暗いから、彼女の足元で何が起こったのかはよく分からないな。
……石とかを踏んだら本当に粉砕しているのかもしれないわね。
……確か、音波って言ってたけど、凄く強い能力みたい…。
あの神殿に吹き荒れた風といい、……とても強いのね、ブライトニアって。
「一時期あたくしを褒め称えてたけど、一体ティムは何がしたかったのかしら」
「……フィオール姉さんを好きだったようなんですが、聞いてらっしゃらないんですか?」
「はん、あたくしはティムを好きじゃ無いわね。
大体あの男に口説かれた覚えは無いし、仮にそうなら断ったわ。オルガニックがいるあたくしは浮気なんてしなくってよ」
おいおいおいおい、此処でもまたこんがらがるの!?
眩暈がして来たわね。
……人間関係が複雑すぎるわ……。こんがらがり過ぎだと思うのだけれど。
状況を纏めると……兎に角、オルガニックさんが何故かギャルゲ主人公のように、えーと、フィルル皇女、カリメラ、ブライトニア姉妹から好意……いや、過剰気味な愛を向けられている……と。
で、ルディ様の弟ぎみである、ティム王子は、ブライトニアが好き。
……で、僭越ながら何故か私が勝手にその中に組み込まれて……オルガニックさんに萌えられており、皇太子レギ様からプロポーズを受けた……と。
……凄いわ、こんなに人が居るのに、全く誰とも相互関係が発生していない。
一方通行が過ぎるわ。
そして私とフォーナはそれに絶賛巻き込まれ中で、ルディ様とミーリヤ様は実害を受けて…他の関係ない人のスキル迄奪われたとしてるって……所かしら?
……理不尽極まりない……。
「それで、スキル剥がしをティムに貼り付けられたのは、何時なのよ」
「もしかして新聞に載っていたくらいかしら」
「よくご存じで…。そうです、大体1月くらい前です」
あの時は平和だったな……。
ああ、義兄さまに投網でも何でも編んであげれば良かった……。
って、私も相当弱ってるわね。投網なんか編んでどうするんだ。漁業か捕物でも義兄さまに推奨する気なの?正気に戻って私!!
……そうよ、マフラーにしよう、マフラーに。努力してマフラー編めるようになるわ!!……編み物道具、目が揃わなくて結局中途半端に放ってたものね。
……目標レベルが低いなあ。
ってそんなくだらない事をボヤっと思ってる場合じゃ無いわね。
「スキル剥がしと言うのは、何なのですか?」
「……ティムは、『植え込み』と言うスキルを持っているんです」
「『植え込み』とは」
「女性に見せるものでは無いですが、見て頂いた方が分かるかと思います。少し服の袖を開けますね。失礼します」
滅茶苦茶紳士的な13歳だな……。
思い込みが強すぎなければフツーにモテるだろうに、レギ様。キャーキャーワーワー言われ放題だと思うわ。
とまあ、私がくだらない事を考えている間に、レギ様が上着の右腕のボタンを開けて、袖を緩めて……腕を出してくれた。
暗がりとはいえ、私達が歩く廊下には、所々ランプは釣り下がっている。
油は誰かが補充して、保たれているようだった。
だからその下で見せて頂いたのだけれど……。
「……!?」
「あら、布がめり込んでるわ。意外と思ったよりは気持ち悪いわね」
「ぶ、ブライトニア!!デリカシー!!」
「ふんっ、その言葉は初めて聞くけどあたくし愚弟に気なんか使わなくてよ」
おおい!!口が悪いな!!
さっきから直接が過ぎるわ、ブライトニア!
デリカシーが全く無いわね……!!
「いいんです、普通に気持ちが悪いと思いますから。すみません、このようなお見苦しいものを」
「一体どうして……こんなことが!!」
レギ様の褐色の肌に、貼り付くと言うか、埋まっていたのは……
「……携帯……カイロ!?」
「ニック師匠も同じことを言ってましたが、ご存じで?不思議な素材ですよね」
こここここ、この世界に不織布有るのか!?どうやって作ったの!?
そんで何でカイロだよ!?
皮膚の中に埋まってるって……滅茶苦茶ビジュアル的にえぐいんだけど!!
カイロ直貼りして困った人?みたいになってるううううう!!怖いよおおお!!
「こここここ、これ、火傷したりしませんの!?」
「?熱さは全く感じません。厚みのある湿布がめり込んだようですよね」
湿布……そうか、この世界ではそういう認識…でもそれでも怖いよ!!
カイロなのは、見た目だけって事で、カイロとしての機能は無し…それは良かったけど!!
それでも、何をどうしてこんなビジュアルにしたのよ!!えっぐい!!滅茶苦茶えぐいわ!!
うおおおおお恐ろしい!!背筋寒くなって来る!!
「石とか金属より邪魔じゃなくて良かったわね。引っかかるじゃない」
「ええ、確かに……。そちらの方が困りますね」
見識の、と言うか文化の違いいいい!?
だ、誰も分かってくれないこの嘆き!!
いや、そりゃ金属も石も痛そうだけどファンタジーというか、あああ!!
滅茶苦茶今、同意してくれる人が欲しいわ!!贅沢なのは分かってるけど!!
「どうしたのアロン、そんな痛そうな顔をして」
「すみません、不快な物をお見せして」
「レ、レギ様のせいでは……」
「元はと言えば、スキルを整理するために作られたニック師匠の作品なんですけどね。形状はよく分かりませんが……。こんな使い方を思い付くなんて」
えええええ!?
スキル剥がしって、この…カイロみたいなの、作ったのオルガニックさんかよおおおお!!
あの人マジで碌なことしないわね!?何でこのビジュアルなのよ!?凄く寒い日に作ったとかそういう事!?
いや……何にも考えつかないから適当な代物にしちゃえって事?それなら若干分かるけど!!何でこんな…いや、それっぽいビジュアルってどう言うのか分からないけど……。
レギ様お気の毒……。うう、見た目がえぐいよう……。
……居ない人に文句言ってもしょうがないな。
一応、平和利用……で作ったみたいだし。
でもコレ……この形、滅茶苦茶持ち出しやすそうね。どうしてちゃんと管理しなかったのかしら。
……こんな非道な使い方を思いついた、ティム王子がズル賢いんでしょうけど!!
「まあ兎に角、あたくしのオルガニックを救い出して、あの喚いて汚らわしい駄姉とティムと保管庫を粉砕すればいいって事よね。単純よ」
ブライトニアは……力押しで行く気満々みたいだけど……。いや、まあ……それも一つの手ではあるのだけれど。
どうしようこの子、義兄さまより過激派かもしれない……。
「ブライトニア、ルディ様とミーリヤ様をお助けして義兄さま達と合流しなきゃいけないわ」
「か弱いオルガニックを優先したいところだけれど、流石に居場所が分からないものね」
ちょっとは話を聞いてくれるようで良かった……。
フロプシーが心を開いてくれて、仲良くなっていて良かった……。
いや、出会った当初はこんなことになるとは思わなかったけどね。
「……そう言えば、フィオール姉さんは、何故蝙蝠ウサギの姿だったんでしょうか」
「愚問ね愚弟。ちょっと油断したら魔力を中途半端に吸い取られたからよ」
「……はあ!?誰に!?」
て言うか、魔力吸い取られたら……ウサギ?に戻っちゃうのね……。
獣人のメカニズムよく分からない……。
と言うかこの世界自体よく分からないメカニズムで一杯……。
いや、まあ、前世の家電を1から100まで説明しろっていうような物…だとでも思うしか無いな。
滅茶苦茶気になるけど……。
「ティムよ。分不相応にもあたくしを喚き汚い駄姉から救いたいだの御託を並べてたわ」
「ティミーに…。それはフィルル・ナコから救いたいと言う事だったんでしょうか」
「知らないし、救われたくも無いからとっとと逃げたけどね。それからアロンの義理の馬鹿兄貴にぶつかったのよ。あの義理の馬鹿兄貴、本当にアロンと居る時以外は感じが悪すぎるわね」
義兄さまとフロプシー、いやブライトニアは……そんな出会いだったとは。
……感じ悪かったのか。えっと、あの時って確か義兄さまがお城に外出してた時だっけ。
……それだともれなく苛々してるわね。よく燃やされなかったもんだ、ブライトニア……。
「まあ、まだこのクズみたいな牢獄島を粉砕できるほど、魔力は戻って無いけどね」
「いやいやいや、ちょっと!!破壊行為は少し慎みましょう、ブライトニア!!人が一杯居るんだから!!」
「まあ、アロンが言うんじゃ仕方ないわね」
いや、私が言わなくても慎んでくれないかな!?
……何だか、やっぱり……ブライトニアって義兄さまと似たような波長を感じるわねえ。
ひょっとして4の悪役令嬢って、ブライトニアなのかしら……?
いや、うーん、フィルル皇女って感じでも……?
分からないわねえ。
「それで愚弟、オルガニックとルディとミーリヤはこの牢獄島に間違いなく放り込まれてるのよね?」
「僕は彼らから引き剥がされて、神殿にずっと居たので……恐らく」
「気配感知が出来ればいいのだけれど……あたくし、苦手なのよね……。音波をぶつけるのは得意なのだけれど、詳細までは分からないし」
「そ、そうなの……」
蝙蝠の超音波の過激版みたいなもんなのかしらね、ブライトニアの能力って。
物質にぶつけて、距離を計るとかだけど……攻撃機能も付いてます、みたいな。……メッチャ怖いな。と言うか、私の周りってメッチャ怖い能力の人ばっかりよね……。
引き籠ってたら分からなかったことばっかりだわ……。世間って広い……ような、うーん。
しかし、なあ……。会う人会う人結構規格外でショッキングな人ばっかりと言うか……。
まあ、義兄さま以上にショッキングな人も、あんまりいなかったけれどね……。
「すみません、僕も水の中なら分かるんですが……お役に立てなくて」
「……寧ろ私こそが何のお役に立てず申し訳御座いません」
水属性なんだな、レギ様って。回復も出来るし、滅茶苦茶お役立ちだと思うわ。
寧ろ同じ属性なのに桶の水をぐるぐるする位しかできない私って……。
おおモブよ、何をしておるのじゃ情けないって感じよね……。
「アロンはアロンでいいのよ。あの義理の馬鹿兄貴に強気に出る役で」
「ええ……それ、普通に役に立たないし、嫌だわ……」
「何言ってるのよ、アンタ以外にあの義理の馬鹿兄貴を御せる人間はいなくってよ。誇りに思いなさい」
それ、誇りに思うポイントなんだろうか……。
……いや、まあ、多分ブライトニアなりに褒めてくれてるのよね。うん。
「アロンったら、褒めてやったんだから撫でなさいよね!!」
「……いいなあ……」
……この姉弟……。よっぽど人との接触に飢えてたのかしら。欲が無いのか何なのか分からないわね。
いや、連れとしては物凄く頼りになるし、有難いのだけれど……。
兎に角、進むしか無いわね……。
次はルディ君のお供、ニック視点です。
地上に這い出て、義兄さまを目撃するモブとなる予定です。
彼の命が危ないかもしれませんが、作者はハッピーエンドが好きです。本当です。




