メイド エレナ
ちょっとした時間つぶしにどうぞ
「おはようございます」
そう挨拶したのはデュラン家メイドのエレナである。シックなメイド服を身に纏った彼女は少し長い茶色い髪をサイドポニーにまとめている。
その彼女が井戸に朝食の準備をするために水を取りに来たのだが、先客がいたのである。いつもならばこの時間に起きて、この井戸場に来るのはエレナくらいしかいないため、少し驚きながら挨拶した。
「おはようエレナ。朝食の準備かな?いつもおいしいご飯ありがと。きょうのご飯も期待してるからね」
そういう彼女。この辺りでは見ることのない肌色で、その乳白色の肌は肌理が細かく、漆黒の腰まである長い髪のせいかとても神秘的な印象があった。しかし今は井戸場で一糸纏わずに水浴びをし、いつもは見えないところを恥じらうこともせず、惜しげもなく見せつけていた。出るところは出て引っ込んでいるところはきっちりと締まっており、まるで黄金比で作られた身体。濡れている姿は神々しさを感じさせ、そこだけ絵画で切り取られたかのようで、同性にも関わらず見惚れてしまうほどだ。
「ありがとうございます。マヤ様。本日の朝食もよりをかけて作らせていただきます」
突然の光景に動揺しつつも、それを悟られないように言葉を返したのだが、
「とりあえずエレナ。何に驚いたかわかんないけどそこにおいてある汗拭きとってくれない?」
「汗拭き?…タオルでございますね。はい」
どうやら彼女――マヤにはバレていたらしい。だがそんな事気にしてはいられない。エレナはタオルをマヤのとこまで持って行くと、はたと気付く。マヤの体の所々が赤くなっている。そして朝早くからここで水を浴びなけれならぬ事情に思い至り、思わず顔を染めてしまう。
「お身体の方は大丈夫ですか?」
そういった事についての知識は二十も越えた女であるエレナはもちろん知っている。自分が初心なつもりはなかったが、思わず顔に出てしまった。
「あ、ごめんね~変なもん見せちゃったね。大丈夫大丈夫、あの人加減はしてるつもりでもやっぱり力が入っちゃうみたいでね。参った参った」
アハハと笑い、主人との情事を明け透けに話されたことに、エレナはカァっと顔を染め上げてしまった。
(ありゃ…余計に反応させちゃったか)
エレナの視線は無意識のうちにマヤの身体に残ったものを見ていた。その様子にウズウズと悪戯心が出たマヤは、固まってしまっているエレナの肩に手を置き。
「とりあえず昨日は頑張っちゃたからご飯一杯食べるからよろしくね♪」
エレナの耳元て呟くとカプリと耳たぶを甘噛みした。
「――――ッ!!」
突然の衝撃にエレナはビクリと反応すると、へなへなその場に座り込んでしまった。
「アッハッハッハごめん調子に乗りすぎた」
そう言ってマヤは濡れない場所に適当に放り投げておいた長襦袢を着込んだ。拭き取れていない水分で、所々肌に張り付き乳白色の肌が透けている。体を拭いていたタオルは、未だ乾ききっていない髪を器用にまとめ、それを包み込むように頭で巻いてしまった。
「それじゃご飯!よろしくね~」
マヤが逃げるように館の中に入って行った。
(私のほうがお姉さんなのに)
マヤに甘噛みされた耳たぶに手をやり、年上としての尊厳を何とか守ろうとして、エレナはしばらくの間その場で、一人葛藤を続けた。