執事エミリオ
この作品を見ていただきありがとうございます。拙作ではありますが、なんとか完結までもっていきますのでよろしくお願いします。
チチチ、チチチと、外から聞こえる小鳥の囀りで、男は目を覚ました。
「今日はそっちのほうが早起きだったね」
ベットから起き上がった男は、部屋の空気を入れ替えようと窓を開けると、目の前にいた自分より早起きさんに挨拶する。
上半身が半裸のこの男、年のころは二十代の後半、細身ながらがっしりとした肉体。きっちりと鍛え上げていることが見ればわかる。
早起きさんに挨拶を終えると、ベット横に備え付けてあるサイドテーブル置いた、昨夜寝るときに持ってきておいた水差しから盥へ水を移す。軽く顔を洗い布で顔をふく。そして今度は顔をふいた布を水に付け絞ると、寝汗で汚れた上半身を濡らした布で軽く拭いていく。
そうして身だしなみを整えると、部屋の隅にかけてある執事服に袖に通す。
(さて、おそらくまだ寝ているだろうから。馬鹿を起こしに行けばいいとして……朝食はきっとあっちが準備してくれているだろう)
男が自ら信頼を置いている同僚の仕事に期待し、自らはこの館の主のもとへと向かう。
向かった先の部屋からは明らかに未だ目覚めぬ館の主。扉越しでもわかるその大いびきを沈黙させるべく、執事は部屋に入った。
「お・は・よ・う・ご・ざ・い・ま・す!アーロン!」
大声わざと区切った挨拶をしながら入室した執事は顔を顰めた。
(これは…)
顔を顰めた理由は匂い。執事は一直線に窓に行きカーテンと窓を開け放つ。自分の入ってきた扉も開けたままである。空気が流れる導線が出来たことにより、部屋にこもっていた空気が一気に外へと流れていった。
執事はおそらくこの匂いの原因であろうベットの主を見やると、そこにいるのは鋼の肉体をこれでもかとあけすけに見せつけている。
「アーロン!さっさと起きろこの馬鹿領主!」
「んぁ!?ってーな、オイ!もう少し優しく起こせないのか!マヤがいつもと違う感じで俺を慰めてくれてたのに!そしてこれからって時に起こしやがって、俺の息子が千切れたらどうしてくれる!エミリオ!」
「そう思うならもっと大事にしまっとけ、この馬鹿が!こちとら朝からお前のいきりたった見せられて気分が悪いんだ。どうせなら切り落としてしまったほうがよかったと思ってるくらいだ脳筋!」
ギャアギャア言い合いながらも執事――エミリオは全裸糞馬鹿のベットを見た。そこには色々と汗だけではないだろう汚れが見てわかるくらい付着していた。
「アーロン!お前はさっさと湯浴みか水浴びでもしてこい!せっかく卸したてだったシルクのシーツをこんなにしやがって!」
「別にいいだろうそんなもん。どうせ消耗品だ、汚れて当然だろう」
「あーもう!ちょっと気を使った私のミスでした。お前には絶対にシルクなんて使わせない!」
「なんでだよ!」
「すぐに使えなくするだろうが馬鹿!」
エミリオはベットで寝ているアーロンを蹴落とすと、サッとシーツを纏めた。
「いいか。もうすぐエレナが朝食を仕上げてくれるから、それまでにその薄汚れた身体を綺麗にしておけよ!」
「おい!ちょっと待て!」
部屋を出ていくエミリオを追いかけるアーロンだったが、
「お前はこのデュラン領の領主なんだ!素っ裸で部屋を出ようとするな!」
エミリオの容赦ないヤクザキックが、文字通り何も守るもののないアーロンの腹に突き刺さり、変な声をあげひっくり返る。そして扉を勢いよく閉じた。
(全く…もう少し自覚っていうものを持って貰わないと困る。あの方が来られてもう少しまともになられるかと期待していたんですが……)
朝から気疲れしたようにため息をついた。
「とりあえずこれを洗い場に持っていかなければですね…」