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巫女と野獣  作者: 蔵野茅秋
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雨とマヤ

ちょっとした時間つぶしにどうぞ

 食堂を出たマヤが向かったのは館の二階にある自室だ。そこで正式の巫女服に着替えると、コップを持って外に出る。平坦な場所を見つけると簡易な台おいて祭壇とし、これまた簡易な三方を置き、そこにコップを置いた。そして台を中心に四方に紙垂のついた杭を打ち、神籬を縛る。これで簡易ながらも神域を作り出す。

そして祝詞をあげると、屋敷にいた妖精たちが騒ぎ始め、マヤの近くに寄り始め、「なになに」「ねぇねぇ」「どしたどしたー」等々、色んな事を言いながらさらに集まって来たのだ。

 しかしマヤは妖精たちの言葉は無視し続ける。いつもなら軽口で返事をしてくれる彼女の態度に妖精たちは「なんでなんで?」といい始めた。そして祝詞が終盤に差し掛かりマヤは大きく手を広げ、

 パンッ――――。

 一つ柏手を打った。途端神域の力は強くなり、マヤは願いを込めて叫んだ。、

「お出で下さいませ、雨神様」

 マヤが願うと、コップに入っていら水が一瞬でなくなり、結界の周囲に風が回りだす。周りにいた妖精たちは「わ~」と、ふにゃっとした叫んで風に飛ばされてしまう。妖精たちは至極真面目なのだが、声だけ聴いているふざけているとしか思えない。

 それはともかくとして、妖精を吹き飛ばしていた風がマヤの目前にまとまりだすと、それは一つの形をなした。

「私を呼んだのはぬしか?」

 そこに現れたのは上半身が裸で、腰布しか纏っていない男がいた。

「はい。そうでございます雨神様」

 マヤは畏まり、両膝をつき頭を垂れた。

「よい。そのような態度はせずとも構わない。私はしがない流れものだ」

「そうは言っても神でございます」

「いやいや。そこが間違っておる。確かに神に近くにはいる。しかし私はただの精霊だ。ただ長生きした妖精に過ぎない」

「そうはおっしゃられても、あなた様は長く生きてこられた。私からすればそれだけで十分畏敬にございます」

「そこまで思われても困るのだが……それで何用で私を呼び出した?このように私を呼ぶなぞ何百年ぶりのことか」

 半裸の男――雨の精霊はすこし嬉しそうにマヤに尋ねた。

「はい実は明朝にこの一帯において豪雨が来ると、土地の妖精に教えてもらいました。雨が降るのは構わないのですが、出来ればこの土地から今回の豪雨で死人が出ないようお願いに申し上げます」

「なに?」

 雨の妖精から圧がマヤを襲う。クッと息が一瞬だけ詰まったが、マヤはなお願いを続ける。

「気に障られるのはわかります。雨は自然。それを受け入れなければならない事、人如きが自然を操ろうとするなど烏滸がましいにもほどがあること、それがどれくらい我儘であるのか、それは承知しております。しかしそこを曲げてお願いいたします。私の願いは、この地から死人が出なければどれだけ雨が降ろうと構わない。ただそれだけです。この土地を避けること、雨を降らせないでということではありません。ただ不運な事故以外で今回の雨で死人を出したくないだけでございます。その加減を雨神様にお願いしたいのでございます。どうかどうかお聞き入れ下さい」

 マヤは只々平身低頭で雨の精霊に願った。

「……考えておく」

 それだけ言い残すと、雨の精霊は消えてしまったのだった。



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