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小話集

拍手や活動報告に載せていた小話をまとめたものです。

 

<ある日の二人>


 「ひな!」

 「あ、芝崎くん」


移動教室で廊下を歩いていた時、向こうから芝崎くんが何人かのクラスメイトと一緒に来るのが見えた。付き合い始めたばかりの彼氏、なんだけど、どんな顔していいのか分からず、つい視線を逸らしてしまう。目のやり場に困って、芝崎くんの隣に立っていた背の高いガッチリした子の方を向いた。


 ん? なんか、見たことあるなあ。


 「今から、美術?」

 「うん、そう」

 「そっかー。どんなん描いたか、今度見せてな」


 コク、と頷いて小さく手を振る。あまり長いこと立ち話してると、女子の皆さんの視線が怖いのだ。優しげに自分を見つめる彼氏な芝崎くんにも、まだ慣れない。嬉しくてたまらないのに、同じくらい恥ずかしくてしょうがない。


 「いこっか、花ちゃん」

 「もういいの?」


 ちょっと離れた場所で待っててくれた花ちゃんに駆け寄って、芝崎くんの隣にいた子の名前を聞いてみた。


 「ああ、あいつも男バスだよ。よく芝崎とつるんでるから、顔知ってたんじゃないの?」

 「そうかも。名前、なんだっけ?」


 その時、花ちゃんはとっても悪そうな笑みを浮かべた。


 「七瀬だよ」

 「ふうん」



 その日の放課後。


 「今、帰り?」

 「うん。芝崎くんは今から、部活?」


 自転車置き場の近くで、芝崎くんと七瀬くんにまたもや遭遇。


 「そう。送ってきたいけど、ゴメンな。気を付けて帰れよ」

 「分かった。頑張ってね」

 「さよなら、橘さん」


 隣の男子もにこやかに挨拶してくれた。フレンドリーな態度に嬉しくなる。流石、芝崎くんのお友達。いい人だなあ。


 「ばいばい、七瀬くん」


 軽く手を振って、呆然と立ち尽くす芝崎くんには気づかず、私はそのまま帰った。




 ~その後~


 「だから、身に覚えがねーんだって!!」

 「じゃあ、なんでひながてめえの下の名前を呼ぶんだよ!!」


 体育館の隅でもめるデカイ男2人を、花はニヤニヤ見物した。


 付き合ってしばらく経つのに苗字でしか呼んでくれない、としょぼくれていた芝崎に喝を入れてあげたのよ、と一人ごちる。


 男バスのセンターは、泉 七瀬という名前。

 苗字みたいな名前だよね、とみんなで話したことがあったのだ。


 「八つ当たり、やめろよな」

 「余裕かよ!」

 「だから、違うって!!」


 二人が監督に怒鳴られるまで、あと三秒。






<似た者同士>



 すったもんだありつつも、ホワイトデーから付き合うことになった私と田中くん。なかなか本音を見せてくれない彼に、戸惑うことはしょっちゅうある。


 例えば今日も。


 「おはよう、田中くん」

 「ん? ああ、おはよ」


 いつもだったら、そのままくだらない雑談を一緒にしてくれる田中くんが、やけにそっけない。フイ、と視線を逸らして、手に持ってた文庫本に視線を戻してしまう。


 「前に言ってた、ミステリーのやつ?」


 まだ登校してきてないひなこの席に腰かけて、そう尋ねてみる。


 「……あれはもう読んだよ」

 「…………」


 話が続かない。


 あれ? 私、何か悪いことしちゃった?


 もともと感情を露わにするタイプじゃない田中くん。でも私にだけは、いつもストレートにいろいろ言ってくれてたのに。冷たい彼の横顔を見つめながらしょんぼりしていると、低めの美声が後ろからかかった。


 「おはよ、関川。ここ、ひなの席だぞ」

 「いいよ、涼くん。せっかく花ちゃんが田中くんとおしゃべりしてたんだから」


 「あー、はいはい。すみませんね」


 力が入らない膝をなんとか伸ばして立ち上がった。……嫌われたんだったら、どうしよう。


 「この間は、どうもな」

 「なにが?」

 「しらばっくれんなって。七瀬のことだよ」

 「ああ、良かったね。ひなにやっと名前で呼んでもらえることになって」


 私がしらっとそう言ってやると、芝崎は端正な顔に悪そうな笑みを浮かべた。


 「ほんと、感謝してるよ。俺もお返しに、田中に教えといてやったから。

  関川の好みのタイプは、自分よりバスケの上手いヤツだって」


 「――はあっ!?」


 それは中学時代の、私の断り文句だった。バスケやってる男子には「私より、頭のいい子が好き」と言って告白を断ってたけど。

 どこで聞きつけたのか知らないけど、やってくれたじゃん!!

 私は急ぎ足で、田中くんの席に戻った。


 「今は違うからね!!」


 はっきりとした声で否定すると、田中くんはようやく顔を上げてくれた。


 「なに、急に」

 「私が今好きなのは!!」


 クラスの中が一瞬シーンと静まりかえる。

 私はサーッと青ざめた。

 ……しまった。


 芝崎とひなこの方を見ると。

 ひなこはワクワクした顔でこっちを見つめてるし、芝崎は噴き出す寸前だ。


 「じゃあ、これもう読まなくてもいい?」


 田中くんは、微かに笑みを浮かべ、読んでた本のカバーを外した。

 <初心者にも分かるバスケの基礎>


 「……ばか」


 私の小さい声に、田中くんの笑みはますます深くなった。




~おまけ~


 「ねえ、ひな。芝崎の元カノの話、聞きたくない?」

 「っ!! おまえっ!! それは反則だろ!!」

 「うるさいなー。私にあんな恥かかせといて、ただで済むと思ってたわけ?」

 「はあ? 元はといえばお前が!」


 賑やか過ぎる昼食タイム。

 静かに食べたいひなと田中がキレるまで、あと3秒。






<エイプリルフール小話>


(ヒナ視点)


「今度の火曜日なんてどう? 空いてる?」


春休み。

学校で会えなくなった涼くんから、久しぶりに電話がかかってきた。

のんびり家で過ごしている私と違って、バスケ部の練習で忙しい彼とは終業式以来会えていない。


ちょうど電話してみようかな、と思ってたところだったので、嬉しくて堪らなくなる。

「多分大丈夫、待ってね」と弾む声で返事をして、手元のスケジュール帳を一枚めくった。


――あれ。来週の火曜日って4/1だよ?


「うんと……空いてる、けど」

「ん? どした?」


ただただ優しい低音が携帯の向こうから聞こえてくる。


「いいよ。何時に待ち合わせしよっか」

「じゃ、駅前のでかい時計のとこに10時でどう?」

「分かった。じゃあ、おやすみなさい」


明るく挨拶をし、通話を終了したものの、私は途方に暮れていた。


我が家のルールでは、エイプリルフールには盛大な嘘をつく日になっている。

嘘をついてもいい日、ではない。

つかなくちゃダメな日、だ。

元来嘘とか策略が苦手な私は、これまでずっと騙される側ばかりに立っていた。


涼くんちも、そうだとしたら……。


デート自体がウソ?

待ち合わせ場所がウソ?

それとも、時間が……?


ぐるぐる考え出したら止まらなくなる。


ちょっとだけ泣きたくなった。

よりにもよって、4/1を指定してきた涼くんに。



*******

(涼視点)



携帯をベッドに放り投げ、小さくガッツポーズを決めた。


電話越しの愛らしいひなの声に、会いたい気持ちが止まらなくなる。


春休みは部活ばっかで、全く休みがなかった。

ようやく一日だけ休養日がもらえた。

先輩たちが抜けた穴を埋めなきゃいけないのは、ちゃんと分かってる。

でもせっかくの春休み。

その日に彼女と遊びに出かけたって、バチは当たらないだろう。


ヒナが見たいと言っていた映画の上映時刻もチェック済み。

誰かと待ち合わせするのがこんなに楽しみだなんて、初めてかもしれない。



その日は、目覚まし時計で叩き起こされる前に目が覚めた。

まだ早いな、と携帯の時計を睨みつつ、ソファーに座ってバスケ雑誌に視線を走らせてみる。記事の内容は、何一つ入っていかない。


しょうがない。ちょっと早めに出ますか。


玄関でスニーカーに足を突っ込んでるところに、兄貴が二階から降りてきた。


「なに、今日は部活じゃねえの?」

「ああ、違う」

「んじゃ、デートか。今度はどんな子?」


興味津々といった兄貴の顔を見て、げんなりした。


「人聞き悪いこと言うなよな」

「……なんだよ、ついに本命か?」

「いいだろ、どうでも!」


図星を言い当てられて、恥ずかしくなる。

「頑張れよ~」という冷やかしの声を背に、玄関を出た。


駅前についたのは、9時を回ったところだった。

流石に早過ぎた。

どっかのコーヒーショップで時間潰すか。


踵を返そうとしたところで、何かが視界に映り込んだ。

ん? 

気になって振り返ってみると、大時計の前のベンチにちょこんと座っているヒナが見えた。

長袖の白いシャツワンピースが、清楚な雰囲気の彼女にすげえ似合ってる。

……じゃなくて!!

まだ、9時10分、だよな?


慌てて彼女のところまで走って行く。


「ごめん!」


とりあえず、謝ってみた。

約束は10時だった気がするけど、違ったのか?


困惑した気持ちのまま頭を下げると、ヒナはふわり、と嬉しそうな笑みを浮かべた。

まっすぐに俺を見つめて、「良かった! 時間の方だった!」と謎めいたセリフを口にする。


どういう意味だろう。

首を捻った俺だったが、次のヒナの言葉で何もかもがふっとんでいった。


「本当のことを言うと、ずっと会えなくて淋しかったんだ。でも今日会えて、すごく嬉しい! 誘ってくれてありがとう」


……可愛すぎるだろ!!


「うん。まあ、俺も会いたかったし」


そっと手を出すと、ヒナは一瞬戸惑った後、ぎゅっと握り返してくれた。

その日がエイプリルフールだったことを知ったのは、映画を見た後のこと。


「え……じゃあ8時から待ってたってこと?」

「うん、だって、本当は何時か分かんなかったから」


彼女との約束を取り付ける前には、カレンダーをしっかり確認しよう。

そう心に決めた。



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