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機械天使  作者: 音哉
23/25

Act.23 巨大な実験場...

「はぁ? お前のどこが人間なんだよ。どこから見てもロボットじゃねーか?」


 ハルトがミハイルのシャツを横に引っ張った。銀色に光る胸板がのぞく。


「体はもちろんロボットだ。時間変動ですべての細胞は逆行を起し、消えて無くなってしまった」


「んじゃ、どのあたりが人間なんだよ?」


「ここだよ、ここ」


 ミハイルは人差し指で自分のこめかみを軽くノックした。


「脳みそか?」


「ふふ。脳ももちろん細胞で出来ているから残っていない。しかし、私達は生物として死滅する前に、脳の構造を全て大容量コアチップにコピーしたのだ。これをブレインコピーと呼ぶ。しかし、個体数は維持できたが、もう繁殖する事は出来ない。それで出来るだけ人の代役が出来るロボットを作り上げようとしているのだ」


「人間は脳をコピーしてロボットとなって生きているだと……? しかし、私がこの世界に現れた200年前に、すでに人間はローグタウンにもガストタウンにも見なかったが? 時間変動すぐはまだ人間の姿だったんだろ?」


「もちろんそうだ。しかし、人間はとっくの昔に地球を捨てているぞ。200年前はすでに、少数の管理者が今の私のように隠れ住んでいただけだ。ブレインコピーは宇宙にある人間の本国でしか出来ない技術なので、もちろん私は時間変動後に来た後任だけどね」


「何っ? ……そうか。それで……」


 チハルは納得してから、一度モニターの地図を見てミハイルに言う。


「しかし、お前達人間が運用試験しているロボットは問題児ばかりだな。パダットと言い、ジルマールと言い……」


「そこにいるリクス君もかね?」


「えっ! 僕も?」


 リクスは自分を指差して首をひねっている。


「そういえば……リクスがいるから私達がここに来たのが分かったと言っていたな?」


「彼は軍用ロボットだ。狙撃に特化した能力を与えてあるはずだ。その部分に関しては、普通のロボットや人間でさえも遠く及ばない超能力を発揮したはずだ」


「確かに驚異的な能力だ。リクスもお前がテストしていたのか?」


「いや……。彼は私の担当では無いし、私の扱っているロボットにこのタイプはいない。おそらく別のエリアから迷い込んだのだろう。本国のサーバーに問い合わせてどんなロボットか分かったのだ。


ジルマールとパダットについては私が観察していたロボットだ。問題を起す可能性は十分あった。ジルマールは強引なリーダーと言う性格を持ったロボットだ。パダットは、単純にテロリスト。そんな危険分子をいれてみたテストだ。必要悪と言う事もあるかもしれないのでね。少々性格が極端過ぎたかも知れないな」


「そのせいで、大勢のロボット達が死んだぞ」


「どうせ廃棄ロボットだ。そういえば数十年前にジルマールが組織作りに成功したため、こちらから攻めて彼を窮地に追い込んでみた。あまりにも弱かったため、一人の参謀ロボットを送り込んで強化の可能性を与えた。そいつは兵士の自我を奪うと言う考えに到達し、楽しみにしていたのだが……君達が全滅させてしまったようだ。まあ、それだけの力だったと言う事だな」


 ミハイルがパネルを操作すると、ジルマールの側近であり参謀、ヒュードムの姿が回転する様子で映し出されていた。


「そこで君達だ。チハル君とハルト君。二人は発信ユニットを組み込んでいないロボットと言う事は、私達が管理している試作ロボットではない。つまり、宇宙から適当に地球に放り込まれた廃棄ロボットだ。


そんな使い物にならないロボットな筈なのに、極めて高性能。例えば、地球外生命体との戦闘を想定して作られる兵士ロボット並の格闘能力を持つはずのジルマールをも、子供を相手にするように倒した……のだろ? 残念ながら音声しか拾えなかったのだが」


「ああ、だから俺は前から…ってあんたには言ってなかったか。俺は未来のロボットだ。んで、チハルは人間だ。俺はともかく、チハルは間違いない。こんな綺麗な体をしているロボットなんているわけないぜ!」


 ハルトがそう言うと、ミハイルはチハルの体へ目を向ける。


「綺麗な体? どう言う事だ?」


「俺達の顔みたいに、体の隅々にまできちんと表皮が張られているんだ。そしてそれはプラズマを浴びてもはがれない!」


「プラズマを浴びてもはがれないって所が人間では無いと思うんだが……。だが、確かに電磁シールドを全身に展開するような巨大なシステムは組み込んでいる気配は無いが。じゃあ、その綺麗な体を見せてもらえるかな?」


「いいだろう」


 チハルはツナギの首もとのジッパーを掴み、それを引き下げた。中から、黒いタイツのようなサポートスーツに包まれた胸が突き出る。


「それも脱いでもらえるかな?」


「わかった」


 チハルが腰に指を差込み、スーツをまくり上げると白いおへそがのぞく。そして上に捲り上げ胸が露出されそうな時に、ハルトが声を上げて割って入った。


「待てって! こんなおっさんに見せるなんてもったいねぇ! 見てみろ! この親父のいやらしい目を!」


 確かに笑みを浮かべた表情をしていたミハイルだったが、ハルトのその様子を見て表情を変えた。


「ハルト君……。君は……、その感情は……? 裸を見せるのがもったいない? それは人間特有の考えのはずだ。未来のロボットと言うのは眉唾物だとしても、君はひょっとして……ブレインコピー? まさか…人間か?」


「はぁ? 俺が……人間?」


「そうか……。それならば発信ユニットが無いのも分かる。管理者の一人が何かの事情で……? いや、それよりも宇宙からの廃棄ロボットに混じりこんでしまった?」


 うんうんと頷きながら考えていたミハイルだったが、チハルに目を向ける。


「それに対してチハル君。君は人間だと言うに恥じらいが無さ過ぎる。人間の女の子は、簡単に肌を晒したりはしないはずだ」


「なら……私はロボット……かもしれないのか? やはり……」


「いや、君は200年生きていると言ったな。もし、人間が何かひどい環境で育ったとしたら……ありえるかもしれない。しかし、心はそれで説明できたとしても、細胞が説明できない。時間の逆行によって、細胞は若返る。そのため人間を含む動物は絶滅した。それは、私がこの身を持って体験した事だ」


 そう言うミハイルに、チハルは今までの出来事を話す。


順の時間で生きていた学生の頃、今の自分とそっくりな女に出会った事。その時地震のような災害が起き、それは時間同士の衝突だったのではないかと言う事。そのせいなのか未来に飛ばされた自分。体にも変化が起きて不老不死になった事。逆の時間に生きる自分が、いつか順の時間に生きる昔の自分と出会う時、また時間変動が起きるのではないかと言う事。200年の間に考えた推測を話した。


「興味深い話だ。このまま時間が過去に戻っていくと、順の時間とぶつかる境目がある……か」

 

しばらく考えていたミハイルだったが、鋭い目をチハルの体に向けて言った。


「それに確かにその体、ロボットとしてはありえない作りだ。その揺れる胸もロボットとしてはおかしい……」


 ミハイルの強い視線を感じ、チハルはツナギのジッパーを上げた。それに気がついたミハイルは咳払いを一つした。


「まあ、その話が真実なのかどうかは、君が人間だと判明した後に考えれば良い。なに、実は簡単な装置ですぐに分かる。人間ならその内部を透視するように見える機械もあるし、ハルト君のコアチップがブレインコピーされた物なのか調べる機械もある」


「本当か! 是非調べてくれ!」


 チハルがそう言うと、ミハイルは「んー」と言いながら一度床に目を向ける。


「だが、残念な事に今ここには無いんだ。そんな機械、必要な時があるとは思わなかったからな。でも、一日あればどちらも作れる。設計図はすぐ取り寄せられるしな」


「おう! おっさん頼むよ! 俺が人間なら……チハルと付き合っても変だって事ないよな! やったぜ!」


「付き合う? ますます人間みたいな男に思えるな、君は」


 ミハイルは笑うと、続ける。


「まあ、もし二人とも人間なら、一度宇宙へ出てみるといい。軌道エレベーターでな」


「軌道エレベーター?」


「ああ、私みたいな普通の管理者は、そのルートで地球にやってくるんだよ。簡単に言うと、宇宙まで伸びるエレベーターだな。金属の塔が宇宙まで伸びている。その中を押し上げられて進んでいくんだ」


「はぁ? 空より高い塔? そんなもん、……倒れるだろうが!」


 当たり前だと言う顔をするハルトをミハイルは笑う。


「ははは。水に浮く一本の棒があるとする。それの片方の先に重りをつける。その重さは棒にかかる浮力の半分。さてどうなるでしょう? 答えは、棒は水面に対してバランスをとって垂直に立つ」


「……なるほど」


 チハルとリクスは理解したように頷く。腕組みをして唸っていたハルトは、手をポンと一つ叩くと、明るい顔になった。


「わかったぜ! 重しをつけているんだなっ! エレベーターって奴が倒れないように、でかい岩とかを下に取り付けてっ!」


「ふっ……」


「ふ……」


「ふふっ…」


 チハル、リクス、ミハイルはハルトから顔を背けた。全員の肩が揺れていた。


「ああっ! チハルとおっさんはともかくっ! リクスまで笑いやがったなっ! てめぇ! ちょっと外出やがれっ!」


「まあ待ちなさい、ハルト君。君の考えは良い所まで行っていた。重りは塔の下ではなく、上についているんだよ」


「へっ? 上? 余計倒れないか、それ?」


「いや、地球には、物を引き付ける引力と言う力がある。しかし、それと同時に逆方向にも力が存在する。それが遠心力。引力に対して小さすぎるから気がつかないが、地球が自転している限り確かに存在する。地球の大気圏を抜け、宇宙にまで突き出る軌道エレベーターにはその遠心力が大きくかかるんだ。そしてその先に、重りをつければ更に大きな遠心力が働く。重力とその遠心力が釣り合った時、塔は支えなど無くても、独りでに立ったまま倒れない。先ほど言った、水面に立つ棒のようにね」


「へ……へぇ……」


「ハルトって、人間だって言うの怪しくなってきたね。フフッ」


 笑っているリクスの頬をハルトは両手で挟んでタコのような顔にする。


「まあ、私も君達に興味があるから、是非装置が完成するまでいてくれ」


 チハルはミハイルに対してうなずいた後、じゃれあっているハルトとリクスに言う。


「それならば出来るまでの間、パダットでも捕まえに行くか? ローグタウンとの中間地点だから、急げば片道10時間。装置が完成する頃に帰って来られる」


「必ず来てくれよ。これを持っていけ。パダットの反応がわかる」


 ミハイルは15cm四方の薄型のパッドのようなものをチハルに渡した。


「助かる」


 ミハイルを残し、チハル達は、チハルを先頭に出て行った。




 チハル達がいなくなった室内、ミハイルは一人大型モニターの前で考え込んでいた。


「時間同士の衝突が……来るか。順である21世紀初頭までの時間と、逆である21世紀初頭からの時間がある地点でぶつかる。そんな事宇宙にいる太陽系星間連合の上層部は考えているのだろうか? 


今から1200年近く先の『過去』だとしても、生身の体を捨てた人間にはいずれやってくる出来事だ。太陽系……いや、銀河中がロボットで溢れ変えるようになった今、もう時間変動は自分達に影響を与えないため、振り返るものはいない。せいぜい、収縮していく宇宙は、いずれビッグバンの光り共に消え去る……そのくらいしか考えていないだろう。


チハル君の言うとおり、二つの時間の流れが、ある地点で飲み込まれていくとすると、そこで一体何が? チハル君のように未来に飛ばされる? 過去もありえるのか? その時、彼女のように二つの時間をまたいだ影響で体の時間が止まってしまうのか? 時間が止まっているメカニズムを調べるのは私には無理だ。それは宇宙にでも上がってもらって……。いや、それより、まずはチハル君が本当に生身の人間である事を確かめなければ」


 ミハイルは、パネルを操作して何かの設計図のようなものを表示させた。それをしばらく眺め、椅子から立ち上がるとドアへと向かう。


 自動扉が開く。考え事をしていたミハイルは、ドアの影に立っていた男に気がつくのが遅れた。


[バシュッ!]


[バタッ]


 腹に大きな穴を開けられ、ミハイルはうつぶせに倒れた。弱弱しく顔を上げると、そこに、ミハイルの頭に銃を向けている男がいた。


「お前は……まさか……どうして…」



[ウィーン]


 ドアをくぐって部屋に入り、モニターの前の椅子に腰をかけた男は、ミハイルでは無かった。




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