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1-5

広い町中で、二人組の人間をただ捜す事は簡単ではない。それも相手が警戒しており、詳しい位置が分かってなければなおさらだ。


 しかし篭もる場所がなく、目的のためにアテもなく動かなければならないとなれば話は別である。更に探索に適した装備があれば尚更だ。


 ウィスタリアが"星"と呼んでいる装備は、正式名称を『プリズミカ』と言い、魔力によって浮遊・移動し、発光機能、撮影と録画機能、所有者の"目"となる機能などが搭載されている。


 いわゆる魔術と機械が融合したモノであるが、これを手持ちの七個活用することで、本体の眼と合わせて8つの視点で捜し物が出来ることになるのだ。

 

 その8つの目の持ち主は、現在メインの眼を光らせながら、町を散策していた。秋口用の少し厚手の服装にショールを巻き付け、スカートにブーツを履いたウィスタリアは、その豊かな表情と相まって本当の美少女のようにも見える。実際、すれ違った男達の多くも、目で追いかけていた。


 そして彼女の方も、彼らを見ている。振り返る男性だけではない、8つの視界で人々を見ていた。それは、探し人を見つけるためだけではない。


 色とりどりの髪や肌に、少し変わった"部分"を持つ人々。大抵はわずかな差異だが、時に長い爪牙や耳鼻に始まり変わった姿を持つヒトを視界に収める。


 "部分"を持つ彼らは、時にその姿を隠し、時にそれを服装によってあえて誇張する。穿ったファッションにも見えるそれは、わずかでもヒトではない亜人の血が表に出ている証だった。


 「・・・・・・何度見ても、見慣れないわね。この光景は」

 

 かつては、彼らが旗印となって自分達を追い回していた。その後ろには大勢のヒト。自らも贄となる危険を背負いながら、彼らはヒトの為に戦っていた。


 今は個人差はあるとはいえ、ヒトと共に日々を安寧に過ごしている。もしかしたら、自分と血を同じくする者の欠片が見つかるかもしれない。かつては同族の痕跡すら見つけられなかったのだけれど。


 「ま、今はお仕事に集中しないとね。折角のボーナスチャンスだし」


 思考を切り替え、ウィスタリアは立ち止まると"星"を加速させる。街路樹に背中を預け、7つの視界に集中する。


 彼女を中心にして一定の距離内で視界は動き、路地裏やビルの窓、建物内に至るまで3次元的に捜索を行い、わずか十数分で一帯の調査が完了する。そして次の地点へと移動し、再び同じ行動を繰り返す。ついでに、気になる店を心のハードディスクに書き加えながら。

 

 そうやって二時間ほどが経過した時、とうとう彼女はターゲットを発見した。二人組で、それぞれ帽子で隠した顔はガオから見せられたものと一致。何より、周囲を警戒しながらも何かを探す姿は、他とは一線を画していた。

 

 「おしっ! まだ誰も手を着けてなさそうね。とりあえずガオに連絡しなきゃ」


 小さくガッツポーズを取ると、"星"の一つを二人組の上空に張り付け、自動で後を追わせる。そして自らは携帯を取り出すと、電話をかけ始める。そして回線が繋がると、挨拶も飛ばして一気にまくし立てた。


 「目標を見つけたわ。アンタのトコに案内用の"星"を送るから、大体の場所を教えて」


 「マジか、やったじゃねぇか。流石は・・・・・・」


 「そう言うのいいから。さっさと居所を言いなさい」


 「えーっとだなぁ、店の中」


 「・・・・・・高い建物の屋上に出て、ジャンプでもしてて。こっちで見つける」

 

 返事も待たずに電話を切り、ウィスタリアは高い視点から動くモノを探す配置に"星"を切り替える。暫くしてガオを見つけると、もう一度電話をかけた。


 「見つけた。すぐ星を送るから」


 「おう。待ってるぜ」


 「アタシは今は戦闘用じゃないけど、"着替える"まで待つ?」


 「俺サマに任しとけ!」


 想定通りの返答に、彼女は電話越しに肩を竦める。そして"星"をあえて光らせることでナビゲートを開始すると、体は自分の部屋へと移動を開始する。


 「それじゃ、後で。なるべく急ぐから」


 相手よりも自分に言い聞かせるようにして、電話を切ると彼女は駆け出す。すでに自室への最短ルートは把握済みだった。


 「まったく、少しぐらい待ちなさいっての。・・・・・・報酬は、山分けなんだからね!」






 少女は自分がねぐらにしている場所に戻ると、その中の一室へと向かう。カーテンから覗く夕陽だけが照明になっているその部屋には、様々な服や装飾品、そして何体かの人形が椅子へと鎮座していた。

 いや、人形と言うには少し違う。なぜなら、その人形たちには胸部がないからだ。背中側からいくつかの細い糸で繋がれた四肢と下腹部、そして虚ろに輝く頭部だけがそこにある。


 「時間ないし、情報もあんまりないし。追加装備はもってかないでいいかな」


 ウィスタリアはそう呟くと、躊躇わず服を脱ぎ始める。胸元をはだけ、ブラのホックを外して豊かな乳房を外気へとさらすと、乱れた着衣で傍の椅子へと腰掛ける。そして両足を開き、手すりをしっかりとつかむ。そして目を閉じ、ぼそりと呟いた。


 「茨よ、我を捕らえよ」


 その言葉に応えるかのように、四肢と頭、そして腰のあたりへと青白い茨の蔦が絡みつく。それによって椅子に縛り付けられると、最後に首がガクリと垂れ下がった。

 

 同時にウィスタリアの両腕の付け根が淡い輝きを帯びる。音もなく腕が茨で宙吊りになる。その次は首が胴から離れた。


 とれた胴体の付け根には、複雑な紋様の魔法陣が描かれている。そこが一際強く明滅すると、ずるりと肌と乳房が落ちた。


 残った中身は中央に緑と紫に明滅する水晶のようなものが設置され、その周囲を覆うようにフレームが配されている。水晶には幾重にも膜のようなものが張ってあり、一枚ごとに複雑な紋様が刻まれている。水晶の中心から光の線が飛び出し、紋様の上を踊った。


 ふわりと胸部だけが中空へと浮かぶ。抜け殻を置き去り、安置された別の人形へと近づく。時計の逆回しのように、先ほどまでと逆の光景が広がると、カラダがつながった。


 「・・・・・・あ・・・・・・あー。ごほん。やっぱ、戦闘用の発声装置は安いから声が悪いなー」


 ゴキゴキと肩を鳴らすように回し、新たなカラダで立ち上がるウィスタリア。むき身の胸部を一度だけ手で触ると、そこらにあった胸パーツを取り付ける。

 先ほどまでと違い、ブラが肉体と一体化したようなそれは、触っても堅くて冷たい戦闘用の増加装甲。付け終わってから一度叩くと、かぁんといい音が響いた。


 「今度お金が入ったら、柔らかくて防御力もあるのにしよっかな。これじゃ抱き止めたら怪我させそうだし、そもそもなんか寂しいし」


 後半の言に本音を滲ませながら、ウィスタリアは手早く用意をすませてゆく。これは今までの日常を過ごすためのボディではない。これから挑むのは、もっとも激しい戦いの時なのだと心の中で言い聞かせながら。


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