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巫女と野獣  作者: 蔵野茅秋
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マヤの世間話

ちょっとした時間潰しにどうぞ

 さて、予定内に公務を終えることが出来ず、マヤに探しに行けなくなったアーロン。彼はマヤが帰宅するまで泣いていた。周囲が引くほど泣いていた。もちろん帰宅したマヤもその様子を見てドン引きした。しかしマヤはため息を一つすると、アーロンの肩に手を置く。

「今日も一日お疲れ様。今日は残念だったけど、公務頑張ったんでしょう?頑張っただからご飯の前にお風呂に一緒に行きましょう。私も一日歩き通しだったから体を綺麗にしてからご飯を食べたいの。ね♪」

 この言葉にアーロンは劇的な反応を見せる。泣き顔をから一瞬にしてキリリとした決め顔に変化し、マヤのことをお姫様抱っこし、お風呂場に連れて行ったのだ。

 この変わり身にはいった本人は驚き、執事エミリオ、メイドエレナはただただ呆れてしまった。

 ちなみにデュラン家のお風呂には館内ではなく、外に建てられた浴室専用の建物が浴室となっている。さらにマヤのわがままにより浴室にはバスタブではなく、扶桑神州のお風呂が設置されている。

 お風呂を終えたアーロンはマヤに色々と慰めてもらったお蔭か、すっかりと機嫌を直している。応接室兼食堂に移動を終えた二人に次々とエレナが給仕を始め、すっかり夕食の準備が整ったところで食事となった。

「今日はよい魚がありましたので、カルパッチョにしてみました」

「お~久しぶりの生の魚だー」

 摩耶は嬉々としてカルパッチョを食べる。当然アーロンも食べているのだが、

「生の魚も美味いが、やはり肉の方がいいな」

 マヤの祖国である扶桑では、生の魚の刺身は一般でもよく食べられているものだが、ここポルペインではそうではない。いくら新鮮なものとはいえ、生で食べれば当たることがある。その為、進んで食べようとするのは一部の金のある美食家くらいしかいない。

「え~なんでそういうかな?ほら食べさせてあげるから残さず食べて」

 クルッと綺麗に巻かれ、フォークに刺された身を口元まで、マヤの手によって運ばれたのだ、アーロンにこれを拒否する理由なぞない。たとえその食材がふぐのような毒物でも、今の彼は拒否することはない。それで死ねば本望であるから。

 パクリと食べると、「やっぱり美味いは美味いんだよな」と、デレッとした顔でこぼした。

 他にも、エレナが腕によりをかけた料理が並び楽しい食事が続く中、エミリオがマヤに話しかける。

「マヤ様。そういえば本日はどのような様子でしたか?」

「そうだね~フラフラ見に行った感じだけどね、特に変わった様子はなかったかな。畑を見ると麦の成長も悪くなさそうだったし……あ、一つ報告があったわ」

「なんでございましょう?」

「明日は朝から雨だと思う」

「それは?」

「街道沿いにある大木があるでしょ。そこの妖精が言ってたわ。『また日が昇る時に激しい雨が来る』ってさ。どの程度の雨かわからないけど」

「さようでございますか。如何なさいます?」

 マヤの話から、エミリオは最終決断をアーロンに託す。結果。

「この時間から対策に回っても無駄だろう。いつ降り出すのかわからん。それにこの暗い中の作業だ、当然灯りに火も使う。間違って麦に火が付けば、それこそ大惨事だろ。そうなるくらいなら、麦が流されないように願うだけ。氾濫しないことだけ願うよ」

「かしこまりました。それでは連絡はしなくてもよろしいですか?」

「いや一応地区長にはしておこう。もしかすると雨が降っているのが上流からなら、水位の確認をしなければいけないからな」

「かしこまりました。すぐに手紙を準備いたします」

 そう言い残すとエミリオは食堂から出ていく。そして外から嘶きが聞こえたと思えば、馬蹄を響かせ、領館から飛び出していった。

「エレナ。悪いが風呂のお湯入れ替えて、温めなおしてくれる?ここの片付けは私がやっておくから」

「とんでもございません奥様。それは私の仕事。どちらもきっちりこなして見せます」

「そう?それじゃあ頼らせてもらうわ」

「はい。是非頼ってください」

 エレナが笑って返すのを見て、思わず苦笑いをしてしまう。ほんとなら私も一緒にやりたいのにというのがマヤの本音だ。

「さて、じゃあアーロン悪いけど私もやることができたから行くわ」

「やること?」

 不思議そうな顔でアーロンが問い直した。

「そ。ちょっとでも被害が少なくなるようにおまじない」

 それだけ言うと、マヤは近くにあった水の入ったコップを持って食堂を出て行ってしまった。

 取り残されたアーロンは寂しいながらも、一人黙々夕食に手を伸ばしていくのだった。


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