Act.11 小さな助け...
10m以上ある大型兵器『パダ1』は、人々を脅す範疇を超え、街を壊滅させるのかと言う程、手当たり次第動く物や目に付く建物を破壊する。それを建物の影から顔をしかめてハルトは見ていた。
「ボケたんじゃねーの。パダット爺さんは」
「この街で一番性質が悪かったのは、50年私のそばにいたあいつだったようだ」
「50年一緒にいたんだよな? ……何も無かったわけ? 一応男女なのに……」
「何があると言うのだ?」
「えっと……。ほら、裸になって……とか?」
「裸? 服を着ていない姿なら毎日のように見せていたが?」
「いや……あの……。ホントにアンタ人間?」
「ああ、人間だ。一応な」
壁からチハルはゆっくりと出た。右手のロングマシンガン、その銃口を空に向けて持ち、肩に寄りかからせ、パダ1を眺めながらゆっくりと進む。それに気が付いたパダットは、パダ1をチハルに向けた。
「チハル、仲間になる気になったのかの?」
「いや。それよりも大儲けのチャンスだ。私の目の前には宝の山がある。それをバラして、大金持ちになる」
「……お前の気持ちは良くわかったの。ゴミ拾いロボットは別に作るとするの」
パダ1は、両手を万歳するように上げた。そして、その指に生えている20本の触手を全てチハルに向かって振り下ろした。
[ガシ―――――ン!]
それを、太い鉄骨を重量挙げ選手のように持ち上げたハルトが全て受け止めた。鉄骨はぐにゃぐにゃになり、ハルトの足は地面に膝まで埋まる。
チハルは一歩も動かず、元の位置に悠然と立ったままだった。軽く後ろを振り返ると、ハルトは両手がふさがっているため、顔を歪めて唇を使い、進めとチハルに指示のような物を出している。
それを見ているチハルは、クスリと少し笑ったように見えた。
[ダッ!]
チハルはスタートを切ると、ものの数メートルでツバメのように影となり進む。パダ1の頭に生えている触手がチハルを襲うが、チハルのずっと後ろに突き刺さる。
「何をしても無駄だの。捕まえてコンクリートで固めて、海か地中深くに捨ててやるんだの!」
パダ1は触手で捕まえられないのがもどかしかったのか、右足を上げて、それでチハルを踏み潰しにかかった。
[ズドーン!]
土煙と砂埃が舞い上がる。チハルは振り下ろされた右足を駆け上がり、埃が消える時にはパダ1のへその辺りにぶら下がっていた。
「どこへ……。そこかの。そんなところで何をしているんだの? それに、わしがいるところは頭だの。もっと上だの」
「コステル! 今腕を返すぞ! 受け取れっ!」
チハルはパダ1の左わき腹に銃口をピタリとくっつけた。
[ガガガガガガガ………]
全弾打ち切り、チハルは空中で後ろに回転しながらパダ1から離れた。
「……だから、そんな古風な鉄の弾を飛ばすような銃など、この地球最強の兵器『パダ1』に効く訳が無いと言ったら…。ん?」
その瞬間、パダ1の体全体の色と輝きが少しくすんだ。
[バチンッ]
その音は、ハルトが触手に両手をかけ、抱き潰した音だった。
「今までよくも……。散々俺でナイスショット決めやがって……」
ハルトは両の掌から、青白いプラズマを炎のように出しながらパダ1に近づいていく。
チハルは、パダ1から逆に遠ざかって歩くと、くるりと向き直って言った。
「的が大きければ、ハルトは私以上に戦果を出せるぞ」
そのチハルの横をハルトは通り過ぎて、嬉しそうな顔でパダ1に近づいていく。
「どうやったんだのっ! どうして……、どうして内部にあったシールドユニットが破壊されているんだのっ! そんなわけないの! わしの設計にミスは無いはずだのっ!」
ようやくパダットの慌てた声が聞こえた。
自分の膝ほどの背丈しかないハルトに脅えるようにパダ1は後ろに下がる。そんなパダ1に、チハルは人差し指を向けて口を開いた。
「矢も3本集まれば、折れない。お前は3人を相手にしたから負けたんだ」
「さ……三人? チハルとハルト以外に誰がいるんだのっ?」
「……街の小さな英雄、コステルだ」
「………聞いたことないのっ!」
パダ1の両手の触手がハルトに向かって振り下ろされた。それに対してハルトは、自分の両手を上に上げる。ハルトの掌から立ち上がった青い火柱は、頭上から降ってくるパダ1の触手を溶解させた。
「ばっ……化け物だのっ……」
「お前に言われたくないぜっ!」
ハルトは空に伸ばしていた手を握り、こぶしを作るとそれをパダ1の膝に打ち下ろした。
[グシャッ!]
膝の内側から殴られた足は外側に向かって曲がる。パダ1はその巨体をグラリと傾かせた。
「ちょ……調子に乗るんじゃないんだのっ!」
パダ1はバランスを崩したまま、ハルトに向かって触手の無くなった右手をハエでも叩くかのように振り下ろしてきた。ハルトはそれを避け、地面に手を突いたパダ1の手首を肩に担ぎ上げた。
「うぉぉぉぉぉぉぅ!」
担いで走り、背負ったままハルトは自分の5倍以上の大きさのパダ1を投げ飛ばした。
[ドォ――――――ン]
背中から落ち、仰向けになっていたパダ1はすぐに立ち上がったが、体のあちこちから火花を散らしていた。自重が重すぎたせいでかなりのダメージを受けたようだった。
「お前らぁ! よくもやったのっ! 実はシールドを張っていたせいで使えなかった技もあるんだのっ! くらぇ!」
パダ1の頭についている触手が全てハルトに向けられる。その先がチューリップ花のように開いた。
「んなのきかねーって」
触手の先からプラズマ弾が発射された。しかし、ハルトは両腕を前にして構える。そこから現れた青く光る盾にプラズマ弾は全て弾かれた。
「まさか……。お前……。その体の大きさで電磁シールドを作り出せるのかのっ!」
「ふ……。俺がいつお前と同じシールドを作れないって言ったよ?」
「そう言えばパダットに教えるのを忘れていたな!」
ハルトの背中に足をつき、チハルは高く飛び上がった。そこから放たれる銃弾は、パダ1の胸に突き刺さっていく。パダ1は、火花をあげ、黒い煙を出し、小さな爆発音を幾つも上げた。
「鉄甲弾……。威力はプラズマ弾に遥かに及ばないが、その連射性……は……脅威かもしれないの……」
パダットの悲壮な声が響き、パダ1は両腕を重ねて胸への銃撃を食い止めようとする。
「任せろチハル! 行くぜ! プラズマ砲!」
ハルトは両手を胸の前で合わせた。すぐに合わせた掌から青白いプラズマが膨れ上がる。
「おらぁぁ!」
掌をパダ1に向けて突き出すと、そこから青白い光が放たれる。それはパダ1の両手を貫き、その背中から抜けていった。
「…………」
[ズシ―――――ン]
パダ1は仰向けに倒れた。すぐにチハルは走り寄り、兎のようにパダ1の体の上を跳ねながら、頭のまで行くと銃を向けた。
「出ろ、パダット。………………………?」
その大きな頭は無傷だと言うのに、パダットの返事は無かった。
[ガツッ]
チハルが頭を蹴ると、首はゴロンと横を向いた。
「しまったっ! パダットの奴!」
パダ1の後頭部は扉のように開いていた。最初パダットは正面から乗り込んだので、出入り口は正面だと思っていたが、脱出用にも扉を作っていようだった。
「さすが自称天才科学者。抜け目ねーな」
ハルトもそばに来ており、呆れた顔でパダ1を見ている。
「まったくだ」
チハルはパダ1から飛び降りると、銃を腰にかけてそう言った。
数日後。
チハルとハルトは街のはずれに立っていた。チハルは灰色のマントを着込み、ハルトはいつものように黒いロングダウンジャケットを羽織っていた。二人の目の前には何も無かったが、まるでそこに何か、誰かがいるようにチハルは話しかける。
「コステル。街の歴史に名は残らないが、お前は間違いなく街を救った。お前は……この街の役に立った」
チハルは懐から銀色の櫛を出し、それを投げて地面に突き刺した。
「墓石代わりか?」
「そう言うことだ」
ハルトはそばに置いてあったバイクに跨った。その後ろにチハルが飛び乗る。
「しっかし、薄情な街!」
「お前はともかく、私はパダットの仲間だったと思われても仕方が無い」
「でもパダ1は俺らが倒したのにな」
「それも……誰も見ていなかったのだから仕方が無い」
「アンタは50年住んでいた街に未練は無いわけ?」
「無いな」
「持ってきた荷物も……銃とナイフだけだもんな」
「あっ! そう言えば……」
「なんだよ?」
「シャワーには……未練があるな」
「やっぱ、街には無いのかよ……」
ハルトはバイクのエンジンをかけた。
「んじゃ、逃げたパダットを追いますか!」
「お前、本当に付き合う気か?」
「別に……チハルと同じさ。目の前の街から追い出され、行く当ても無く、する事も無い。それに、アンタには武器を作ってくれる相棒がいるだろ? 体は無敵だけど、力は無いんだから」
「まあな……。助かる」
「いいって、いいって! お礼のチューなんて良いって!」
「早く行け!」
チハルが肘で強く背中を押すと、ハルトは肩をすくめながら前を向いて返事をする。
「あいよっ」
バイクは砂埃を上げながら、北へと向かった。




