Act.16 狙撃...
バイクで一時間。ハルトはまた入り口付近でバイクを隠し、街へと入った。
昨日とは少し違う方角から街へ入ったとは言え、様子が違った。ジルマール一味以外は誰一人としていない無人の街かと思われたが、今日は表情が暗いとは言え、人がいるのだ。
しかし、巨体で目立つハルトに目を向ける事も無ければ、歩く向きも微塵も変えない。ハルトは、自分が居ようと一直線に進んでくる町の人達を避けながら歩く。
「ガストタウンの奴らは俺ほど明るく無くても、感情があった。こいつらは……。そう、昨日の黒い兵士みたいだ。それの……住人バージョンとでも言うか……」
人間で言うならゾンビと言う物の様だっただろう。生ける屍、そう表現するのも良いかもしれない。
ローグタウンの人達は、見た目はガストタウンの住人達と変わらないのに、中身を抜き取られた、ただのぜんまい仕掛けの人形のようだった。もちろん、ハルトの事を通信機などで誰かに通報しているような元気も見せなかった。
「頭にあるコアチップに……ちょっと改造を加えているのだのぅ」
「どういう改造だ?」
「思考回路として働く部分を停止……と言ったら聞こえがいいがの、破壊しているのだのぅ。チハルは機械の事詳しく無いからわからんだろうがの、停止させるより破壊する方が簡単ですむのだのう」
「その方が従順な兵士になるからか?」
「そうらしいがのぅ。わしとしては、感情があるほうが何かと面白いと思うのう。何も考えないような奴らを壊しても面白くないからのぅ」
チハルは相変わらず拘束されていた。それだけで抵抗する力や逃げ出す能力が全くの0だと考えられ、牢ではなく普通の部屋の一室に閉じ込められていた。そこへ、チハル達の探していたパダットが自分から姿を現したのだ。
「それでも多少の手間がかかると言うのに、街の住民全員に施したらしいの。お陰で生産効率が上がって元は取れているらしいが、町は静かなもんだの。わしがこの街へ来て4日じゃが、笑い声をこの町で聞いたことがないの。……カンタスの落ちこぼれ兵士達以外は」
「街の住民全員に……。ん? カンタスが落ちこぼれ兵士と言うのはどう言う事だ? 私がここにいた100年前は、奴は幹部として肩で風を切ってこの街を歩いていたが?」
「わしがある盗賊団の頭だったという話を覚えておるかの? あれは50年前に壊滅させられた」
「どこかの組織に潰されたんだったな?」
「そうだの。そこにこのローグタウンも30年ほど前に攻められたらしいの。追い返す事には何とか成功したようだがの、壊滅状態にされたらしいの。それで方向転換。今の参謀となった男の助言で、ならず者達の集まりから意思を取り去った軍隊への改革をしたらしいの。
殆どの手下は処理をされてあの黒い意思を持たない兵士にされたらしいの。ただ、カンタスとその下っ端は免れたと言う事だの。ジルマールの気まぐれか、それとも何かに使えると思ったのか、ようわからんがの」
「そういう事だったのか。それで……、お前はどうしてジルマールの所へ来たんだ? この軍隊をのっとるつもりなのか? それでまたガストタウンを攻めようと?」
「別にわしはあの街にこだわってなどないんだの。この町に来て留まっている訳は……、わしはここのロボット達が独自に改良した兵士がどうなるか見たいんだの。機械が機械を作り上げ、それの行く末が見たいんだの。今までは人間が作ったコアチップに手を加えたロボットなどいなかったからの」
「そうだな。新しく作ったボディに他のロボットから取り出したコアチップを初期化して使う事はあったが、変更を加える事など無かった」
「わしは、人間達が滅んだように、ロボット達が滅び行く様を見たいんだの。軍隊をのっとるなど考えておらんの。それに、恐らくジルマールなら北のあの組織を壊滅させる事が出来ると思うんだの。その後は自然に滅んでいくか…仲間割れでも起すか……。まあ、場合に寄ったらわしが滅ぼして、またパダ1……じゃなくて、パダ2かの。でも作ろうかの」
「お前は……街ではなく、地球を破壊したいのか?」
パダットはその質問には答えず、床に転ばされていた裸のチハルを起こし、椅子に座らせてあげた。そして話を始める。
「チハル……。この世界は何かおかしいとは思わんかの? ロボット達は増えているのか? 減っているのか? 頭脳のコアチップを自分達で0から作り出せないんだから……増えているわけが無いの。
しかし、毎日どこからとも無くロボットが街に現れる。ガストタウンでも、このローグタウンでもそうだの。それが……時間の反転が始まってからずっと続いている。どうしてだの? 人間はとっくに絶滅したはずなのに……誰が作っているんだの……?」
「……そんな事を考えてどうする? 確かに、戦いは町のいたるところで起きている。コアチップごと破壊されるロボットも多い中、なぜかロボット達は減っていかない。私も100年近く前からそれについて不思議だと考えていたが、しかし数が減らない事が何か問題があるのか?」
「そして……目的を持っておらんロボットがなぜか多い。やる事と言ったら、なんとか自分のためのエネルギーを手に入れようとするだけ。交換やら商売やらで。
しかし、なぜかその中で、わしやジルマールのように町を支配したり破壊したりするような特異なロボットが現れる。そいつらは、まるで天職であるかのようにその仕事を懸命にやる。他にも自分の中に独自のルールを持つカンタスや、ジルマールの参謀のように軍を作り指揮したがる者。まるでそう、役でも与えられたかのようにな……」
「作った人間がそうプログラムしたと言いたいのか?」
「違うの。わしは……今でも人間がその操作をしている……気がするんだの」
「今でも? どこかに人間が生きていて、自分達のためにロボットを使って実験していると言うのか?」
「―――っ! そうっ! 実験だのっ! その考えいただくの! ……そうか、実験を……」
ずっと立っていたパダットだったが、チハルの正面の椅子に座り考え込み始めた。
「コステルの爆弾を作ったのも人間に操られて……と言いたいのか?」
「おっ! やはりそうだったか。パダ1のバリアが破られたんでわしは一生懸命調べたんだの。パダ1に打ち込まれた銃弾のデータを調べると、なんとそのパダ1が食ったロボットの中の一体と特性が一致した。まさか食ったロボットが襲ってくるなどと言う事を考えておらんかったから、その穴を突かれたわけだの。パダ1の記録に残っていたその少年型ロボットを再現して爆弾を詰め込んだわけだが……見事当たったか! やはりわしは天才だの!」
顔を寄せ、チハルに向かって汚い笑顔を向けるパダットだったが、チハルからは何の反応も返ってこなかった。
「相変わらず鉄面皮だの。まあいいの。わしは調べたい事があるからこの辺で失礼するの。この街はわしみたいな者には安全な街だから、しばらく滞在するの。だからまた来るの」
その背中にチハルが声をかける。
「逃げなくていいのか? 私の拘束が外れたら、とりあえずジルマールとお前は危険分子なので停止させに行くぞ」
パダットは振り返って二ヒヒと笑った。
「どんなにここの連中がぼんくらでも、チハルのその手の錠を外しはせん。あとはハルトが助けにくるという可能性だが、さすがに一人でここの兵士達を相手にするのは無理だの。チハルと二人なら可能性もあったが……残念だったの。もう一人仲間がいればよかったのにの」
そのまま前かがみの小走りでパダットは部屋から出て行った。チハルはドアが閉まった音を聞くと、小さなため息を付いて天井を見上げた。
[ガチャ]
パダットと入れ替わりにカンタスの部下だと思われる汚い姿の男が入ってきた。
「拷問の時間だぞ」
自分に向かって歩いてくる男を見ながら、チハルはふぅっと大きなため息を付いた。
ローグタウンの東側、町の出口付近にバギーカーが一台止まった。そこから降りた男は、岩陰に雑に隠されているハルトのバイクを見て笑った。
バイクには触れもせず、男はバギーカーの狭い後部座席から大きな荷物を取り出す。それは三つあり、一つの幅が20cm、長さは1mほどだった。その長細いカバンを3つ背負うと、男は街に入り、南東部へ向かって歩く。
30分ほどすると、男の目の前に巨大なビルが現れた。高さはざっと150m。上部が崩れているというのに、まだ40階建てほどの建物だった。男は規則正しい靴音を立てながら階段を上った。
最上階に着いた男は風に軽く煽られた。
「予想以上の強風だね」
瓦礫が積みあがったフロアを端まで歩く。男の眼前にはローグタウンの全てが広がった。遥か遠く、町の中心には、周りの建物と一戦を画す白い建物が建っている。
「距離……3412m。……と、42cm。……くらいかな」
男は足元に3つの荷物を下ろすと、伸びをした。
「軽いなぁ。身も……心もっ!」
男はしゃがむと、鞄を開けた。
ローグタウンの中心にたたずむ白い建物。ハルトはその周りをぐるりと一周した。
見張りをしているような兵隊は一人も見当たらなかった。その訳は恐らく、高く分厚そうな壁に囲まれているため進入するものなど寄せ付けない自信の表れなのだろう。入り口も強固な金属の扉が正面に一つあるだけで、他には何も無い。
ハルトは壁を乗り越える方法は無いかと周囲の建物を見るが、中に飛び込めるような高いビルどころか、低い建物も全て用心のためか壊されているようだった。
「街の端っこの方にはかなり高いビルがあるのになぁ。壁はとても飛び越えられないし……。壊して入るしかないか……」
外に全く兵隊はいないとは言え、中にはもちろんいるだろう。そして、この唯一の出入り口の扉の前には、見張りがいる可能性が最も高いとハルトにも分かる。
「プラズマで溶かすなら金属の扉だが……チハルと合流する前に、敵に囲まれたら……非常にまずい。やはり壁をなんとかして登って……」
ハルトは南側にある扉から東に回る。そして、垂直に伸びる壁を見上げた。
「少しでも手を引っ掛ける場所があればいいんだけど……。つるつるだからな……。この壁を壊すのは時間がかかるし、やはり南の扉をぶち破るか。後はどうにでもなれってんだ」
腕をぐるんぐるんと回して、ハルトは笑みを浮かべながら先ほどの扉に戻ろうとした。
[ヒュン ガシッ]
「ん?」
ハルトの耳に風を切るような音と、石が割れるような音が聞こえた。しかし、周りにも自分の身にも何も異常は無いように思えた。
「気のせいか……。あれっ?」
ふと横を見ると、白い壁から銀色の棒が突き出して見えた。それの周りには僅かに壁にヒビが入っている。
「なんだこれ? さっきは無かったのに……」
指で摘んで引き抜くと、それは10cmほどの弾丸だった。
「……狙撃か? しかし……チハル以外に金属の弾を使う奴なんているはずが無いけど……」
ハルトは一応そばの瓦礫に身を隠し、弾が飛んできた方向を見たが、人影どころか人の気配も無かった。
ハルトはそのまま飛んできた金属の弾を眺める。チハルが使っている銃の弾の倍は長い。そして、壁にめり込んだというのに傷一つ付いていない強度も備えているようだった。感心しながら、壁に開いた弾痕と弾丸を交互に見ているうちに、ハルトはある事を思いついた。
「そうか! これで……上れる!」
ハルトはそばの瓦礫から、突き出ている細い鉄骨を引き抜いた。そして一本の長さが50cm程度になるように、指から出るプラズマで切断を始める。あっという間にそれを20本ほど用意した。
「俺って何て賢いんでしょう! チハルやリクスがいたら拍手させてやるのになぁ」
ハルトは槍投げの選手のように右手に鉄の棒を持って振りかぶる。ダイナミックなフォームと共に壁に向かってそれを投げた。
[ガッ!]
壁に鉄骨が突き刺さる音が静かな場所に響いたが、辺りにそれに気が付く者の気配は無かった。
「あらよっと!」
ハルトは狙撃されたかもしれないと言う事も忘れて、のんきに壁に向かって鉄骨を投げる。20回ほど繰り返すと、1m間隔ほどで縦に突き刺さった鉄骨の足場が出来た。
ハルトは壁に近づき、鉄骨に手をかけ足をかけよじ登り始めた。
「まったく。世話のかかる奴だね。それに、彼のあの表情。自分でひらめいたとか思ってるんだろうな。別にいいけど……。どうせ僕は後方支援型だしな」
この街で最も高い南東にあるビル。その最上階にいる男はリクスだった。
そしてそのリクスは、見たことも無いような巨大な火器を抱えていた。それは一見すると銃。だが、ライフルなどとは比べ物にならないくらい機械的で、細かい部品がいたるところに取り付けられている。何より圧倒的に長い。
幅は25cm程度だが、長さにいたっては3mを超えている程だ。パダットが作ったパダ1用の銃と思えるようなサイズのそれは、前後を重厚な三脚のようなもので支えられ、街の中心部へと向けられていた。
「こらこら……。もっと用心して上らないと……。建物の見張り台で兵士が警戒しているのに……」
その超長距離ライフルのような物の側面から、両眼で見るスコープのような物が突き出ており、それを覗きながらリクスは有頂天になっているハルトの様子を見て笑っていた。
「さーて、壁を登ったら……適当に壁の上を走って、良さそうな場所に飛び降りるか」
ハルトは壁の上部まで行くと、頭を少しだけ出して様子を探る……と言う事は全く無く、上り切ると手をかけて、壁の上に飛び上がった。すると、30mほど離れた建物の屋根の上にいる男と目が合った。
「…………やべぇ!」
しかし、その男は騒ぐ様子も通信装置で誰かに連絡するそぶりも無かった。ハルトの方を向いたまま、膝を折って垂直に倒れた。
「……なんだぁ? エネルギー切れか? ラッキー!」
ハルトはその男の眉間に開いた穴に気が付く事は無く、下に兵士が見えない場所に飛び降りた。




