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最終章 捜索願いと親族

「すいません。お名前とか聞かせて貰っていいですか?」

 と後ろの方から声をかけられた。

「この人、ちょっと可笑しいんじゃないの?変質者?」

 と思って振り向くと『お巡りさん』だった。『終わった』と思った。

「この道路を通った人から通報を受けまして。あと、捜索願いも出てるんですよ」

 きっと、さっきのパトカーだ。巡回じゃ無くて通報されて私のとこに来たみたいだ。


 捜索願いを提出すると、警察は『一般家出人』と『特異家出人』に分類する様だ。『一般家出人』とは普通の家出人(成人)のことを指し、『特異家出人』とは幼児(迷子)、老人(痴呆)など自分の意思で失踪することが考えられない者や、事故に巻き込まれた可能性のある者、または、殺人、誘拐等の事件にまきこまれた者、自殺の可能性(遺書等)が考えられる者を指し、このような状況の場合にのみ、捜索活動が行われる様だ。つまり、人命にかかわる恐れがある場合だけ警察では捜索活動をするということになるらしい。

 そして、『捜索願い』が出ていても、家出人本人の意思に反してまでは保護しない様だ。(『一般家出人』に分類された場合、発見しても未成年者や痴呆老人等じゃないと保護してくれないらしい)


「お名前と住所と伺っても良いですか?」

 こうなったら観念するしか無い。

 聞かれるまま、名前、住所、電話番号、生年月日を言った。

 お巡りさんは無線で何か話している。

「ハイ、確認が取れました。ご家族が迎えに来るそうです。ところで、何時からここにいたんですか?」

「朝の9時に家を出て、お昼の12時頃に医大病院に着いて、夕方の5時くらいまで医大病院にいて、ここに来たのは午後6時くらいです」

「今は午後11時だから……5時間もいたんですか?一人できたんですか?どうやって?」

「車椅子で来ました。スゴク大変でした」

「あと、救急車も来ますから」

 通報してくれた人は私が居眠りをしてる時に前を通ったんだなと思った。


 しばらくして救急車が目の前に止まった。回転灯は点けていたがサイレンは切っていた。

「コレ、乗らなくちゃダメですかね?」

 とお巡りさんに訪ねた。

「通報してくれた人が具合が悪いんじゃないかと思って救急車も呼んでくれたんですよ」

 と明後日あさっての答えが返って来た。(公務員ってヤツは……)

 救急車から救急隊員の人が降りてきた。扉越しに救急車の中がチラっと見えたが色んな機械が並んでいた。

「大丈夫ですか?失礼しますね」

 と言って、パルスオキシメーター(血液中の酸素濃度を計る洗濯バサミみたいな機械)を人差し指に挟んだ。

 これは入院中にも何度か付けられた事があるがこんな単純なモノ(見かけが)で血液中の酸素濃度が計れてしまうのは驚きだ。どういった仕組みになっているのだろう?

「現在、服用している薬はありますか?血圧を下げる薬は服用してませんか?医者にはかかってますか?」

 と聞かれたので、20年前に手術した事、3ヶ月毎に通院してる事、意味の無い薬をとりあえず飲んでる事等を話した。

 受け答えもはっきりしているし、パルスオキシメーターで計った数値も正常だったようで救急車は帰っていった。

 もし具合が悪かったら医大病院に運ばれたのだろうか?その場合『何科』になるのかな?『脳外科』なら私の詳しいカルテがある。


「ご家族の方がこちらに向かっている様ですが、本庁から来るので20分くらいかかりますよ。寒い時はパトカーの中で待っていて下さい」

 と言ってくれた。ちなみに、今の温度は3℃だ。

「あまり寒くないので外で大丈夫です」

 車椅子から車に移るのは結構大変なのとパトカーには前に乗った事があるので(高校生の時にスピード違反か何かで切符を切られた時にパトカーの中で書類とか書いた)辞退したが『フェアレディZ』には乗った事が無かったので乗れば良かったかなと少し後悔した。しかし、実はお巡りさんが寒かったのかも知れない。

 身元確認も取れたし事件でもなさそう(お巡りさんから見て)なので世間話をしていた。


「この車がそうかな?」

 そうこうしてる内に兄と叔父がそれぞれの車で来てくれた。

 伯父が捜索願いを出そうとしたらダメだったので兄に来てもらったみたいだ。


 捜索願いを届出できるのは、刑法では『保護者』『配偶者』『その他の親族』『家出人を現に監護している人』の4種類の人に定めている。そして、民法では『6親等内の血族』『配偶者』『3親等内の姻族』を『親族』として定めるいる。

 したがって、伯父さん(伯母さんの旦那さん)は『4親等の姻族』となり『親族』からは外れてしまうので私の『捜索願い』を出せない事になるが、兄は『2親等の血族』となり『親族』なので私の『捜索願い』を出せる。

 もう十何年も会ってない従兄弟は『親族』で何かと世話をしてくれる伯父さんは『親族』じゃ無い。『法律』ってちょっとヘンだなと思った。


 私は伯父さんの自動車に乗り先に家に帰ったが兄は書類を書かなくてはならないので残った。自動車の後ろの窓から兄がパトカーのボンネットの上で何かの書類を書いているのが見えた。


 今日、車椅子で通って来た道を自動車で帰った。自動車だとスグだった。(苦労した立体交差の橋の段差も怖かった真っ暗な坂も)

 医大病院の前を通ると巨大な建物には明かりが灯っている。まるで夜の海に浮かんでいる軍艦の様に見えた。


おわり

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