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1話 藤紫の人形少女 OP

 そこは、特殊な性癖を持つ人間には有名だった。勿論、表だっては都市伝説となっているし、簡単に見つけることもできないが。しかし、創作の書物や動画などで我慢できない者・・・・・・その中で自分の衝動・情欲を発散したいと願う者は、その館に辿りつくことになる。もしくは、警察に代表される組織のお世話になるかだ。


 その館は“紅の楽園”とか“欲望の館”、もしくは単純に“人形館”と呼ばれている。古い町並みの中にひっそりとそびえ立ち、周囲を塀で張り巡らされた広い庭では、様々な薔薇を始めとした、赤い植物が飾られている。中心に建つ白亜の館まで取り込んだ赤い花たちは、白い肌に染み出す鮮血のようにも見えた。


 沢山の人々の後ろ暗い欲望を受け止める、純潔の乙女のような白亜の館。今、そこに新たに一人の男が人目を避けるように訪れた。


 陽の陰でもよく光る、獣じみた眼光をした男。彼が館の玄関の扉を開けると、いくつもの人形達が彼を出迎える。服装や大きさなどは多岐あれど、全て少女の姿をしたモノ達は、そこかしこで訪問者を見つめていた。


 「イラッシャイマセ。コチラカラメニューヲオエラビクダサイ」


 そんな中、執事の服装をした人形が、男へと語りかけてくる。男がその姿に気づくと、優雅に一礼してからもう一度同じ台詞を繰り返した。


 人形の手の先には、本のように見せかけたタッチパネルがある。その明かりに誘われるように男が手を伸ばすと、執事の人形は役目を終えたとばかりに直立の姿勢へと戻った。


 男はいくつか示された選択肢から、迷わずに項目を選んでゆく。プレイ内容、年齢、外見、様々なオプション。一番最後に顔が並ぶと、目的の娘がいたのか、男は歪んだ笑みを浮かべた。


 最後の確認が終わると、彼に道を示すように古い洋館に灯りが点る。壁に設置されたランプの中の弱々しい光は、窓もなく数歩先も見えないような暗闇の中では男を誘う鬼火のようにも見えた。


 しかし、もはや男に躊躇いはない。彼は迷いのない足取りで目的地へと歩いてゆく。そんな彼を、小さな少女人形達は表情の変わらぬ顔で見送るのだった。


 「ソレジャア、ゴユックリ・・・・・・。クスクスクス」

 



 いくつかの扉を通り過ぎ、階段を上がり、幾度か道を曲がり、分かれ道の無い一本道を歩く。一つ扉を過ぎる毎に男の息は荒くなり、道を曲がる度に手の震えは増してゆく。悪寒を押さえるように両手を交差して抱きしめても、手は上着を破くほどに震えるばかりだった。


 そして、光は一つの扉の前で止まる。男は体でぶつかるように扉を押し開ける。・・・・・・そこは、館の外観と同じ二色の部屋だった。


 白を基調とした、どこか病室のようにも見える清潔な部屋。そこに、洋館の外にも咲いていた花がそこかしこに飾られている。中心にある部屋の半分以上を占める大きなベッドにも、白い寝具と赤茶色のおもちゃの熊があり、そして何故か多くのプレゼント箱が散乱していた。


 そんなモノに囲まれて、一人の少女がいた。彼女は薄着のままでベッドにぺたりと座り込み、首だけを入り口の男に向けると、人形のような無表情さで口を開いた。


 「・・・・・・いらっしゃいませ。ご予約を承りました、"スノーホワイト"と申します。一時の間、よろしく――――」


 少女はそれ以上喋れなかった。何故なら、飛び込んできた男に押し倒されたからだ。男は左手で彼女の両手首を頭上で押さえ、右手で首を押さえる。それで完全に少女は制圧された。


 部屋の中で、荒い吐息だけが響く。少女は動かない。抵抗も、しない。これからされる運命を全て受け入れるように、ただ自分を組み敷いた男を見つめていた。


 男も動かない。しかし、こちらが動かないのは葛藤していたからではなかった。――――彼は最後の一押しを待っていたのだ。


 男の爪が長く延びてゆく。鋭く、そして硬質に。刃物のようになった爪は、捕らえた少女の首筋と手首を傷つけ、白一色のシーツに紅い染みを作ってゆく。歪んだ笑みの口元からは牙が生え、その表情を覆い隠すかのように獣の剛毛が全身から生えてくる。わずかな時の後、そこには夜の海のような色の毛皮の獣が居た。


 獣は吠える。獲物を前に歓喜を露わにして。それでも少女は静かだった。獣は手を外す。獲物が逃げられるように。それでも彼女は逃げなかった。獣は腕を振りかぶる。獲物の哀願と絶望を感じ取れるように。それでも、彼女はただ彼を見つめていた。


 ・・・・・・一瞬の後、少女の下腹部を獣の爪が突き通す。部屋の赤に、一際鮮やかな血の華が添えられた。





 獣は動かなくなった少女の体を弄んでいた。腹を割り裂き、中に仕舞われていた臓器を噛みちぎり、口の端にぶら下げながら喰らい、撒き散らす。少女の四肢や下半身を爪で荒々しく撫でれば、既に傷だらけだったそこに新たに紅い線が幾筋も刻まれた。


 部屋に入った当初の狂乱は過ぎ去り、獣は満ち足りた表情を見せていた。鼻歌とも唸り声ともつかない声で歌のようなものを口ずさみ、上機嫌で獲物を撫でる。それが未だに少女の中に埋もれていた子宮に至った時、彼女の股からごぼりと白いものがこぼれ落ちた。


 「おいおい、オレサマも随分出しちまったんだな。ご無沙汰だったから、まあ仕方ねーか」


 ぐにぐにと手で圧迫する度、溢れ出てくる行為の残滓。血の一色で無惨に染まり、乾きつつあったシーツに、新たな染みが追加される。それを見て、獣は嗤った。


 「お客様、お時間10分前になりました。延長はどういたしますか?」


 そこに突然、声が響いた。感情のない機械のような声。部屋に入ったときに聞いた、少女の声。獣は、驚きの余り引きつった声を上げた。


 「マジかよ! もう3時間以上経ったのか、ウソだろ!?」


 「そう思うなら、正面の壁時計を見やがりませ。隣の時計はお客様がお壊しになりましたので」


 動かない少女の声に導かれ、時間を認識した男はもう一度悲鳴を上げた。


 「・・・・・・で、どうされますか? 延長料金のみなので、そんなに値段は変わりませんが。最も、これ以上私を“壊す”と、追加料金は発生しますけど」


 「これから用があるんだ、延長はしねぇ。クソ、なら時間一杯楽しんでやろうじゃねぇか」

 そういうと、先ほどまでの満足げな様子は一変し、男は再び獣のように少女の中へと己の欲望を突き込む。


 ・・・・・・最も、先ほどまでが血に飢えた肉食獣だとすれば、今の彼は必死に交尾をせがむ雄犬と言った風情だったが。


 「えー、もう、ホントにすんの? 止めようよー。もう十分アタシを弄んだじゃない」


 「イヤだ、中々これねーんだから、オレサマはギリギリまで楽しむんだ!」


 「お客様みたいなケダモノ相手にすると、精神的に疲れるんですけどー」


 「知るかー! オレサマは客だ、金払った分の元は取る!」


 男がそう絶叫すると、さすがに少女は静かになる。それでも感情が収まらなかったのか、男は腰を動かしながらも爪を少女の顔へ突きつけた。


 「注意してくださいね、お客様。この顔はハイグレードだから、傷つけちゃうと高価<たかい>ですよー」


 「チェッ。なら、もうちょっと反応したらどうなんだよ。ずっと無表情じゃねぇか」


 その言葉に、初めて少女の顔が動く。浮かべた顔は呆れと蔑みが半分ずつくらいだった。


 「だって、アンタは我を忘れたら、どうせこっちの反応なんか見ないじゃん。前は逃げ惑うプレイにしたけど、結局無駄金だったんでしょ?」


 「そうなんだけどよ、今は違うだろ、クソっ」


 情けない顔で腰を動かし続ける男。それを感じて、少女も表情を苦笑に変えた。


 「もー、しょうがない、サービスよ? ・・・・・んっ、あっ、あん・・・・・・」


 突然、恋人のように甘い声を出して男の方へと絡んでゆく少女。急に変わったムードに一瞬戸惑いながらも、今度は尻尾を振る犬の勢いで行為へと走る男。


 一見すれば映画に出てくる恋人のワンシーンだったが、女が体から臓器と血を垂れ流し、男は尻尾を振りながらそれに応えていては、シュールな3流ホラーかスプラッタにしか見えなかった。



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