Act.18 超長距離立体射撃...
[バババババシュッ]
チハル達が廊下に出るとすぐに黒い兵士に発見され、プラズマガンの雨が降り注ぐ。
兵士達の知覚聴覚が全てリンクされ、それが指令センターで一括処理をしているのか、あっと言う間に兵士達が集まってきて進路を塞がれた。
「うおぉぉぉぉ!」
ハルトが両手を前にして進む。その掌に生まれた電磁シールドは、プラズマ弾がまるでシャボン玉だったかのように弾けさせて消滅させる。
「どっかぁーん!」
ハルトのシールドと、突き当たりの壁に挟まれた5人ほどの兵士達は動きを停止した。
廊下はT字路、右側と左側からハルトにめがけて撃ち込まれるプラズマを、ハルトは両手を180度開いて受け止める。その背中をチハルが蹴って鳥のようにふわりと飛び上がった。
[トン トン トン]
ハルトの背中、右の壁、左の壁と蹴って兵士達の目の前に現れたチハルは、まるで幻かと言うように残像だけを残して3人の兵士の後ろにすり抜けていた。
兵士達は体を捻って振り返ろうとしたが、三人とも膝の裏をチハルに蹴られており、バランスを崩して天井を仰ぎ見るだけの姿勢となった。
[ガガガガガ]
チハルがアサルトライフルの銃口を左から右に動かすと、頭に穴を開けられた三人の兵士はそのまま仰向けに倒れる。
「ハルト! 引っ込め!」
チハルがハルトの向こう側にいる兵士に狙いを定めると、ハルトはT字路から元の通路へ体を隠す。
[ガガガガガガガガガガガガガガ……]
廊下の先にいた兵士達は、一人あたり数発の弾丸を撃ち込まれ、部品をばら撒きながらスクラップとなって横たわった。
チハルは空になった弾薬カートリッジを床に落とし、ポケットから新しいものを取り出して銃にはめ込む。すぐさま身を翻すと廊下の先へ走る。その後をもちろんハルトが付いて行く。
2つほど角を曲がると、廊下の先に待ち構えていた10人ほどの黒い兵士達の姿が見えた。チハルは床を転がって柱の影に身を隠した。
「読まれているな」
「例の司令官って奴か? どうする?」
「……通路を行くから……読まれるんだ」
「どう言う事だよっ?」
「新しい道を作ればいいんだ。奴らが知らない道をな」
チハルは自分の背中をつけている壁を、軽く手の甲で数度叩いた。
「なるほどだぜっ!」
チハルと廊下を挟んで向かい合って隠れていたハルトは、その右手でチハルの横の壁を殴りつける。派手に大穴を空けると、そのまま体当たりをして更に穴を大きくして突き抜けた。
「いいぞハルト! このまま左前、西の方向へ突き進むぞ! そこにジルマールの部屋があったはずだ!」
「この要塞の中央部辺りか? ベタな奴だなっ!」
ハルトはその部屋の壁をもう一つ突き破り、更に2つの部屋を通り抜けた。
兵士達はチハルの空けた穴を真っ直ぐに追ってくる事しか出来ず、待ち構えているチハルに狙い撃ちされる。チハルは新しい銃を器用に操り、撃ちもらすことなく兵士達を鉄くずにした。
「妙だ……?」
しかし、チハルは違和感を持った。自分は正面から撃っていると言うのに、倒れる兵士達の中には後ろに倒れるのではなく、前に倒れてくる者がいるのだ。
チハルは引き金を引くのを止め、少しの間様子を観察していると、それでも兵士が倒れていく。
「前のめりに倒れた。後頭部から眉間にかけて正確な銃創。後ろからの射撃か……。しかし、私と同じ金属の弾を使っているというのに……銃声が聞こえない。長距離の狙撃。これがハルトの言っていた協力者? ……後ろから私達を撃ってこない事を祈るか」
チハルがハルトの後を追うと、まだ後ろで人が倒れる音が聞こえて来た。
「どっかぁーん!」
ハルトが壁を破ると、今度は様子が違った。打ちっぱなしのようなコンクリートの大きな部屋。広さは音楽ホールほどの広さがあった。中央に大きく飾られた椅子が置いてある。
チハルはこの部屋に見覚えがあった。
「ここだ。しかし……ジルマールがいないな」
「逃げたんじゃないか? で、ジルマールってどんな奴なんだ?」
「体格はお前のようだな」
「へぇ。じゃあいい男なのか?」
「顔の作りか? お前のように、私には良い物と悪い物の判断がつかない」
「俺はイケメン。チハルは美女だ。それを基準に考えるといいぜっ!」
「……わかった。参考にさせてもらう」
チハル達は警戒しながら部屋の中央へ向かう。椅子の前まで来ると、確かにジルマールがあの時座っていた物だと確認をした。
しかしその時、部屋の東西南北、四方向にある扉が一斉に開き、黒い兵士達がなだれ込んできた。兵士達はチハル達から30mほどの距離を取り、銃を向ける。
「ここに向かっているのを読まれたか? しかし……部隊の展開が速い……」
チハルとハルトは背中合わせに立ち、首だけを動かして様子を探る。そこへホールのような広い部屋に、甲高い声が響いた。
「ハーッハッハッハ! 昨日と全く同じ展開になったな! もしかして、読まれていたとでも考えているのか? 違う違う。お前は最初から私の掌の上で踊っていたのだ。お前の仲間が助けに来る可能性を考えて、ここをジルマール様の部屋と見せかけていたのだ。普段ここは兵士達の訓練場。お前の仲間のそこのでかい男が見張りを突破して侵入してくる可能性など1%以下だったが、優れた策士は念には念をいれておくものだっ!」
兵士達の後ろに隠れるように立っている背の高い男、ヒュードムが放った声だった。兵士達と姿は違い、黒色だが軍服のような服を身につけており、制帽を深くかぶっていた。
チハルとハルトは背中をくっつけたまま小声で話をする。
「あれが指令を出してた奴っぽいよな?」
「チャンスだ。どうしてか分からんが目の前に姿を現してくれている。ここで破壊をしておけば、黒い兵士達の統率は乱れるはずだ」
「でもどうやる? 手前に兵士がいるからチハルの銃は当たらないし、俺のプラズマ砲はこの距離だと避けられてしまうぜ。威力はあるけど、結局火炎放射のような物でスピードは無いからな……」
「……狙撃だ。誰かわからないが、奴にやってもらおう」
「けど……。今は撃ってこないぜ。壁越しにでも撃ってくる奴のはずだけど……」
「おそらく……見えないんだ。やはり奴は壁越しに撃っていても、どこからかは見ているに違いない。それで予測をつけて……撃つ。しかし、この部屋には窓のような物がない」
部屋は灰色一色に覆われ、4つの扉と中央の椅子以外は何も無かった。
「ハルト。お前他にも弾を持っていると言ったな?」
「右の胸ポケットに炸裂弾が入っているぜ。それなら壁に人の頭ぐらいの穴を…」
チハルはそれを聞いた瞬間、左手をハルトのジャケットの裏へ滑り込ませた。同時に、右に持った銃から弾薬カートリッジが射出される。
[カチャ]
チハルがその場で一回転をしたように見えた間で、すでに新しい弾薬を込めた銃を南の壁に向け終わっていた。
[バシュッ!]
「うっ!」
しかし、一人の兵士が撃ったプラズマ弾がチハルの頬をかすめた。チハルは顔を背け、その銃口が逸れる。
[ガーン]
チハルの放った弾は、南の壁ではなく、西の壁に穴を開けた。
「大人しくしろ。南東方向から狙撃してくる仲間がいるのは分かっている。狡猾な奴らしく、一時は建物の中から撃っているのかと思ったが……やはりすべての弾丸は南東からの狙撃だった。
……再度兵士を捜索に行かせているところだ。上手に隠れているらしく、なかなか発見が出来ないがな……。まあ、壁を貫通する銃の威力からしてそう遠くない位置だろう。今派遣している兵士達にじき見つかる……」
そう言うと、ヒュードムはハルトに目を向けて言う
「私は出来ればその巨体の男を兵士の一人としたいのだ。五体満足で手に入れたい。無駄な抵抗はやめろ」
ヒュードムの表情はチハル達からは見えなかったが、勝ち誇った顔をしている事は声から読み取れた。
[ドサッ]
突然、何かが倒れる音がして部屋は静まった。チハルとハルトがその方向を見ると、北側の兵士の一人がうつぶせに倒れていた。そのすぐ隣にいる兵士が抱き起こすと、倒れた兵士の眉間には穴が開いていた。
「な……なんだとぉ!」
ヒュードムの声を合図に、兵士達が一斉に南の壁に銃を向ける。チハルもそちらを見ると、狙撃をした味方の姿はもちろん無かったが、銃の弾が通り抜けたような小さな穴が開き、そこから光が漏れていた。
「なぜ狙撃が出来るんだっ! 弾は常に南東から飛んでくる! 狙撃をしている仲間がそこにいることは間違いないのに……奴はどうして……西に穴が開いただけなのに撃ってこれるんだぁぁぁ!」
取り乱した司令官、ヒュードムの周りを兵士達が更に厚く取り囲む。そうしている間に北側にいる兵士達の何人かが更に倒れた。
「来たぜっ! チハル! 狙撃だっ! あの司令官が慌てている訳も俺には良く分かる!見えていないはずなのにどうしてかまた奴が撃ってきている! 多分……助けてくれる奴が複数なのか? チハルのリクスって予想ははずれだなっ! 奴は友達はいねぇ!」
ハルトは両手をプラズマで光らせながらチハルに上機嫌に言った。そして、倒れ続けて兵士が少なくなった北側に背を向け、電磁シールドを両手で展開させる。チハルはハルトの電磁シールドに守られながら、ハルトとは違う別の考えをめぐらせていた。
「常に南東から撃ってくる……。仲間がいれば違う方向からも弾が飛んでくるはずだ。狙撃しているのは一人。しかし、穴が開いたのは西の壁。と、言う事は……。西側には……カメラか何か目の代わりになるものを?
西から横向きの映像を見て、南から縦に正確な射撃をこなせるなど信じがたいが……。そう仮定すると、カメラは西だけじゃなく、東にも北にも仕掛けているはずっ! 今北側の兵士だけがやられている訳は、西の壁の穴を……南西に設置しているカメラから見ている! だから北の兵士しか見えないんだっ!」
チハルはハルトの腕の隙間から炸裂弾を部屋の北の壁、東の壁、そして南の壁に向けて撃った。全ての壁にフットボールほどの穴が数個開いた。
「ハルト! シールドはもういいっ! やるぞっ!」
「あいよっ!」
チハルの読み通り、東西南北、全ての壁に立っていた兵士が狙撃により倒れだした。兵士達は混乱したかのように銃を乱射するが、チハル達がすでにいない場所をプラズマ弾が打ち砕く。
「司令官を狙撃しなくてもよ! 奴のあせりが兵士達に伝わって統率がとれてねーぜぇ!」
ハルトは片腕のラリアットで兵士の頭を立て続けに3つもぎとった。首から上が無くなった兵士の体を一つ掴み、それを投げつけると、今度は5人の兵士が倒れる。
「兵士と司令官の脳をリンクさせているんだろう。指令はすぐに伝わり作戦通りの動きができるが、司令官の動揺もあっという間に伝わるというデメリットがあるようだなっ! まあ、それだけ私達に協力してくれている狙撃者が想像できないくらいの技量を持っていたと言う事だが……納得できるっ!」
チハルは宙返りをしながら銃を放ち、着地するとすぐさま片手で側転をしながら銃を撃つ。
敵の放つプラズマ弾は、チハルの持っている銃から放たれる鉄の弾よりも遥かに遅いが、それでも時速200km。それをチハルは紙一重でかわしつつ、その姿勢のまま引き金を引く。
ホールの中はあっという間に立っている者より倒れている物の方が多くなった。
その中、慌てて西の扉へ向かう一団がいた。ヒュードルを囲む数人の兵士達だ。
「ハルトっ!」
「あいよぉ!」
チハルが銃撃するも、兵士達は倒れた兵士達を拾い上げて盾にする。貫通して兵士に突き刺さり倒れる者もいるが、更にそれを兵士が拾い上げて盾にするためなかなか減らない。
兵士達の目がチハルに向けられている隙に、ハルトの右腕が強く光りだした。
「いけぇっ! プラズマ砲!」
チハルとハルトが前後を入れ替える。ハルトの右腕から噴き出した青い火柱がヒュードル達を襲った。
ヒュードル達は倒れこむように横に飛んで避けたが、その半分はプラズマの炎によって蒸発をした。そして、起き上がろうとする兵士達の頭をチハルの銃弾が突き抜ける。
取り巻きは残り数名となり、その者達はおそらく自分の意思では無いのだろうが、健気にまだヒュードルの盾となる。
最後の一人の兵士が倒れる瞬間、ヒュードルは部屋の外に出る扉に手をかけた。
[バキッ!]
「がっ! ……何を……する……」
部屋の扉を少し開けたヒュードルは動きを止めた。ドアから後ろ歩きに数歩後ずさると、ゆっくりと体をチハル達に向けた。その額は破損し、内部回路が覗いていた。
「お前のォ番は終わり。次はァ俺だ」
ドアの隙間から見えていたのは、銀色に輝く細い金属の棒だった。そして手が現れドアを開け放つと、そこに立っていたのは……カウボーイのようなテンガロンハットの男、カンタスだった。
黒い兵士を全て倒したチハル達に向かって、カンタスは細い棒をフルスイングしてみせる。カンタスの目の前に立っていたヒュードルは垂直に崩れ、首の無いまま横たわった。
「カンタス……」
チハルは転がってきた丸いものを踏み潰しながら言った。
「来いよゥ。ジルマール様はこっちだァ」
カンタスは狙撃を用心しているのか、さっと扉を閉めた。その後を付いて行こうとするチハルの肩をハルトが掴む。
「怪しくねーか?」
「しかし、今はジルマールがどこにいるのか分からない。それにカンタスも始末しておかないといけない迷惑ロボットだ」
「んーと。わかった!」
納得して一緒に行こうとするハルト。しかしチハルは、そのハルトの胸を軽く押して静止させる。
「いや、お前は別方面を探してくれ。二人とも罠にかかっては意味がないだろ?」
「俺はいいけど……チハルが心配だぜ!」
「捕まったときは……またお前が助けてくれるのだろ?」
「……そうだな。そりゃそうだっ! 任せておけっ!」
ハルトは胸をドンと叩くと、笑顔で北側の扉に向かう。チハルは小さく笑うと、カンタスが消えた西側の扉を開けた。




