Act.10 シールドの穴...
「うぉぉぉぉ! 食らえっ!」
ハルトが持つ鉄骨は、パダ1の脛にめり込んだ。しかし、へこんだのは鉄骨だけで、動きの止まった一瞬でハルトは触手に殴りつけられる。
「でかいからって……調子にのんなよぉ!」
その動き回る触手にハルトはしがみついていた。触手を左腕で抱え、右の手刀を叩きつける。手ごたえは無く、そのまま振り回されると地面に叩きつけられた。
[キキキキ……キンッ]
チハルのナイフの先は、触手の表面で滑る。別の触手が頭上から襲うが、それを片方のナイフで受ける。もちろん真っ向から受け止めはせず、刃を滑らしてするりと触手をいなした。
次に飛び乗った触手の上で、また別の触手がチハルに向かって振り下ろされる。かわして触手同士の衝突を狙うチハルだが、パダットが乗ってからは触手が器用に曲がってお互いを避け、当たる事が無い。
「シシシッ! 賢いわしのコアチップが処理しているんだの。さっきまでと一緒にするんじゃないのっ! 何度も検証を重ね、弱点はないんだのっ!」
チハルも右から来た触手に跳ね飛ばされた。チハルの体は骨が折れたりはしないが、順の時間と逆の時間の僅かなタイムラグで、衝撃に伴う痛みが走る。
「よくもチハルをっ! プラズマ掌底!」
ハルトの掌は青く光り、右足を踏み出すと同時に右手も突き出した。やはり触手には効き目が無く、ハルトはゴルフボールのように打ち上げられた。
「チハルぅー。無理だぁー。おまけに、奴のエネルギーが切れる前にぃー、俺のエネルギーも切れてしまいそうだぜぇー」
ハルトはビルの4階の壁にめり込みながら、自分を見上げているチハルに向かって言う。
「弱点だ! それを探せ!」
「なこと言ってもさぁ……」
パダ1は少しチハル達から遠ざかるように移動をすると、また触手を使い周辺にいるロボット達を掴み上げている。
「街中じゃぁ……不利だぜ。誰もいない荒野なら勝てる気がするんだけどなぁ……。って、そんな場所にはあいつは現れないか……」
ぶつぶつ言いながら、壁から体を引き抜くハルト。チハルの方は何やら閃く事があった。
「……待てよ?」
チハルはパダ1に向かって一直線に走った。銃を抜き、今まさに餌とされるロボット達を突っ込もうとしているパダ1の口に狙いをつけた。
[ガガガガガガ……]
建物を蹴って飛び上がったチハルは銃を乱射する。だが、ロボット達は口の中に入っていくのに、チハルの弾は口に入る寸前に全て透明な壁に弾かれた。
「口の中が弱点だとでも思ったかの? そんなありがちな訳がないだろうのっ!」
パダ1の口から抜かれた触手がチハルに向かって飛んでくる。チハルは避けたが、すぐそばにあった建物はバラバラに破壊される。
「口のすぐ外を、透明な膜が覆うようにシールドが張られているのか……。触手も表面が硬い訳じゃなく、その僅か数ミリ外をシールドが覆っている……。簡単に言うと、水泡に覆われているロボット。外側の泡ぶくを破らなければ、ダメージを与えられない……」
「チハル! 俺の後ろでそんなに長く考え込まないでくれっ!」
[バキッ!]
「あーれー」
ハルトの後ろで考えを巡らせていたチハル。ハルトがまたゴルフボールのように飛ばされると、そこからすばやく動き、触手の的になるのを避ける。
「ハルト、教えてくれ」
壁に頭から突っ込んだハルト。チハルはその背中を叩きながら言った。
「痛ってぇ……。何を聞きたいんだよ」
ハルトは頭を抜くと、チハルに顔を向ける。
「しかしお前もタフだな……。それよりも、奴のシールド発生装置の場所は分かるか?」
「それは表面のエネルギーの流れでわかるけどさ、もちろんそれもシールドの中だぜ?」
「そこに集中攻撃をして……何とか破壊できるか?」
「出来るかもしれねーけどさ……。全身に、体だけで100箇所はあるぞ……」
「一箇所では無いのか……」
「だけど、シールドユニットは一つだと思う。そこから各発生装置にエネルギーを送っていると思うんだが……。残念ながら、体の中だから場所の特定は不可能だ。外からはわかんねー」
「そうか……。まさに弱点は無しか……」
「いや……待てよ。一箇所を破壊か……。一箇所を破壊すれば、そこに俺のナノロボットを放って、エネルギーの流れを辿って供給源のシールド発生ユニットの場所がどこにあるか分かるかもしれないぜ。ただ、分かったところで……。ナノロボットは調整再生が主な機能で、破壊活動のようなことは難しいんだけど……」
「とにかくこのままでは埒があかない。その作戦を実行し、とりあえず重要ユニットの場所を…っと!」
今度は二人ともそろって屈み、触手を避けた。
「チハル! 奴の太もも内側、赤く光っている小さな場所は見えるかっ?」
「見える! 右足行くぞ!」
二人は散り、円を描くように両側からパダ1の下半身へ迫った。
[シュッ!]
チハルはパダ1の右足の付け根にある5cm四方の赤いパネルに向かってナイフを投げる。
「うおぉぉぉぉ!」
ハルトはいつ拾ったのか、巨大な鉄骨をパダ1の太もも内側に向かって振り回した。
[ガッ!]
金槌で釘を打ち込むように、赤いパネルを割って、チハルのナイフがパダ1の太ももに打ち込まれた。追撃とばかりにその足に向かってチハルが銃を撃つ。
[ガガガガガガガ……]
シールドが一瞬消えたのは確かだった。パダ1の足には数発の弾丸が撃ち込まれたが、他のところからパワーが回されたのか、すぐさま張り直されたようでその後に続く弾丸を跳ね返した。
それを確認したチハルはハルトに視線を向ける。ハルトはチハルに向かって親指を立ててみせた。ナノロボットをパダ1の内側にウイルスのように忍び込ませるのに成功したようだった。
「時間はどれくらいかかる?」
再びハルトと合流したチハルが聞くと、ハルトはニヤリと笑った。
「そりゃもう、即座に。人間で言う左の腎臓の位置。大きさは大体1mの立方体。……パダットの野郎、俺と知り合ってまだ3週間。そんな急にナノロボットへの対策は出来なかったみたいだな」
「次も同じ手で行こう。左の腎臓付近を守る発生装置を破壊して、その僅かな隙に私が銃弾をシールドユニットに打ち込…」
「無理だ」
「どうしてだ?」
二人は同時に襲ってくる数本の触手を、残像を残すかのようなスピードで避ける。一旦距離をとり、触手の射程距離外にまで出ると、建物の影に隠れる。
「どうしてかっつーと、末端の手足と違って、パダットが入った頭から胴体にかけては不自然なほど発生装置が取り付けてある。恐らく今みたいなピンポイント一点突破への用心だろう。一箇所壊したところで、銃弾一発が通り抜けるまでの時間に、すぐ近くの発生装置がカバーするだろうな」
「そうか……。なら……もう内側から破壊するしかないな。ハルト、お前ちょっと行って食べられてきてくれ」
「やだよっ! 何言ってるんだ!」
「待てよ……。そう言えば、街のロボット達が食われた時、私の銃弾を跳ね返したように確かに口にはシールドが張ってあった。だが……捕まったロボット達はそれを通り抜けて口の中に放り込まれたぞ」
「……。そう言えば……それは変だ。…………ひょっとすると……」
「何だ? 私は電磁シールドに詳しくない。教えてくれ」
「電磁シールドは、それ自体は非常に強力だ。おまけに、便利でもある。例えば大昔からあるコンクリートの壁、これは誰もが通り抜けられない。しかし、電磁シールドは周波数を合わせた特定の物を通り抜けさせたり出来るんだ。俺に設定を合わせると、チハルにはどうしようも無い壁でも、俺には壁が無いのと同じになる」
「つまり、食べようとした物に周波数を合わせたわけか」
「恐らく触手で掴んだとき、ロボット達の材質や特性を調べ、それに波長を合わせたんだと思う」
「なら……食べようとする物相手には、その瞬間シールドが無効になるわけか。ハルトの足をちぎって食わせて、その一瞬の間にハルトがシールドユニットに向かってパンチを放てば、その腕はシールドの干渉を受けることなく……」
「絶対嫌だからなっ! 大体、そんな都合よく足だけを食ってくれるかって!」
「私は体の一部を分離させる事が出来ない。ハルトしか……。ん? ……体の一部?」
チハルは腰の後ろに手を回し、銃以外にぶら下がっている物に触れた。
「食べようとした物はシールドを通り抜ける。それを素通りできるようにシールドを変調するからだ。数時間前に……食べた物はどうなんだろうな? 奴は何十人とロボットを食べている。特性は人それぞれ。一回一回変調したシールドを戻しているだろうか? もし……穴を開けたままだったとしたら?」
「あるぜ。その可能性あるぜ! 全く同じ特性のロボットに出会うのは、人間で言う指紋と同じくらい低い確率だ。おまけにあいつは昨日から戦い通し。シールドをリセットしている可能性も低そうだぜ」
「これで……作れるか?」
「十分! 1カートリッジ分だな」
チハルはずっと持っていたコステルの腕をハルトに渡した。すぐにハルトは右手から少量のプラズマを出し、少年の小さな腕の金属を溶かして鉄甲弾を作りあげる。
「チハル! もう終わりかの? 相変わらずロボット以上に冷たい奴だの。わしはこの街を支配したいだけ。別にお前とそこまで本気で戦う気は無いのだの。仲間にして欲しいならいつでも言ってくるんだの。今までどおり、部品を拾い集めてくる働き蜂として使ってやるんだの」
パダ1に乗っているパダットは、周囲に向かって大きな声でそう言った後、
「わしはパダット。この街の王になる男だのっ!」
と言って、再び見境無く暴れ始めた。




