(1)
とある田舎町の酒場からは煌々と光が夜に漏れ出していた。豪快で愉しげな声や民族音楽は人々の中にある時間を掻き消し、また実際に時間が進む音も掻き消す。
まるで魔法に掛けられたみたいに愉快な気持ちを残して他の事は忘れてしまう。そんな夢心地のぼんやりした空間から抜け出してきたエルディーが腕時計を確認すると、長針と短針が十二時間ぶりに再開を果たしていた。宴がお開きになるまではもう暫く時間が掛かりそうだ。
壁に寄り掛かってガヤガヤと外にいても聞こえてくる喧騒に意識を向ければ、さっきまで自分がいた場所だというのにそれはどこか遠い世界から聞こえてくるような気になるのだから、全く不思議なものである。
「やあ、待たせてしまったかい?」
何とはなしにそこそこ晴れている夜空を見上げ、今日と明日の境界線で瞬く星々を眺めていると、ふいに声が掛けられた。
白いスーツに香水の香りを纏わせて現れた若い男。まるで社交界から抜け出して来たような容貌の彼はにこりと紳士的な笑みを浮かべた。彼が嵌めたシルクの如き光沢の手袋の上では指輪が星に負けじと何十カラットもの高級な光を輝かせている。
「あんたか?“俺達”に依頼があるってのは」
バサバサと黒い羽を数枚散らして、闇に潜んでいた相棒がエルディーの肩にそっと止まる。鸚鵡ほどの大きさの黒鳥は黒真珠のような澄んだ瞳で訝しそうに男を眇めた。
「僕が後援している組織からの依頼だよ。君達“二人”に是非ともお願いしたいんだ」
「一つ断っておくが、俺達のルールから外れた依頼は受けない。そのルールは知っているか」
鋭い嘴から突き刺すような言葉を発す黒鳥。人語を話す動物は希少だが、予期していたように男は驚いた様子を見せなかった。
「殺しを目的としない。成功、不成功に関わらず一度依頼した人間からの新たな依頼は受けない。依頼料は現金か情報で。だろ?」
「話が早くて助かるねぇ。んで、ご依頼は?」
「どうしても拝借したいものがあるんだよ。」
ここに目的の物と詳細が書いてある。と男はホテルのメモ用紙らしき紙を一枚エルディーへと渡した。
「つまり窃盗ね、了解。支払いはキャッシュ?それとも…って、完璧キャッシュって面だな」
貴族のボンボンという言葉をそのまま絵にしたような風格の彼には聞くまでもなかった。まるでマネキンのように髪から靴までコーディネートされた彼を見てエルディーは思う。しかし彼は意外にも頭を振った。
「いや、情報で支払おう」
金にお困りならチップも付けようか?と嫌みな親切心をひけらかす。
「並の情報じゃ金にならんぞ」
「君達にとってはお釣りがくるくらいの情報だと思うがね?君達を“そんな風”にした人の行方、知りたくはないかい?」
もったいぶった笑みは多分に邪な感情を含んでいる。男のその言葉を聞いた途端、黒鳥の低い声が冷静さを保ちつつ剣呑な物へと変わった。
「…貴様、どこまで知っている」
「さてね。僕は“リトルレディ”が話してくれた事しか知らないよ。とにかく二日後のこの時間にまたここで待っていてくれたまえ。頼んだ物と一緒にね」
半ば押し付けるようにそう言うと、香水の匂いだけ残してひらひらと手を振り、男は街道沿いに歩いてどこかへ消えてしまった。
「いいのか、アイツ泳がせといて」
さっきまでの軽佻浮薄な態度とは打って変わり、真剣な表情のエルディーは黒鳥に尋ねる。
引き止めはしなかったものの、エルディーも彼の言動が引っかかっていたのだ。こんな商売だから必然的に胡散臭い連中とばかり顔を合わす事になるが、その中でも彼は取り分け胡散臭い。決して危険な感じは受けないけれど、それでも何か“ヤバい”気がする。
こういう危機管理への勘は互いに鋭い方なので、黒鳥も恐らく何か感じているだろう。肩に止まったまま渋い顔で考え込んでいた黒鳥はやがて寡黙な口を開く。
「奴はどこかの組織と繋がっているらしい。先ずは依頼品の確保を優先しよう」
「だな」
騒がしい夜更けを背に、“二人”は酒場から離れ静かに裏道へ影を忍ばせた。闇の中へ潜った彼らを置いて、時計と星々は正常に朝へと廻っいくのだった…――
***
ロキケール国―リベイグの街。ロストイパリーベから最も近いギルドがあるこの街で、たった今指名手配犯である例の墓泥棒の身柄を引き渡してきた三人は、漸く自由の途に就いた。
「依頼料も入ったし、何かうまいもんでも食おうぜ!」
依頼を遂行した達成感からボルガは随分と気分が良いようで、燦々と眩しい太陽の光の中を元気いっぱい大股に歩いていく。
結局ギルドに着いても目を回していた墓泥棒を担いで尚疲れを見せぬ彼の体力には、ヒーロを自称するだけの事はある。
「あ~がっつり肉食いてぇな~」
「いいね、お肉にしよっか。メージュもお腹空いたでしょ?」
「あ、いえ私は……ラテ様のお好きな物でしたら何でも構いません……」
メージュ――もとい二人によって呪いを解かれたシャンエリゼ・メージュラグナは、晴れて“死鏡”という任から解放され廃墟からの脱出に成功した。
しかし、シャンエリゼはラテの部下というまたしても誰かの従者となる道を選んだのだった。
せっかく自由の身になれたのに、敢えてこのような選択を下したのは、ラテへの恩義は元より、一人で知らない世界で暮らす事への不安があったからだ。
物心着いた頃には墓守としての仕事を任され、気付けばずっと一人きり。外の世界に出たとして、誰も頼る者などいないのだ。
それに一番障害になっているのは、シャンエリゼが魔術師に生まれついてしまった事――。
幸か不幸か自分の事を知る者がいないので、すぐには他人に知れる事はない。しかし夜に暗い道を歩けば目で見分けられるし、最近は少しでも怪しい所があれば役所人がやって来るというではないか。
一生上手くやり通せる自信などなかった。一人で恐怖に怯えるのだって、とっくに限界を越えていた。もう一人にはなりたくない……。それに、あのままラテを一人で行かせたくもなかった。命の恩人から“あんな話”を聞けば、尚更だ。
そういう意味で、ある程度の必然性を持ってシャンエリゼは旅への同行を決意している。
不安はあれど迷いは無く、今はただ誰かとこうして一緒にいられるだけで、シャンエリゼは幸せだった。
「遠慮すんなって! みんなで頑張ったんだから、みんなで食おうぜ!」
子供のような無邪気な笑顔で、ボルガは一歩下がって付いてくるシャエリゼの手を引いた。
「さぁて、どこかにレストランは~……」
キョロキョロと通りを見渡して、手頃な食事処を探していた時だった。
「食い逃げよ―!捕まえて―!」
突然、坂の上から大声が転がってきた。
声のした方を振り向くと、エプロン姿の少女に追われている、食い逃げ犯と思しき男がこちらに向かって駆けてくるではないか。
「どけどけどけぇええええええ!!!」
「二人は下がってろ」
声にいち早く反応したのはボルガ。
くるりと体を反転させると、小型ナイフを振り回しながら突進してくる男の前に立ち塞がった。
男が腹に突き刺そうとしたナイフを避け際に片手で叩き落とし、手首を掴んで腕ごと捻り上げる。さらに俯せに押し倒して、男を拘束し関節を決めるまでの一連の動作は流れるように鮮やかだった。
「イデッ、イデデデデデ!」
「食い逃げなんて最低だ! 料理を作った人に感謝しない奴は、俺が許さねぇ!」
一喝したところで、華麗な逮捕劇に、わぁああと周囲から拍手が沸き起こる。
「やったね、ボルガ!」
「おう!ヒーローとして悪い奴は見逃せねぇからな」
食い逃げ犯も諦めて抵抗をやめた頃、杏色の髪を揺らして息を切らせた少女と、そのさらに後ろから警官がやっと追いついてきた。
取り押さえられた食い逃げ犯に向けて警官が条文を読む声は、息が上がっているせいで途切れ途切れである。新米警官なのか手錠を掛ける動作も覚束無い。
「いや~君のおかげで助かったよ~。今先輩達みんな別件でいなくて、僕一人で犯人逃がしちゃったらどうしようかと。本当にありがとう!」
そう言ってボルガに握手を求め、ボルガが快く応じると、誠実そうだがまだまだ頼りなげな警官は食い逃げ犯を連行していった。
「あのっ、ありがとうございます! 何とお礼を言っていいやら…」
今度は乱れたエプロンドレスの少女が頭を下げる。
「いいって、いいって! 犯人捕まってよかったな!」
「はい。……あの、宜しければお礼にうちの店でご馳走させて頂けませんか? お連れの方々もご一緒にどうでしょう?」
「ワタシ達もいいの?」
「はい、是非」
「実は飯食う店探してたとこなんだよ。ほんとにご馳走になっていいのか?」
「勿論です! では早速ご案内致しますね」
思いがけないところからの嬉しい提案。いやはや良い事はするものである。一行は義理に厚い少女のおかげで、無事昼食にありつける事になった。
***
「ライスおかわり! それとハンバーグ追加で」
「はい、ただいまお持ちします!」
「美味しいね、このお店。でもこんな美味しいご飯、ご馳走してもらって良かったの?」
「えぇ、店長からも手厚く御礼するようにと言付けられましたから」
口々に振る舞われた料理を絶賛する一同を嬉しそうに眺めながら、慣れた手付きでボルガが次々空にしていく容器を少女は器用に腕の上に重ねていく。厨房とテーブルとを沢山の皿を抱えて行ったりきたりしている様は働き者という言葉がぴったりである。
明るく愛想もよくて、楽しそうに仕事をする少女の接客態度はまさに完璧。外見からはまだ十歳そこそこに見えるのだが、大人顔負けの働きっぷりだ。
「なぁ、飯食い終わったらどこ行くんだ?」
ラテの向かいで特大サイズのハンバーグに感動していたボルガが急に尋ねる。
「ん~……ひとまずお役所に行って聞き込みかなぁ。とにかく課題のヒントになりそうな事をかき集めないと」
「そういや次の課題って何だっけ?」
「『聖なる杯で歌姫の生誕を祝え』だって」
「――それって、ベヴェル・アクアの事ですか?」
「えっ?」
チョコレートパフェとストロベリーパイを持ってきた少女が、ふと耳にした言葉に反応を示す。
「ベヴェルの事じゃないんですか?この辺では歌姫って言ったら、彼女くらいだから」
「その人のこと、詳しく教えてもらえる?」
「えぇ、いいですけど……? ベヴェルはジェボール教会のシスターで、彼女の歌には不思議な治癒力があったと聞きます。だけどもう何年も前に亡くなっていますよ?」
「それ気になるなぁ……」
「役所より先に教会に行ってみようぜ」
「うん。ジェボール教会にはここからどうやって行けばいいのかな?」
「宜しければご案内しましょうか? 徒歩でもすぐ着きますし」
「だけどアナタは仕事があるんじゃ?」
「今日はもう店仕舞いするんで、勝手に帰っていいって店長が」
先程の一件で店側も事情聴取などに突き合わされる羽目になり、今日の営業はやむなく終了という事らしい。
「どうせ暇ですから遠慮なさらず。サービスさせて下さい」
「じゃあ、お言葉に甘えて。よろしくお願いします」
そしてせっかくなので、出発はデザートを美味しく頂いた後に。
***
少女の言う通り、店から教会までは随分と近い所にあった。傾斜の多いこの街の中でも一番高所にある海の見渡せる小高い丘の上。小さいながら歴史を感じさせる堂々たる佇まいで、協会は街全体に綺麗鐘の音を響かせていた。
白や薄いピンクなどの花を付けた低木に囲まれ青々した芝生が潮風にさわさわと揺れる空間は、こうして立っているだけで安らぎを与えてくれる。そんなつもりで来たのでは無いが、これはいい観光になった。 礼拝堂らしき建物を通り過ぎ、別の建物の角を曲がると修道服を着た女性の後ろ姿が目に入る。
「シスター!」
道中、少女が親しい間柄にあるのだと言っていた女性が彼女なのだろうか。少女は張りのある大きな声でシスターに呼びかけ、すぐに、あ…と口を噤んだ。
建物の影になってよく見えなかったが、シスターのすぐ後ろには二人の警官がおり、どこか元気が無い様子のシスターと何やら話し込んでいた。
「あらベヴェル、お帰りなさい」
ぞろぞろとラテ達を連れて歩く少女にシスターが気付く。
一応用が済んだらしい警官達は
「ではまた」
と、場の空気を読んで去っていき、それを見送ってからシスターは歩み寄る少女を清らかな笑顔で出迎えた。
「後ろの方達はお祈りにいらっしゃったの?」
順々にラテ達の顔を眺めつつ尋ねる。
「違うの。この人達はベヴェル・アクアについて知りたいんだって」
「そう。私もそれ程詳しい訳じゃないんだけど……立ち話もなんだし、どうぞこちらにいらっしゃって」
シスターに促され、少女がこっちですと案内してくれた部屋には三人掛けのソファーが一つと、一人掛けのが二つ。
部屋の広さに対して大きく部屋を窮屈にしているそれは座り心地もそんなに良くはないものの、青一色に染まった質素なカバーが白塗りの壁にはマッチしていて海の見える教会らしかった。
少女は気を利かせてお茶汲みに立ったので(本当によく働く少女である)三人とシスターだけが腰を下ろす。
早速ラテは問題の人物に関する話を切り出そうと思ったが、一つ引っかかった事を先に聞いてみる事にした。
「あの、さっきベヴェルって……?ベヴェルさんはお亡くなりになられたんじゃ?」
「はい。ベヴェル・アクアは既に亡くなっておりますわ。あの子はベヴェル・ジ・アクア。私が名付けました」
「Di……二番目」
二番目のベヴェル、という意味か。
「実は、あの子はここに来る前の記憶が無いのです……。三年前、この近くの山へ木の実を取りに行った私が、偶然倒れているあの子を見つけて教会に連れてきました」
不審に眉を潜めるラテに、シスターは更に言葉を継ぐ。
「自分の名前も歳も、両親の顔も思い出せないようなんです。どうして記憶喪失になったのかお医者様も原因がわからないと……。今はあの通りすっかり元気ですけれど、私が見つけた時は全身を火傷したようなひどい状態だったんですよ。お医者様にも、強いアレルギーショックを起していたという事しか分からなくて。暫らくしたら自然に治ってくれたんで良かったんですが、やっぱり記憶は戻りませんでした……。だから何か思い出すまで、教会で預かる事にしたんです。あの子も初めは戸惑っていましたが、教会での生活にも慣れたようで、ミサにも参加するようになりました。そこで、彼女は歌がとても上手だという事に気付いたんです」
「だから歌姫の名前を?」
「はい」
シスターが小さく頷くのに被ってドアがノックされる。
「お待たせしました~」
ポットとティーカップを持って、よもや自分が話題にされていたなどとは知る由もない少女が戻ってきた。
「コーヒーお持ちしました。お砂糖とミルクはお好きな数どうぞ」
気まずさから、皆気安く声を掛けられずにいた。てきぱきと給仕をする姿からはシスターが言うような事情を抱えているなんて想像も付かなかったが、妙に甲斐甲斐しく働いているのは居場所を失うまいと思っての事なのかもしれない。
聡い少女の事だ。少なくともここが仮の住まいにしかならない事は分かっているだろう。
その場にいる皆の少女に対する見方が変わったが、しかしだからと言って何をしてやれる訳でもない。明るく気立ての良い少女の人柄は好きだったし、とても親切にしてもらった手前力になってやりたかったが、自分達の立場や力ではどうしようも無かった。
そっと聞かなかった事にして、ラテは本題に入る。
「私達はとある調査でこちらに伺いました。『聖なる杯で歌姫の生誕を祝え』。この言葉にお心当たりはありませんか?」
少女が丁寧に煎れてくれたコーヒーを有り難く頂戴しつつ、ラテは話を本題へと移す。
「ご存知ありませんか…?」
躊躇うような苦しんでいるような深刻な表情で黙るシスターにやんわりと返答を促すと、居心地悪そうにシスターは口を開いた。
「いえ……その言葉だけ聞いた限りでは、ベヴェル・アクアの事だと思います……。もうベヴェルから聞いているかもしれませんが、彼女の歌には人々の怪我や病気を治す力があり、生前彼女が大切にしていた杯も大切に礼拝堂の奥に保管されていました。ですが……」
ここでもシスター悲痛な面持ちで言い澱み、深く息を吐いた。
「何かあったんですか?」
「ええ……。それが、昨晩泥棒に入られてしまいまして、杯が盗まれてしまったのです」
「はあ!? 盗まれた……って、え、じゃあさっき来てたお巡りさんは」
ぱっちりした目をさらに大きく開いて、ベヴェルは頓狂な声を出した。
「どういう事なの!?」
と、シスターに詰め寄る。
シスターが言うには、昨晩礼拝堂の巡回をした時には確かにあった筈の聖杯が、今日気付いたら影も形も無かったという事だった。
「この街の人間は今でもベヴェルに対して尊敬と感謝の気持ちを忘れていないので、まさか盗まれるだなんて思ってもみませんでした……」
「犯人の目星はついているんですか?」
「いいえ。全く……。もしかすると熱心なベヴェルの信者が、行き過ぎた行動に出てしまったのかもしれません」
「あの……、ちなみに聖杯はどのような物だったのでしょうか?」
分かり易く怒りに震えるボルガを宥める役をこなしていたシャンエリゼが、恐る恐るといった風に、肩を窄めながら口を挟む。
「誰かに鑑定してもらった訳ではないので正確な値は分からないのですけれど、教会に伝わっている話によればエクアレ王室からの贈答品らしいです」
「絶対ただの物取りよ! たとえそれがパチもんだったとしても、ベヴェルが使ってたっていう文化的価値だけで高値で売れるもの。ったく教会に盗みに入ろうだなんて、いい根性してんじゃない!」
「もうベヴェルったら……。滅多な事を言っては駄目よ」
「だけど……っ!」
「後は警察の方にお任せしましょう? きっと神が聖女の杯を取り戻して下さいます」
シスターが宥めるも、納得のいかない少女は歯痒そうに拳を握り締めている。せめて朝バイトに出発する前に自分が気付いていればと思うと余計に悔しくなった。
「こういう訳ですので、残念ですが聖杯はお見せする事が出来ないんです。お役に立てず申し訳ありません」
「いえ、わたし達こそ大変な時にお邪魔しちゃってすみませんでした」
「これからどうされるんですか?」
「まだ宿泊先が決まってないので、まずは宿探しを。聖杯を自分の目で確かめるまではこの街にいるつもりなので」
「もし宜しければ教会にお泊めする事も出来ますが如何されますか? 私たち修道女が使っているのと同じ空き部屋なのですが……」
「いいんですか?」
「えぇ。古くて狭いのがお嫌でなければどうぞ」
「じゃあ……」
ボルガとシャンエリゼが「あぁ」「はい」と頷くのを待って、ラテは「ご厄介になります」とシスターに頭を下げた。
「荷物置かせてもらったら警察署に行ってきます」
「だったらあたしも! あたしも連れてって下さい!」
「えっ?」
「窃盗犯を捕まえたいんです!」
真剣な瞳で迫る少女にどうしようかとラテが二人に目配せすると、
「いいじゃん。犯人捕まえたいんだろ。なら俺と一緒だ」
とボルガはあっさり同行を許し、シャンエリゼも慎み深く
「私はラテ様のご意志を尊重致します」
と結論を委ねた。
「ん~……まあそうだねぇ」
暫しの間を置き
「うん、いっか」
とラテが承諾すると、ガッツポーズを決めた少女は、
「では早速お部屋へ」
と燃える瞳でお荷物をお持ちするのだった。