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機械天使  作者: 音哉
15/25

Act.15 密告者の苦悩...

 ローグタウンから東へ30kmのあたりを一台のバイクが走っていた。乗っているのは大柄の男一人。


「ちくしょう……。俺のせいだ……」


 ハルトは悔やんでいた。最初にコステルの姿をした爆弾に吹き飛ばされた事。そのせいで自分が持っていたチハル用の弾薬を失ってしまい、チハルは苦戦を強いられた。


「結局チハルを失っただけかよ……。いや、違うな。コステルの姿をしたロボットを作れるのはパダットだ。この街の奴らはコステルなんて少年知らないはずだからな。奴はなんらかの方法でコステルを知り、俺達が油断するであろうあの爆弾を作ったんだ……、くそっ!」


 ハルトはわざと石に乗り上げ、バイクをジャンプさせた。着地と同時にバイクを横にドリフトさせ、止まるとため息をつく。


「ならあの統率の取れた兵士達と策略もパダットか? いや……そんな奴じゃなかった気がする。なんていうか……方向性が違うと言うか……」


 ふと顔を上げると、遠くに見覚えのある幾つかの建物が見えた。


「もうここまで来たのか……。とりあえずまた工房借りるか。材料も何とか調達しないと……。金無いけど後払いでいけるかな? リクスの奴金にうるさいからな……」


 いつの間にか昨晩宿を貸してもらったリクスの廃墟まで戻っていた。


ハルトはバイクを止め、リクスがねぐらにしている建物の扉を叩く。すると、中で慌しく走る音と、何かをひっくり返す音が聞こえてきた。


[ガチャッ!]


「すみません! あの二人の事で何かご報告漏れがあったのでしょうか!」


 ドアを開けて、直立して姿勢を正しているリクス。その視線が上に行き、ハルトの顔を見るとひどくうろたえた。


「なっ! なぜあんたが……。どうして生きて…」


 扉を閉めようとしたリクスだったが、ハルトが扉を掴んでそうさせない。


[バキッ    ガランガラン……]


 ハルトはそのまま扉を引きちぎり、ヒョイッとばかりに後ろに放り投げた。リクスは風通しのよくなった入り口から後ろ向きに下がり、ハルトの顔を見上げながら遠ざかっていく。


「おい、リクス。今の話どう言う事だ? どうして俺が死んだと思ったんだ? それより、報告とか何を言っている? あの二人って……ひょっとして俺とチハルの事か?」


 遠慮なく家にハルトが足を踏み入れると、リクスは机のガラクタの中から小型のプラズマガンを手に取った。


「プラズマライフルの銃撃から逃げてきた俺に、そんなもの効かねーぞ」


 自分の目の前に立ったハルトに、リクスは震える手でハルトの胸に狙いをつける。


「武器を持つなら容赦しないぜ。その小さな銃ごと、お前の体をばらばらにする……」


 ハルトが青く光った右の掌をリクスに見せると、リクスはガックリとうなだれて両手で持っていた銃を下ろした。


「仕方なかったんだよ……」


「仕方なかった?」


 リクスは銃をテーブルの上に置くとハルトに視線を合わせずに言う。


「生きるためには仕方が無かった。奴らの言うとおりに……しないと……命が……」


「なるほど。報告っつー事は、じゃ、ここで街に入る奴のチェックをしてた訳か?」


「……うん。斥候……が僕の役目だ。街の東側から入ってくる奴を見張っている……」


「元はローグタウンに住んでいたのか?」


「そうだよ。……もう50年以上前になるけど」


「50年間……一人なのか?」


「うん。でもある意味、街の人達よりはここにいる方が幸せだったかもしれない。例え一人ぼっちでもね」


「そうか。俺達は昨日の時点で敵に見つかっていたのか。……ん? それじゃあ、昨晩家の裏でリクスが何かをしていたのは……、街の悪人に通信をしていたのか」


「そうだよ……」


「ふーん……。それよりも、工房を貸してくれ。金は……取らないよな?」


 ハルトはリクスに背を向けて、家を出て行こうとした。責められるだろうと思っていたリスクは、拍子抜けしたあまりハルトに言う。


「待ってよ……。それだけ? 僕のせいで君達は……死にかけたんじゃないの? いや……チハルは……死んだのか…な?」


「別に。お前はお前の仕事をしただけだ。悪気があってしたわけじゃない。俺は俺の仕事をさせてもらう。さっきはちょいとミスったしな……」


 その後一呼吸置いてドアを閉めながらハルトは言った。


「準備が終わったらチハルを助けに行って来る。別に連絡してもいいぞ。」


 扉の無い入り口をハルトがくぐって出て行くのを、リクスは棒立ちで見ていた。



 ハルトはバイクを工房に引き入れた。そして、それの前で胡坐をかいて首を捻る。


「必要なのはチハルの新しい銃に弾薬。そしてスーツにナイフ。バイクをばらして作ったとしても、大量の銃の弾を作るには決定的に材料が足りないし、スーツを作るには制御系の部品を作る材料が無い。……リクスでもばらして材料の足しに……ってのは冗談だとしても……。明日朝から材料を調達しに行くかな」


「笑えない冗談だね」


 そこに、扉を開けてリクスが入ってきた。手には鉄製のガラクタを持っている。


「使ってよ」


 ガラクタを床に転がすと、ハルトと同じように床に胡坐をかいた。


「なんで協力するんだ? お前は奴らの仲間だろ?」


「無理やりだよ。仲間じゃない。あと、今日またハルトが来た事は……街に連絡していない。僕の仕事は、東から来て西の街へ向かう者の監視だしね。西から……街から来た奴の事なんて知らない」


「とんだ怠け者をここに配置したもんだぜ」


 ハルトは話をしながらバイクを解体している。それをリクスはじっと眺める。


「何をこしらえたとしても……、二人で奴らに勝てるわけが無いよ?」


「それはどうかな。俺は先の時代のロボットだし、チハルは不死身の人間だ。わからんぞ」


「ハルトが未来のロボット? それよりも、チハルが……人間?」


「ああそうだ。ロボットとしてなら異様なくらい作りが丁寧だったろ? 俺たちと違って、エネルギーも必要無く動くしな」


「それが本当なら……僕は人間ってはじめて見るよ。人ってエネルギーもいらなくて、更に不死身なの?」


「いろいろと説明がめんどくせーんだけど……。今の時代に人間はチハル一人だけみたいだから、もうそう言う事でいいんじゃねーかな」


「すごいな人間……。それなのに絶滅したんだ……」


 二人の会話はそこで途絶えた。しばらく沈黙が続いたが、リクスが視線を下げながらまた話しかけた。


「でも……今日は負けたんでしょ? 次は勝てる見込みあるのかい?」


「今日は準備が足りなかった。……が、相手もあれがすべての力じゃないだろうな……」


「それでよく自信あるように言うね」


「別に俺は負けても構わない。やるべきことをやるだけだ」


「死んだらどうするんだい? 何も残らないよ」


「生きててどうする? いつかは俺たちも消え去る。意味もなく長生きするのと、今死ぬのには違いがない。俺はチハルを助け、意味を持ちながら長生きをするんだ」


「……意味も無くか。僕みたいだね」


「お前はここで見張りの仕事をやっているっつったが、その仕事を誰かが逃げないように監視している訳じゃない。街からはそこそこ距離があるし、……逃げ出さないのか? そして、何かやりたい事は無いのか?」


「無いよ! この世界のどこに目的を持ったロボットがいるって言うんだよ。あんたは別にしてね。ロボット達なんて意思を持っているようで、それはプログラムされた事。したい、やりたい、なんて考えていないさ。僕が逃げ出した所でどうなる。何をすればいい? 


どうせまた、似たような組織の奴に捕まって、良くて同じような仕事をさせられる。悪くて……死ぬだろうね。だって僕には何の能力も無い。君みたいに力持ちな訳でも無いし。すべてに置いて平均。万が一、特殊な力を持っていたとしても……意味の無い事さ。死ぬのを早めるだけだ」


 ハルトは改めてリクスの体をゆっくりと眺めた。


「確かに、お前は戦闘型じゃない。戦闘向きでもない。その細い体、腕、足。何かの軽作業をするためのロボットだ。工房持っているくらいなら……技術者でも目指すんだな」


「僕の作れる物は……偏っているんだよ。修理もろくに出来ない。僕は……この世界で意味の無い存在。だから流されている。流されていたら……今ここでこの仕事をしていた。きっとこれが天職なんだ。僕の人より優れているところは……目が良いところだけだから……」


「なるほどな。俺たちはロボットだ。と言う事は、何か目的があって作られたんだろう。しかし、俺もそうだが、その目的を忘れてしまっている。それとも、使命を入力する前に人間様は死んじゃったのかもしれない。だから……俺はそれを探す。なかなか見つからないのなら、とにかく感情にしたがって動く。


いつか……きっと見つかるんだ。その途中、死んでしまっても……いい。データなんて空っぽなら存在しないのと同じ。地中に埋まったままなのと同じだ。俺は……全力で生きるんだ」


「……ハルトは明らかに戦闘型……みたいだけど、だから死ぬのが怖くないのかな。他の戦闘型ロボットに会った事ある? そいつらはどうだった?」


「まだ会った事が無いな。盗賊やらとは戦った事があるが、俺みたいな生粋の戦闘兵器は見たことが無い」


「そうなのか……」


「そりゃ俺も一人で死ぬのは嫌だ。意味を見つける事無くまた土に埋まってしまうなんて最悪だ。でも……チハルと一緒なら、その間は常に意味を感じられる。いつ死んでも、その間の充実っぷりで……後悔なんて無い。


それに、チハルは人間だ。きっと……何かを見つける。俺の分も見つけてくれるだろうし、チハルが何かを見つけるのをサポートするのが俺の天命なのかもしれない。とにかく、俺達はロボットだ。本来の仕事を見つけなきゃ……ロボットでは無いぜ。意味も無く生きているだけなら……ただの金属製人形だ。その辺のビルにでも立てかけて置けばいい」


「……ぷっ! ……なるほどねっ! 人形か……。確かに、何もしないのなら……人形だ。かかしだ。地球からすれば……何も大差がない」


 リクスは立ち上がると、工房の奥へとぶつぶつ言いながら歩いていく。


「そうか……僕は……、そう、カメラ。侵入者をここで見張るただのカメラだったんだ。僕が壊れても……換えのカメラを取り付けたらいいだけ……あはは!」


奥に積みあがっていた、バケツや何に使うか分からないような物が山のように重なった場所の前で、リクスは振り返ってハルトに言った。


「僕の趣味はガラクタ作り。そのガラクタ作りも数年前に飽きてしまった、見張りしか出来そうに無いロボット。そして工房は汚い倉庫に成り果てている。……って奴らは思っている。完璧だろ?」


「完璧?」


 ハルトが顔を向けてそう言うと、リクスはゴミの山を蹴り飛ばす。崩れて埃が舞った中、散らかったゴミをリクスが横に片付けると、下から扉が現れた。


「僕も50年もの間、外へ出る夢を何度か見た事があった。……これは隠し倉庫。僕がここで長い間に集めた機材、材料、金属の他、制御系のフィルム基盤がある。コアチップやエネルギーカートリッジもね。これを使ってくれていいよ」


 リクスはそのまま工房を出て行った。ハルトは床の扉を開けると、地下へ続く階段があり、その先に使えそうな機材が積み上げられているのが見えた。


「おお、いけるぜ! これなら良い物が十分な量作れる!」


「これも使ってくれない?」


 リクスは小さな箱型の機械を持って戻ってきた。それを床に転がすと、足で踏み潰した。


「出来れば……溶かして弾丸にして欲しい。いや、別に何でも良い。とにかくそれを……ローグタウンの親玉、ジルマールに返しておいてくれないか」


「お前それ……無線機か? そのジルマールって奴の組織と連絡を取っていた…?」


「これはもう必要が無い。僕はここから離れる」


「……任せろ」


 ハルトの笑顔を見ると、リクスもその隣に座る。


「あと、チハルの銃を作るなら手伝わせてよ。僕はなぜか銃にだけは詳しいんだ」


「おう! 頼むぜ!」


 二人はロボットならではの急ピッチで作り始めた。






 ローグタウン。その中心部には、明らかに時間変動以降に作られたような要塞があった。崩れている場所どころか、ヒビひとつ建物には無く、その周囲には高い塀を張り巡らせてある。


 チハルはあの後、その場ですぐに金属の腕輪で後ろ手に拘束され、首に鉄の輪を付けられて引きずられた。そして、連れてこられたのがこの要塞の中でも一際広い一室だろうと思われるホールのような部屋だった。しかし飾り気などは一切無く、要塞に相応しい灰色で無機質な様子である。


チハルはその部屋の中ほどまで引き入れられる。


「久しぶりだな」

 

部屋の中央に大きな椅子が一つあり、それに座っている大柄の男が言った。体つきはハルトと同じように筋肉質であり、分厚い胸板があった。髪はオールバックに整えられており、無精ひげを生やしている。目つきは悪く、鋭く、いかにもと言う感じだった。


「何年ぶりだ?」


「……100年だ」


 チハルは裸のまま首輪、手かせと言う姿で、男の10mほど前に跪かされた姿勢で答えた。


「そうか、お前が逃げ出してからもうそんなに経つか! ハッハッハ」


 広い室内に男の低い声が響き渡った。チハルは人形の様な顔でそれを眺める。


「どうした? 相変わらず痛みを与えないと、表情も出さないか? チハルよ」


「お前も相変わらずお山の大将だな、ジルマール」


 言い放つと、チハルの鎖を持っていた兵士がライフルの柄でチハルの頭を殴った。チハルは腕を金属の輪で固定されているため、受身もとれず肩を石の床にぶつけた。兵士は鎖を引き、すぐにチハルを元の姿勢に戻す。そんなチハルを、ジルマールは愉快この上ないと言った顔で見ている。


「聞いているぞ。プラズマは今でも効かないらしいな。だが、今のも痛みは感じているんだろ?」


「だからどうした。昔のように拷問遊びでもしてみるか?」


「100年ぶりにそれもいいな。なんせ昔は、毎日のように死なないお前を拷問していたものだったしな」


 ジルマールは椅子から立ち上がり、チハルの目の前に立った。兵士から渡されたチハルの首に繋がる鎖を持ち、それに力を込める。チハルは鎖に引っ張られて無理やり立ち上がらされたかと思うと、すぐに足が地面から離れる。


「そらっ! 回れ! フハハハッ!」


 チハルはジルマールを軸として、投げ輪のように頭の上で回された。首にかかる負担は常人ではもちろん、ロボットであっても折れてしまうような負荷だ。チハルはうつろな目をして痛みに耐える。


「おおっと! 手が滑ったぁ!」


 片手でチハルを振り回していたジルマールだったが、その手からするりと鎖が抜けた。チハルは尋常では無い速さで飛んで行き、壁に背中から全身を打ちつけた。そして床へ頭から落ち、うつぶせに倒れると動かなかった。


「また後で遊んでやる! 連れて行け!」


 黒い姿の兵士はチハルの首輪に繋がる鎖を持つと、まるでゴミでも運ぶかのようにチハルをずるずると引きずって部屋から出て行った。その間中、ずっとジルマールの笑い声がホールに響いていた。




 翌日の朝。ハルトはリクスの工房前でバイクに跨っていた。


「本当にお前はこねーのか?」


 ハルトが顔を横向けて言うと、そばに立っていたリクスは首を振る。


「ああ……。僕はこれから自由に生きるが、別にジルマールたちに復讐したいわけじゃないからね。それに僕は力も並だし、走る早さも普通だ。行っても足手まといになる。やりたい事が見つかるかわからないけど、君達がいたと言うガストタウンにでもこれから行ってみるよ」


「わかった。じゃあ、これでもう会えないかもな。何かお前に目的が見つかれば良いな! 俺みたいに、チハルのためとかよっ!」


「……っ! 人のため……か。……そうだ、僕達に元々与えられた仕事があったとしても……それは結局の所、人間のためだったに違いない……ね」


「俺は本当は別の役目があったとしても、もうずっとチハルのボディーガードを優先するつもりだぜっ!」


「ボディーガードね。……そうだね。人間のそばにいたなら……きっと人間が仕事を与えてくれる。本来、僕達が作られた目的と相違があっても、関係ない。新しい仕事か……」


「それじゃ行ってくるぜ! ジルマールたちが消えたって噂聞いたらローグタウンにも行ってみろよな! またな!」


 バイクが小さくなるまで見送っていたリクスは、その後姿を見ながらつぶやいた。


「僕は直接の戦闘が得意じゃない。もし……君達みたいな頼れる前衛がいたなら……、僕は……もしかして力に……」


 リクスは踵を返して戻る。しかし、荷物をまとめに住居に入るかと思われたリクスは、再び工房の扉を開けた。


「よし……もう一頑張りするか! ハルトも気が付かなかったね。まさか……隠し倉庫の奥に、更に隠し倉庫があるとは思わなかったろうし……。あれを組み立て、調整して……」


 工房の扉が閉まり、しばらくすると中で作業する音が聞こえてきた。+





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