アーロンの後始末
「やっぱり今回の雨はマヤのお蔭か?」
ダメ領主アーロンが、近隣地域の降雨被害についての報告書を見て呟いた。
「そうですね。私としては今から雨による被害が出ないかとても不安ですよ」
珍しくきちんと仕事をする主に、エミリオは少しの不安と冗談を返す。
「とは言ってもだ。これは凄いだろう……」
「それについては否定はしませんよ」
あの日、マヤが雨神――雨の精霊にお願いしたことは、結果を言えば叶えられた。ただ全く被害がなかったわけではない。河川の一部の決壊による農地への浸水。またエミリオが控えるように警告したにも関わらず、河川に近づき、流されてしまった死者が数名。しかし、デュラン領全体の被害はこれだけであった。
だが、近隣の領地はこれだけの被害ではすまなかった。土砂崩れによる街道の寸断にデュラン領同様に河川の決壊による浸水は街を襲った。街を襲った水は未だ引く様子は見せないでいるという。そしてその影響によって街の衛星状態が著しく悪化し、病人が絶えず、体の弱いものから死にはじめているという。
今回の豪雨による被害はおそらく一部でしかない。これが分かっているのは、比較的年から近い街。さらに離れた地域ならどうなっているか未だに確認が取れていない。まだまだ被害が出ることと、それに関して積み重なるであろう仕事量を考えると、エミリオの頭が痛くなった。
「それで今回の功労者。愛するマヤはどこ?」
「それならエレナと一緒に街の様子を見に行ってますよ」
「なんだそりゃ!何故俺を誘わない!」
「憤慨なさる馬鹿主にこんなものを進呈しましょう」
エミリオが懐から取り出したのは綺麗に畳まれた手紙。
「マヤ様がお出かけになる際、こちらの手紙をお預かりしました」
アーロンはすぐさま手紙を開いて熟読する。
「今日はここにある仕事全部片づけるぞ!」
突然の気合の入りようをみて、エミリオが手紙を預かった時のことを思い出す。
――アーロンがサボりそうになったらこれ見せて。そしたらきっとやる気出すよ。ちょっとはエミリオの苦労背負ったげる。
(本当にこの方はあの人の手の上で踊らされる。ベタ惚れというか馬鹿というか……。まぁそれで仕事が捗るのなら私は構いませんが)