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「おう。やっぱ、思った通りだったぜ。流石は俺サマ」
翌日の昼下がり。学園の片隅、人気のない教室の一つで、ガオは得意げにソフトのパッケージをウィスタリアに見せていた。全年齢の逃げ場もない、カンペキにえっちな奴である。
「ふぅん。・・・・・・これ結構えぐいのね。うわぁ」
パッケージの裏を眺めながら、そんな反応をするウィスタリア。それを気にせずに、ガオは説明を続ける。
「事件のあったマンション付近でも聞き込みしたから、間違いねぇ。目立つ外見の二人組だし、特徴も当てはまってる」
「それなら、信憑性はあがったって感じで良さそうね。もう一気にターゲットの位置まで把握したワケ?」
「うーん、それがだなぁ。死臭を辿っていったんだが、見つけたのは部屋の主の死体だけだ」
「なるほど。けど、その情報を売ればいくらかになるんじゃない?」
「そんなモン、はした金だろ。まあ、情報を提供はするが、俺サマ達が獲物を詰められるタイミングに合わせてだな」
「わかった。ま、部屋を出てから一日とちょっとでしょ? 行くアテがないなら、まだこの町の中に居るだろうし、アンタの話にのっかってあげる。こういう人探しは、アタシの"星"が使えそうだし」
そう言いながら、周囲の星を煌めかせて存在をアピールするウィスタリア。しかしその目は未だにガオの持ってきたパッケージに注がれていた。
「にしてもさあ、ヒトっていろんなプレイを考え出すよね。昔の変態にも負けてねーわ」
「・・・・・・昔は昔で、えげつないのが一杯あったんだがな。特に純血系のオトコ共は、ヒトの女性を家畜か実験材料みたいに扱ってた事もある」
いつの間にか部屋の戸口に立ち、そう声をかけてくる少年。その声に気づくと、二人は慌ててパッケージを隠し、居住まいを正した。
「げ、リュウじゃねーか。なんでこんなトコに現れるんだよ」
「・・・・・・次の授業がこの教室だからな。まあ、まだ時間はあるが」
まるで先生を誤魔化す生徒のような状況。例に漏れず、リュウもわかっているからという風に頷いてみせる。
「とりあえず、気を付けろよ。"来訪者"は面倒な事が多いからな」
「オイオイ、なんでテメーがそんな事知ってるんだ」
「数日前、魔素の濃さが突然跳ね上がった事があってね。その一帯を張ってた」
魔素は魔力へと通じ、あらゆる超常現象や<パワー>の礎となる。そんな話をしながら彼は二人に近づくと、隠したモノをサッと取り出し、ちょっと眺めた。
「・・・・・・なるほどなぁ。こいつらが今回発生したワケか。ちゃんと相手の能力とか理解してるのか?」
「ああ、俺サマも随分ハマったからな。バッチリだぜ。お前には教えないけどな!」
「そんな事よりさぁ。他にもリュウみたいに感知してるライバルが居たら、先越されない?」
「ああ、そこはまず大丈夫だろ。俺も"何処で"かはわかっても"何が"発生したかはわからないし。それに魔素の濃度なんて、よっぽど起きた規模が大きくなきゃ、普通は気づかないさ。ただな――」
そこまで言ってからリュウは一拍置き、ついでに手に持った卑猥物を机の上へ置きなおす。
「ただ、ガオ、お前ちょっと目立ちすぎだ。同じように探ってる連中が居たら、お前の反応で感づかれてる可能性はある。実際、俺も跡を辿ってここに来たワケだしな」
「なんだ、授業ってのは嘘か」
「お前等、いくら必要がないとしても、少しは予定表を見てくれよ・・・・・・。あるよ、ちゃんと」
頭を抱えるリュウを余所に、ウィスタリアとガオは目配せをすると勢いよく立ち上がる。そして出口へと向けて駆けだした。
「これは、なるべく急ぐ必要があるって事ね」
「俺サマの努力を無駄には出来ねぇ、さっさと見つけてしまわねーとな」
「おい! コイツはどうするんだよ」
駆け出す二人に、パッケージを持て余したリュウが声をかける。ガオだけがそれに反応し、振り返って親指を立てた。
「おめーに貸してやるよ! オレサマお勧めは、女騎士のCルートだ」
「いや、俺は別に要らないんだが・・・・・・。趣味に合わないし」
そうリュウが返答しても、すでに二人は駆け去った後。残された彼は、教室の長机の上に鎮座するそれを、指でつついた。
「全く・・・・・・あいつの部屋に投げ入れとけばいいのか? こんなモン、持ち歩きたくないんだが」
言いながら何箇所かパッケージを触り、詠唱を唱えるリュウ。すると、パッケージは溶け去るように薄くなってその場から消え去る。
「しかし、いわゆる"剣と魔法のファンタジー"系か。思った以上にヤバいかもしれないな。一応、調べてみるか」