Act.24 待ち伏せされたチハル...
荒野の真ん中。何も目印が無い場所でチハル達三人は、10mほど離れてそれぞれ歩いていた。チハルの手には銀色に光る15cm四方の板のような物がある。
「おかしいな。間違いはないはずだが」
「壊れてんじゃねーの? それかやっぱりあのおっさんに騙されたかぁ?」
チハルの持つ道具には、その中央に点滅している点が見える。
「しかし、僕達を欺いてここに連れてきたとして、彼になんのメリットがあるんだい?」
リクスは周りを見渡してみるが、石と土、地平線しかありはしなかった。
「……仕方ない。一度戻ろう。パダットが見つからなかった件は置いておいて、私とハルトを調べる装置が出来ているだろうし」
チハルはリクスとバギーに乗り込み、ハルトはバイクに跨った。
「無駄な片道10時間。これから夜通し運転かよ……ん?」
地に着いたハルトの足に何かが当たった。下を見ると、茶色の土の上に指の先ほどの金属片が落ちている。ハルトは気にもせず、それを踏み潰して地面に埋めると、チハル達のバギーを追った。
チハル達はまた500km近くを10時間ほどかけて戻る。しかし、最初に訪れた時とは違い、ミハイルから渡された地図パットを見ながら戻るので、一直線に最短距離を走れる。
それでも、管理者の基地の反応が間近に表示されたのは予想通り朝方だった。
チハル達の前に、朝焼けで染まる地平線と共に基地が見えてきた。
「おかしいぞ」
「なにがぁ?」
チハルの横をバイクで走っていたハルトは聞き返したが、リクスの方はバギーのスピードを緩めた。
「なぜ基地が目視できるんだ」
「…………そう言えば……」
ハルトもようやく気がついた。基地は外からは見えないように光学カモフラージュがされており、それは10時間前にチハル達が南へパダットを探しに行く時も機能していた。しかし、今はその様子が全く無く、数キロ先まで晒されている。
「俺達が迷わないように、見つけやすくしてくれているんじゃねーの?」
「確かに、僕の位置は分かるはずだから、近づいてきたのを察知して解除してくれたとも考えられるかな?」
リクスが助手席に座っているチハルにそう言っても、チハルは表情を緩めない。
「私達は道具を使い、迷うことなく真っ直ぐに基地へ向かっている。それなのに、地平線の先ほどの距離からそんな事をする必要があるだろうか?」
「……ちょっと待ってね」
リクスは両眼スコープを取り出して基地の方向を覗く。
「一応……門の前には誰もいない。塀があるから中は見えないけど……」
スコープを顔につけながらリクスは首を傾げる。すると、ハルトはバイクのエンジンを吹かしながら、バギーカーを追い越して振り返る。
「じゃっ! 今度こそ俺が偵察してくるぜ! チハル達はそこで止まって待ってな!」
チハル達のバギーはゲートの手前100mの位置に停車した。ハルトのバイクは門に向かって土煙を上げながら接近する。そして、ハルトがゲート手前50mを切った時、塀と塀の間、ゲートがあった場所から一台の鉄の塊が顔を出した。
「ハルトっ!」
チハルが叫ぶ。
その鉄の塊についている長細い砲はハルトへと向き、その後ろにはチハルとリクスのバギーカーがあった。ハルトは振り返ると、その射線を確認する。
「避けるんだハルト!」
チハルにそう指示されても、ハルトのバイクは横にハンドルを切ることなく、真っ直ぐにその戦車のような機動兵器へ向かって走る。
[バシュッ]
直径20cmの砲が火を吹くようにプラズマを発射した。ライフルや銃とは比べ物にならない質量の青い光がハルトに向かって放出された。
「うぉぉ! 電磁シールドっ!」
ハルトは両手を前に突き出し、そのプラズマを受け止める。勢いでハルトの体は後ろに押されると同時に、乗っているバイクは前部から融解していく。
「いてっ!」
5mほど吹っ飛ばされてハルトは背を地面につけたが、プラズマは空へと跳ね返されて消えた。乗っていたバイクは一つのネジも残さず蒸発していた。
「大丈夫かハルト! しかし……どういうことだミハイル!」
ハルトのそばへバギーカーがドリフトを決めて止まる。そこからチハルが銃を持って飛び降り、リクスもすぐにライフルを組み立てる。
「固まっていると狙われるぞ!」
チハルの声で三人は散開した。すぐに戦車は第二波の攻撃を仕掛けてきたが、チハルは悠々とそれを背面飛びでかわした。
その間にハルトは戦車のすぐ前にまで走り寄っており、厚い装甲へ向けて左手を振りかぶっていた。
「旧型のくせに出力だけはあるじゃねーかぁ」
青く光り輝く左手を、まるで砂山を相手にするような感じで突き刺した。そのまま掌全体でえぐるように戦車の装甲を横に引き裂いていく。そんなハルトに、主砲の上部にある木の枝くらいの細い副砲の一つが狙いをつける。
「ハルトチョォォップ!」
それに気が付いたハルトは飛び上がり、掌を縦にして手刀でその砲を切り取った。
「ハルトチョップ ハルトチョップ ハルトチョップぅ!」
そして主砲を脇に抱えたまま、副砲をすべて切断し、最後に真ん中にある太い主砲をも根元から切り取った。
「いっちょあがりぃ!」
何も出来なくなった戦車だったが、最後にハルトはおまけとばかりにひっくり返して裏返しにした。
チハルはその戦車を盾にして銃を構える。用心していたチハルだったが、中からの攻撃は精細を欠くものだった。
倉庫のそばに人影が見え、距離は30m程なのに、一向に相手のプラズマ弾が当たる気配がない。ひどいものはチハルの横、10m離れた地点に着弾していた。
「昨日と全く違う。なんだこれは?」
チハルは困惑しつつも、狙いを定めて銃を数発撃った。見事に集弾されたその攻撃で、相手の一人が倒れる。
「何かおかしい。しかし、攻撃してくる者は容赦なく沈黙させる。行くぞハルト!」
チハルは左、ハルトは右から飛び出した。チハルがいた場所はリクスが代わって陣取った。
[ガガガガガガガガ]
チハルが牽制とばかりにアサルトライフルを横に掃射する。身を壁の影に隠したつもりの敵だったが、援護射撃をしているリクスが、ほんの数センチ見えている体を的確に撃ち抜く。
「チハルっ! こいつら昨日の奴らと違うぞっ!」
ハルトの方は、倉庫の壁ごと敵の体を右の掌で掴み取った。
それは、銃以外何も身につけてない男で、軍服を着ていた昨日の兵士達と違う。それに、ここを守っていた兵士達は、全て同じ顔をした同型のロボットだったと言うのに、ハルトが蹴散らしているロボットは様々な顔をしていた。
「まさか……管理センターが賊に襲われたのかっ? しかし、この程度の奴らに?」
「チハルっ! 上だ!」
体に穴を開けられた敵を飛び越えたチハルに、倉庫の上から大きな何かが降ってきた。
[ドォ――――――ン]
そいつはチハルがいた場所のコンクリートを、重ねた拳で叩き割っていた。チハルは地面を転がると、すぐに手を突いて宙返りをするように立ち上がってその敵に銃を向ける。
「こっ……こいつはっ! ……ジ…ジルマール! ……と言う事は…」
チハルに向かって攻撃を仕掛けてきたそいつは、身長が2mある巨漢、ジルマールそっくりの男だった。
「チハル! あそこを見ろ! 昨日の兵士達だ!」
ハルトが指差す方向に、ここに駐留している兵士達が、昨日と全く同じ場所に整列して立っていた。
チハル達にもジルマールそっくりな男にも銃を向ける気配が無く、完全に静止している。
「攻撃してきているのは、昨日地下にいたロボット達…なのか? だけなのか? なぜ…」
「いけぇ! パダ2、そしてパダ3、も一つパダ4! 敵を倒すんだのっ!」
聞きなじんだ声が聞こえ、チハルは話すのをやめてそちらを向く。二つ奥の倉庫の上には、痩せた老人型ロボットが両手を突き上げながら騒いでいた。
「パダット……。元気そうだな……」




