第34章:和解
気まずい喧嘩の数日後、教師の「私」は生徒のなるかにLINEで謝罪し、ステーキハウスでの食事を経て仲直りする。
数日越しの土曜日の朝、気まずさと少しの気負いを混ぜ合わせて、私はなるかにLINEを送った。
《この前はごめん。お詫びに飯でもいかないか?》
返事は思いのほか軽かった。
《いいよ?10時半にコンビニ来て》
約束の時間、指定された場所へ車を走らせると、なるかはすでに駐車場の隅でぽつんと立って待っていた。
「せんせ、おはよ」
「おはよう。この前はごめんね」
「ほんとだよ! 引き止めないでそのまま帰るんだもん!」
不服そうにふうっと頬を膨らませる彼女の横顔をみて、私は心の中で小さく息をつく。子供っぽいその仕草に少しだけホッとしてしまう自分のずるさが嫌だった。
「お詫びに好きなものご馳走するよ」
「やった!」
単純に目を輝かせる彼女のリクエストで、私たちは以前にも一度連れてきて気に入ってくれたステーキハウスへ向かった。
肉を切り分け、他愛のない冗談を言い合っているうちに、あの日車内で尖らせていた空気は嘘のように溶けていく。満たされたお腹を抱えて店を出ると、まだ昼下がりの陽射しがアスファルトを白く照らしていた。
「なるか? 喧嘩しちゃってたしさ、今日はゆっくりなるかと2人きりで過ごしたいな」
彼女は少しだけ首を傾げ、それからふふっと笑った。
「いいよ?」
その軽やかな返事に背中を押されるように、私たちはそのまま、まるで南国のリゾートを模したような隠れ家的なホテルへと足を踏み入れたのだった。
部屋に入り、画面の端で勝手に点滅する退屈な商用バナーを親指で適当に消去した。それと同時に、私たちは一斉にライターを鳴らしてタバコに火をつけた。細い煙が白くよじれて、すぐに天井のほうへ消えていく。
積もる話なんて本当はいくらでもあるはずなのに、いざ向き合うとどこから切り出していいか分からなくなる。それでも私たちは、お互いの考えていることや、隠しておきたい感情を一つひとつ言葉にして確かめ合った。そうやって形にした澱のようなものを全部吐き出し終えると、あとはもうどうでもよくなって、くだらない馬鹿話でゲラゲラと笑い合う。いつの間にか緊張の糸はほどけ、私たちはそのまま、まるで吸い寄せられるように柔らかいベッドのなへと溶けていったのだった。




