最終話 Act.25 機械天使と機械達...
狙いを定めようとしたチハルだったが、そこにジルマール型ロボットこと、パダ2が襲い掛かってきた。
「はいキャッチっ!」
腕を振り上げてチハルに迫ったパダ2だったが、近づく前にハルトが後ろから腕を回し、パダ2の腰をがっちりと掴んだ。そしてそのまま後ろに反り返り、バックドロップの体勢でパダ2の頭を地面に叩きつける。完全に首までコンクリートにめり込み、パダ2は情けなく突っ伏した。
次にパダ3とパダ4が二人がかりでチハルに襲い掛かってくる。チハルはライフルの弾を1カートリッジ分撃ち込んだが、ジルマール型のロボットの回転する腕によって弾が弾かれた。その回転する腕をパダ3はチハルに向かって振り下ろしてくる。
[バズンッ バズンッ]
そこに、チハルの後方から重い銃声が聞こえた。瞬時にパダ3の足の下のコンクリートが弾け飛ぶ。バランスを崩して前のめりにパダ3は倒れると、両手を突いた。
[バズンッ]
その脳天をリクスの弾が捉えた。鉄甲弾は頭頂部から入り、背中の真ん中から突き抜ける。パダ3は力なく腕を曲げ、地面に顔をつけて立ち上がる事は無かった。
[ガガガガガガ…]
カートリッジを取り替えて銃を撃つチハルだが、パダ4はまたもや微細動を繰り返す腕で弾き返す。
抱きつくようにチハルを捕らえようとしたパダ4だったが、その腕の中にチハルはいなかった。
チハルは目に追えない速さで飛び上がり、パダ4の両肩に手を付き、倒立をしていた。右肩に左手を付き、左肩に右手を付いていたチハルは、そのまま背中側に倒れこむ。そしてその途中、パダ4の首に後ろから手を回し、背負い投げのような姿勢で体重を全てその一点にかけた。
[バキッ]
へし折れる音がした後、パダ4は後ろ向きに数歩進むと仰向けに倒れた。
「おそらくパダットはここの駐屯兵ロボットを操ろうとしたんだろうが、出来なかったんだ。それで地下にいた試作ロボットを起動させて戦わせたんだろうが、ジルマール型以外は戦闘に適さないロボットが多い。一掃するぞっ! ハルト!」
「あいよっ!」
事実はチハルの予想した通りだった。経験を殆ど積んでいないロボット達は、まさに烏合の衆。愚直にチハルを照準に捕らえようとするが、狙いが定まったときには体に穴を幾つも開けられている。人間や、学習をしてずる賢くなったロボットなら、劣勢を感じてすぐに逃げ出しただろうが、ここにいたロボットは最後の一体まで健気に命令を完遂しようとしていた。
「パダットは?」
「いねぇ! また逃げやがった!」
チハル達以外動くものが無くなった時、屋根の上からパダットの姿も消えていた。
「今度は逃がさないぞ。あいつを放っておいたら大変な事になる! 今回は良くわかった! リクスっ! 来てくれ!」
殆ど地下に主要システムを置き、建物らしい建物がないこの基地。チハルはリクスと、パダットが先ほど立っていたここでの一番高い屋根の上にあがる。
「見えるか?」
「ちょっと待ってね。この基地の周りは全て荒野だから……今なら……」
両眼スコープですべての方角をぐるっと見回していたリクスだったが、西を向いて動きを止めた。
「いた。西北西に距離1.5km。薄べったい乗り物に乗って進んでいる」
「それだっ! 届くか?」
「楽勝だよ。スタンディングのままでも十分」
リクスは、持っていた銃に背中のカバンから取り出した第三ユニットをつなげた。長さ3mにもなった銃を肩にかついだまま、一目散に逃げている老人型ロボットに狙いを定める。
[バズンッ バズンッ]
二発の銃声の後、リクスはスコープから顔を離し、それを銃から取り外すとチハルに渡した。チハルが両眼スコープで覗くとすぐに、荒野に横たわる一人の男を見つけた。
スコープが自動で男を拡大する。男は顔の半分しか表皮が無く、そしてその人相は間違いなくパダットであり、頭と胸を打ち抜かれていた。
「さすがだな」
チハルは銃を分解しているリクスにスコープを返す。そして、屋根から飛び降りるとハルトの耳元で何か囁いた。
「そうかぁ! パダットの野郎ついに死んだかぁ。人に迷惑掛け捲ってあのジジィ。当然の報いだぜ!」
ハルトは、せいせいすると言った感じで、無駄に大声を張り上げて喜んだ。
「そうだな。奴のせいで何体ものロボットが犠牲になった。しかし、パダットを世に送り出したのはここの管理施設だ。因果なものだな」
チハルも感慨深いのか、いつもよりも興奮気味で言っていた。そこに屋根からリクスが下りてきて二人に落ち着いた様子で言う。
「まっ、旅の目的を達成したのなら、ローグタウンにでも戻って休憩しようよ。弾薬の補充と、ハルトのバイクも作り直さないとね」
「リクス、ローグタウンまで俺もバギーカーに乗れるか?」
「まあ……狭くていいのなら後部座席に…」
「最悪、縄をつけて引きずっていけばいい」
「そりゃないよぅ、チハルぅ……」
三人は笑顔でゲートへ向かう。そして、エンジン音がすると、バギーカーに乗って南へ走り去った。
「…………」
誰もいなくなったかに思えた管理施設。そこで横に倒れたドラム缶から頭を出し、キョロキョロと周囲を伺う男がいた。
「完璧だの。まったくわしは天才だの。ロボット達を使って攻撃すると見せかけ、全てわしが逃げるための作戦だとはさすがのチハルも気がつかんかったの。この施設の兵士達があの管理者とか言う男にしか操れんかったのは計算外だったが、わしにそっくりのロボットを地下で見つけて身代わりにさせたのは自分でも惚れ惚れする考えだったの。もうわしが死んだと思ったから、これ以上チハル達に追われる事も無いの」
「顔も汚して表皮を半分程剥ぎ、確かにそっくりだったな」
「まあ、わしのほうがニヒルだったがの。シシシ…。……ん?」
パダットは右のこめかみに硬いものが当たっている事に気が付いた。ゆっくりと目だけを動かしてそちらを見る。
「…………ひっ! チ…チハルっ!」
チハルはドラム缶の横に立ち、上から見下ろしながら右手に持った銃をパダットの頭に押し付けていた。パダットと目が合うと、白い歯を見せる。
「こーんな所に隠れていたのかよ。爺さん」
反対側からパダットを覗き込んでいるハルトは、パダットが入っているドラム缶を踏んづけるようにして、動かないように押さえている。
「お前が何の工夫もなしに、あんな目立つ所を馬鹿みたいに一直線に逃げているのが不審だったからな。それとなくパダットと同型のロボットを数えてみると、3体しか倒れていなかった。地下にあったのは4体だ。一体足りない」
「それで、帰った振りしてみたって訳。完璧な演技だっただろ?」
「ハルト。お前の大根っぷりにひやひやさせられたがな……」
「よく言うぜ! チハルだって似たようなもんだったじゃねーかよぉ」
エンジン音が戻ってくると、ゲートにリクスが姿を現した。
「……さすがのわしも、もう終わりかの?」
パダットは大きなため息を付くと、ドラム缶の中でガックリとうなだれた。
「ミハイルはどうしたんだ? この施設の管理者だ。監禁でもしたのか?」
「いや違うの。たぶんそいつはわしがプラズマ銃で蒸発させた奴だの」
「…………そうか。残念だ。ミハイルにはまだやってもらう事があったと言うのに。……ところで、お前はどうやってこの施設の事を知ったんだ? 巧みにカモフラージュされて見つけにくかったはずだが?」
「それは、チハル達の後をつけたんだの。チハル達はわしを追っていると思っていたようだが、わしは回りこんで後ろを走っていた。北には昔、わしの組織を壊滅させ、ジルマールの組織を半壊させた奴らがいるから、チハル達を先に遣って様子を見ようとしたんだの。どうだ、天才だの?」
「ミハイルはお前の位置が分かっているはずだった。しかし、お前に気が付かず、お前がいると彼が言っていた場所にはおまえはいなかった。どう言う事だ?」
「強い電波を出す装置の事だの? それはローグタウンで偶然気が付いたんだの。なぜかジルマールや参謀のヒュードム、そしてこのわしみたいな個性のあるロボットにしか付いてないのが気になったんだの。あれは嫌な予感がして荒野の真ん中で捨てたんだの」
「なるほどな。ミハイルは不幸な事に、管理しているロボットが予想以上の知恵をつけてしまっていたことに気が付かなかったのか」
「シシシ……悪知恵は大得意だのっ!」
パダットは、いつものいやらしい笑いをすると、顔を上げて着ている白衣の胸をはだけた。そこには金属製の弁当箱のような物が幾つも取り付けてあった。
「シシシ。これは爆弾と言う物だのっ! 一つでビル一つを吹っ飛ばすの! これだけあれば、この施設を全て吹き飛ばすことも可能だの! わしを撃って弾丸がこれにあたったら、みんな大変な事になるのっ!」
パダットはチハルに離れろというようなジェスチャーをし、ドラム缶から体を出す。
「地下で発見したこれを、念には念を入れて持ってきて良かったの。さあ、お前ら離れるんだ…………の?」
立ち上がったパダットの前で、チハルは銃を逆に持ち、銃の先端を両手で握って左足を上げて構えていた。
―ブンッ! ―
[ガキィ――――ン]
打ち上げられた…………パダットの頭は、倉庫の屋根に当たると、跳ね返り転がって戻ってきた。
パダットは倒れている自分の体を見ると、チハルの靴の底を見ながら口を開く。
「最終回かの?」
「そうだ」
[グシャッ!]
チハルは靴の下でばらばらになった金属片からコアチップを見つけ、それを銃で打ち抜いた。
数日後、バギーカーより一回り大きい、オフロードタイプのオープンカーにのって荒野を西に走る三人がいた。
運転席にはミドルコートを着た男、助手席にはツナギを着てマントを羽織った女、後部座席にはロングダウンジャケットを着た大男が座っている。
「高い山に登ったら見えるんじゃねーの?」
「何言っているんだ。地球は丸いんだよ。極端な話し、裏側にあったら見えないよ」
「宇宙か。楽しみだな。その長いエレベーターに乗せてくれるといいが……」
「リクスはともかく、俺達は人間なんだから乗せて連れて行ってくれるって! 同じ人間がいる宇宙へさ」
「しかし……結局ミハイルが死んだため、私達は本当に人間なのか調べる事が出来なかった……」
「それも調べるための宇宙だって! 自動エレベーター楽しみだよなぁ」
「……『軌道』エレベーターだって。なんだよ自動エレベーターって……。エレベーターが手動だったら困るよ。手で巻き上げるのかい?」
「ぷっ! あはは! ハルトなら出来そうだな!」
「おう! チハルのためならやるぜ! 生身の人間だからってチハルが宇宙でいじめられても、俺が守ってやる! 俺は役に立つぜ!」
「そうか。是非荷物持ちは頼む」
「はは……。順の時間と逆の時間がぶつかるまであと1200年。それまでにハルトの思いが通じればいいけどね」
「てめぇ! 恋愛がなんたるかもしらねーくせにっ! このロボットちゃんめっ!」
「お前もロボットじゃないか」
「違うってチハル! 俺は人間! えーっと……。ブレーンバスターとか言う人間の脳みそをそのままチップにコピーしてだな……」
「おい! もう日が暮れかかっているぞ! お前ら早く街を見つけるんだ! 今日こそ屋根のあるところで寝るぞ! シャワーも作れ!」
「あいよ!」
「りょうかーい」
土煙を上げて走る三人の前に、大きな町が見えてきた。
そこでの物語はまたの機会に……。
To Bee Continued




