薄ら寒い目ざめ
私の人生は、悪習慣の連鎖から成り立っている。
起きてから、眠るまで。そして生まれてから死ぬまで。
ほら、今朝も……
サバは足もとに丸まった薄い上掛けを素足で床に蹴り捨てると、大儀そうに起き上がった。
本部から何度も連絡がきていたようだ、サイドテーブルの上では、昨夜放り投げたフォンが半分落ちかかったままめまぐるしく点滅していて、夜中に着信が相次いだことを知らせていた。いくら放り投げたといってももう少しテーブルのまん中にあったと思うのだが、たぶんバイブのせいでそこまで滑っていったのだろう。
横目で眺めるうちに、それはまた振動を始めた。無視されて怒っているかのような、どこか生き物じみた動きに、サバはしばし目を止めた。振動でさらにテーブルのへりから落ちそうなところをすくい取り、仕方なく、電話に出た。
「誰だ」
かけてきてそれはないだろう、とサバは鼻でふん、と短く息を吹き
「私の他に誰が?」
そう応える。
「昨日はご苦労だった」
お決まりの低い声がまずそう告げた。おはよう、でもない。ねぎらいの言葉には違いないが、それは次のことばにつなげるだけの単なる慣用句だと言わんばかりだった。
「6人とも確認されたよ、見事だったな」
確認、というのはもちろん、心肺停止ではなく、死亡確認のことだ。彼はいつも「死」や「殺」ということばを極力避ける。
「1人はオウンゴールよ、あの馬鹿なチーフが間違えて撃った」
「撃たせたのはお前だろう」
次の仕事の話は、正午にいつもの博物館で。
そう言ってフォンが切れた。
大きくため息をついて、サバはフォンの脇に放り投げてあった煙草のケースを取り上げる。
アメリカの魂、と名付けられた緑色の箱の中には、すでに最後の一本が残っているのみだった。
少しためらったが、煙草を取り出し、一緒に突っ込んであった紙マッチで火をつけた。
箱を握りつぶし、部屋の隅に投げる。あったはずのゴミ箱が見当たらない、と気づいた時にはゴミは壁に当たり、床に転がった。
寒さに起きて電話、そして煙草。
まさに悪習慣の連鎖が今日も、始まろうとしていた。